奇跡の歌姫

四季

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131話「リベルテの術と戦闘」

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 草木の隙間から現れた男たちの相手はリベルテが行っている。彼は、蔓を出し振り回す術で、大勢の敵を見事に翻弄していた。リベルテ自身は小柄だが、術を器用に使うことによって、大きな体の男たちとも互角の戦いを繰り広げられている。迷いや躊躇いがない、それが大きいと言えるだろう。

「狙いはテメェダァ!」

 ウィクトルに迫ってくるのは、最初の男。
 この不審者集団のリーダー格と思われるその男は、刃が波打った形状になっている大きな剣を握り、ウィクトルに向かって一直線に進んでくる。

「死ねェ!」

 男は大きく振りかぶって、ウィクトルに向けて剣を振り下ろす。が、ウィクトルは即座に反応。レイピアを振り上げて、剣を弾き返す。銀色の刃と刃がぶつかり、甲高い音が空気を掻く。

「死ぬ気はない」
「アァッ!? ふざけやがってェッ!!」

 男も素人ではないようだ、即座に次の動きに移る。剣を弾かれても動揺せず、すぐに再び攻撃を仕掛ける。しかし、ウィクトルの反応速度も極めて遅いことはなく、レイピアの持ち手の部分を使って確実に防いでいく。

 また仕掛けるか? と様子を見ていると。
 男の瞳がこちらへ向いた。

「え」

 それまで男は私の方は見ていなかった。男の獣のような双眸は、ターゲットであるウィクトルだけを捉えていたのだ。

 だが、今、それは変わって。
 男の獣のような目から放たれる視線が、こちらへ突き刺さる。

「ついでに死ねェ!」

 私は反射的に「ええっ!?」と発してしまう。
 男が私を殺しにかかってくるとは想像していなかったから、驚いて。

「下がれ!」

 男が襲いかかってきた瞬間、ウィクトルが間に入った。
 彼は即座に剣を持った手を動かし、男の攻撃をまた防ぐ。

 ——が、直後。

「……っ!?」

 ウィクトルの右肩に矢が刺さった。
 どこから飛んできたのか、確認する暇はない。

「今度こそ死ねェッ!!」

 男は悪魔のような叫びを放ちつつ、剣を振り下ろす。
 ウィクトルは左腕を胸の前へ出した。

「……アァ? 腕で体を護っただトォ?」

 男の剣による一撃はウィクトルの左腕に命中。刃は、その腕を縦向けに切り裂いていた。ウィクトルの腕からは赤いものが滴り落ちる。

「ウィクトル、大丈夫!?」
「あぁ。運が良かった、傷は浅い」

 袖は破れ、皮膚は裂け、降り始めた雨のように赤い液体が地面にこぼれ落ちている。けれど、ウィクトルの表情にはまだ余裕があった。無論、多少の無理はしているのだろうが。

「とても大丈夫には見えないけど……本当に平気?」
「もちろん」
「ならいいけど……どうか無理はしないで」
「そうだな。無理せず叩き潰すとしよう」

 無理せず叩き潰す?
 表現がいまいちよく分からない。

「甘い! 甘いナァ!」
「……何だと?」
「切り傷は浅くとモォ! 矢が刺さった時点でテメェは負けてるんだヨォ!」

 矢に何か仕掛けが? もしかして毒でも塗ってある?

 私は自分の中で色々考えながら「何か変?」とウィクトルに尋ねてみる。すると彼は「いや」と返してきた。彼の右手はそれまでと変わらずレイピアを握ったまま。特に様子に変化はない。

 でも、なぜだろう。嫌な予感がする。

「私に勝った気になるのは、まだ早い」

 ウィクトルは冷ややかに言い放ち、レイピアで突きを繰り出す。男は体を捻って回避。しかしウィクトルの攻撃は止まらない。ウィクトルは、突きを基本として時折切りつけを交えながら、攻撃を続ける。これまでは防御に回っている傾向があったが、ようやく積極的な攻めに出始めたみたいだ。

「こちらは片付きましたよ」

 振り返ると、穏やかな笑みをたたえるリベルテが立っていた。
 彼の向こう側には、屈強な男が何人も倒れ込んでいるのが見える。熊のような男たちが力なく倒れているその様は、滑稽というか何というか。とにかく、実に不思議な光景だ。

「リベルテ。倒したのね」
「はい!」
「素晴らしいわ。強いのね」
「いえいえ」

 どこからともなく湧いてきた男たちをリベルテが片付けてくれたことで、ウィクトルが対峙する相手が減った。それはかなり大きいことだ。リベルテの仕事内容は見事なものである。

「強いのね、貴方って」
「え! ……そ、そんなことはございません。その……リベルテは、強くなんて」

 リベルテは恥ずかしげもなく恥じらいを露わにしている。頬が真っ赤だ。

「強いわ。見事よ」
「あ、ありがとうございます……。それは、その、嬉しいです……」

 リーダー格以外の男たちをリベルテが倒し安堵したのも束の間。
 背後から聞こえてきた声に、衝撃が走る。

「見たかァ!!」

 リーダー格の男がウィクトルを地面にねじ伏せていたのだった。

「ウィクトル!」
「主!」

 私とリベルテはほぼ同時に叫んでしまう。

 叫ぶことに意味などないのだが。

 ヒゲの濃いリーダー格の男は、ウィクトルの体を地に押し付けて、勝ち誇ったような黒い笑みを口もとに滲ませている。一方ウィクトルはというと、驚いたような顔をしたまま動かない——いや