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130話「ウタのほっこりできる時間」
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ラブブラブブラブラ族の村を出て、私たち三人は山道を行く。
穏やかな光が射す道を歩くのはいつ以来だろう。最後に光を浴びたのはいつだったか、もうはっきりとは思い出せない。が、とても温かい気持ちになってくる。
光は希望。それは、今の私たちに、一番必要なものだ。
「いいわね、光」
人気のない道を歩きながら、私は何となく呟く。
すると、ウィクトルとリベルテがほぼ同時にこちらへ視線を向けてきた。
「どうした」
先に口を開いたのはウィクトル。
彼は不思議な生き物を見るような目で私を見ている。
「変よね。ごめんなさい、いきなり」
「いや、間違ったことは言っていない。しばらく光を浴びることができなかったからな」
一応理解を示してくれるところには優しさを感じた。
「やはり光は素晴らしいですよね! リベルテも光は好きです!」
翡翠のような色の空は、心優しい女神のように、穏やかな視線を地上に注いでいる。それゆえ、こうしてただ歩いているだけでも、そっと見守られているような気分になるのだ。人の世の乱れによって心にこびりついた穢れを、降り注ぐ光は洗い流してくれる。
「主もお好きでございますか?」
「あぁ、そうだな。嫌いではない」
ウィクトルは漆黒のマントをまとっているし、それがよく似合っている。だから、明るい場所を好む人にはとても見えない。が、彼もまた光を好んでいるのだとしたら、「外見で人は分からない」というのもあながち間違ってはいないのかもしれないと思えてくる。
「へぇ。ウィクトルも明るいところが好きなのね」
「……なぜ意外そうに言う?」
「本当のことを言うなら、私、貴方が明るみを好む人間だとは思っていなかったの」
するとウィクトルは、ふっ、と笑みをこぼす。
「人殺しだから、か?」
私は一瞬不安になった。不快にさせてしまったかもしれないと思って。けれども、改めて彼の顔を見てみたら、彼が不快感を抱いていないことはすぐに分かった。なぜって、彼は笑っていたから。
「イメージかしら」
「そうだな。私はよくそういうことを言われる。昔から、な」
「え。そうなの?」
「あぁ。不気味だとよく言われる」
確かに、ウィクトルはどことなく不気味さをまとっているようにも見える。
あくまで、彼の性格を知らなければ、だが。
「……服装が黒っぽいからかしらね?」
「髪もな」
久々に歩く外でこんな風に言葉を交わしていると、何だかほっこりしてくる。何もかもが終わったわけではないし、世が平和になったわけでもないけれど。それでも、今は少し落ち着いて、光を浴びることができる気がするのだ。
「リベルテ。部隊の者たちはどうなった?」
「一時的に解散させておりますよ」
ウィクトルの問いに、リベルテはすぐさま答える。
「そうか。皆無事だと良いのだが」
「リベルテが知る範囲では、でございますが、死亡者は出ておりません」
「なら良かった」
白い体の小さな鳥が、数羽、木の幹から飛び立つ。
力強く羽ばたき、遥か彼方へと飛び去っていった。
「で、私たちはどこへ向かっている?」
私たちが歩いているのは、一応道になってはいる道。だが、人通りはほとんどない、寂れた山道だ。草木が生い茂っている中を進んでゆくよりかは歩きやすいので足腰への負担はそこまで大きくないけれど、いつまで歩き続けるのかという不安がないわけではない。
「隣の小国ファルシエラへ」
「……徒歩でたどり着ける距離か? そこは」
リベルテの発した答えに、ウィクトルは奇妙なものを見たような顔をする。
「迎えに来ていただく予定でございますから、安心なさって下さい」
「なるほど。では、今は、迎えの場所へ向かっているのだな」
「はい。準備は既に済んでおります」
未来はまだはっきりとは見えない。それでも、私たちは進んでゆく。
「ぐぅあっはっハッハ! 見つけたゼェ!」
突如そんな声が響いたのは、山道を歩き続けて数時間が経った頃だった。
声の主は男。髪もヒゲも手入れしておらずほぼ伸びっぱなしで、防具は身につけていない、山賊のような印象の人。
「お前が噂の帝国軍から逃げ出した奴だナァ!?」
男はウィクトルのことを少しは知っているようだった。
「知ってるカァ? お前を帝国に突き出せば、今までの罪はぜーんぶなかったことにしてくれるんだってヨ! 新しい皇帝はやるナァ!!」
……新しい皇帝?
その言い方が妙に引っかかっていたら、リベルテが「新しい皇帝? どういうことです」と尋ねた。リベルテも私と同じでそこが気になったようだ。
「知らねぇのカァ? ついこの前、皇帝が変わったんだヨォ!」
「……ビタリーという男に?」
リベルテは両の眉を寄せながら口を挟む。
「そうだそうだ! 確かそんな名前だったゼェ! 若ーい男だヨゥ。でな! その皇帝は、特定の人物を捕まえたら、その功績に免じて今までの罪を消す決まりを作った! ぐぅあっはっハッハ! ノリいいゼェ!」
男は太い指でヒゲだらけの顎を豪快に掻く。
蒸れて痒くなっているのだろうか。
「ってなわけダァ。そこの黒い髪の男ォ! 覚悟しロォ!」
威勢よく叫んだ瞬間、どこからともなく男たちが現れる。恐らくは、木々の隙間に隠れていたのだろう。しかも、その男たちは、皆武器を持っている。
「……囲まれています、主。どう致しましょう」
「片付けるしかないか」
リベルテとウィクトルは落ち着いた調子で言葉を交わす。
「私、何かできる?」
「ウタくんは動いては駄目だ。じっとしていてくれ」
「そう……」
何か力になれることがあるなら協力したかったけれど、きっとそれは叶わない願いなのだろう。私には結局歌しかない。歌では戦えないから、こういう場面においては私は無力だ。
リベルテは術書を、ウィクトルはレイピアを、それぞれ手に持ち構える。
「オラァ! 全員でかかレェ!」
叫びを合図に、男たちが一斉に襲いかかってくる。
リベルテは植物の蔓のようなものを出現させる術を行使し、迫りくる敵を退ける。蔓は一本だけではなく数本出現させることができるようで、そのため、同時に幾人もの相手をすることができるみたいだ。敵の数が多いこの状況においては、非常に有能な術である。
穏やかな光が射す道を歩くのはいつ以来だろう。最後に光を浴びたのはいつだったか、もうはっきりとは思い出せない。が、とても温かい気持ちになってくる。
光は希望。それは、今の私たちに、一番必要なものだ。
「いいわね、光」
人気のない道を歩きながら、私は何となく呟く。
すると、ウィクトルとリベルテがほぼ同時にこちらへ視線を向けてきた。
「どうした」
先に口を開いたのはウィクトル。
彼は不思議な生き物を見るような目で私を見ている。
「変よね。ごめんなさい、いきなり」
「いや、間違ったことは言っていない。しばらく光を浴びることができなかったからな」
一応理解を示してくれるところには優しさを感じた。
「やはり光は素晴らしいですよね! リベルテも光は好きです!」
翡翠のような色の空は、心優しい女神のように、穏やかな視線を地上に注いでいる。それゆえ、こうしてただ歩いているだけでも、そっと見守られているような気分になるのだ。人の世の乱れによって心にこびりついた穢れを、降り注ぐ光は洗い流してくれる。
「主もお好きでございますか?」
「あぁ、そうだな。嫌いではない」
ウィクトルは漆黒のマントをまとっているし、それがよく似合っている。だから、明るい場所を好む人にはとても見えない。が、彼もまた光を好んでいるのだとしたら、「外見で人は分からない」というのもあながち間違ってはいないのかもしれないと思えてくる。
「へぇ。ウィクトルも明るいところが好きなのね」
「……なぜ意外そうに言う?」
「本当のことを言うなら、私、貴方が明るみを好む人間だとは思っていなかったの」
するとウィクトルは、ふっ、と笑みをこぼす。
「人殺しだから、か?」
私は一瞬不安になった。不快にさせてしまったかもしれないと思って。けれども、改めて彼の顔を見てみたら、彼が不快感を抱いていないことはすぐに分かった。なぜって、彼は笑っていたから。
「イメージかしら」
「そうだな。私はよくそういうことを言われる。昔から、な」
「え。そうなの?」
「あぁ。不気味だとよく言われる」
確かに、ウィクトルはどことなく不気味さをまとっているようにも見える。
あくまで、彼の性格を知らなければ、だが。
「……服装が黒っぽいからかしらね?」
「髪もな」
久々に歩く外でこんな風に言葉を交わしていると、何だかほっこりしてくる。何もかもが終わったわけではないし、世が平和になったわけでもないけれど。それでも、今は少し落ち着いて、光を浴びることができる気がするのだ。
「リベルテ。部隊の者たちはどうなった?」
「一時的に解散させておりますよ」
ウィクトルの問いに、リベルテはすぐさま答える。
「そうか。皆無事だと良いのだが」
「リベルテが知る範囲では、でございますが、死亡者は出ておりません」
「なら良かった」
白い体の小さな鳥が、数羽、木の幹から飛び立つ。
力強く羽ばたき、遥か彼方へと飛び去っていった。
「で、私たちはどこへ向かっている?」
私たちが歩いているのは、一応道になってはいる道。だが、人通りはほとんどない、寂れた山道だ。草木が生い茂っている中を進んでゆくよりかは歩きやすいので足腰への負担はそこまで大きくないけれど、いつまで歩き続けるのかという不安がないわけではない。
「隣の小国ファルシエラへ」
「……徒歩でたどり着ける距離か? そこは」
リベルテの発した答えに、ウィクトルは奇妙なものを見たような顔をする。
「迎えに来ていただく予定でございますから、安心なさって下さい」
「なるほど。では、今は、迎えの場所へ向かっているのだな」
「はい。準備は既に済んでおります」
未来はまだはっきりとは見えない。それでも、私たちは進んでゆく。
「ぐぅあっはっハッハ! 見つけたゼェ!」
突如そんな声が響いたのは、山道を歩き続けて数時間が経った頃だった。
声の主は男。髪もヒゲも手入れしておらずほぼ伸びっぱなしで、防具は身につけていない、山賊のような印象の人。
「お前が噂の帝国軍から逃げ出した奴だナァ!?」
男はウィクトルのことを少しは知っているようだった。
「知ってるカァ? お前を帝国に突き出せば、今までの罪はぜーんぶなかったことにしてくれるんだってヨ! 新しい皇帝はやるナァ!!」
……新しい皇帝?
その言い方が妙に引っかかっていたら、リベルテが「新しい皇帝? どういうことです」と尋ねた。リベルテも私と同じでそこが気になったようだ。
「知らねぇのカァ? ついこの前、皇帝が変わったんだヨォ!」
「……ビタリーという男に?」
リベルテは両の眉を寄せながら口を挟む。
「そうだそうだ! 確かそんな名前だったゼェ! 若ーい男だヨゥ。でな! その皇帝は、特定の人物を捕まえたら、その功績に免じて今までの罪を消す決まりを作った! ぐぅあっはっハッハ! ノリいいゼェ!」
男は太い指でヒゲだらけの顎を豪快に掻く。
蒸れて痒くなっているのだろうか。
「ってなわけダァ。そこの黒い髪の男ォ! 覚悟しロォ!」
威勢よく叫んだ瞬間、どこからともなく男たちが現れる。恐らくは、木々の隙間に隠れていたのだろう。しかも、その男たちは、皆武器を持っている。
「……囲まれています、主。どう致しましょう」
「片付けるしかないか」
リベルテとウィクトルは落ち着いた調子で言葉を交わす。
「私、何かできる?」
「ウタくんは動いては駄目だ。じっとしていてくれ」
「そう……」
何か力になれることがあるなら協力したかったけれど、きっとそれは叶わない願いなのだろう。私には結局歌しかない。歌では戦えないから、こういう場面においては私は無力だ。
リベルテは術書を、ウィクトルはレイピアを、それぞれ手に持ち構える。
「オラァ! 全員でかかレェ!」
叫びを合図に、男たちが一斉に襲いかかってくる。
リベルテは植物の蔓のようなものを出現させる術を行使し、迫りくる敵を退ける。蔓は一本だけではなく数本出現させることができるようで、そのため、同時に幾人もの相手をすることができるみたいだ。敵の数が多いこの状況においては、非常に有能な術である。
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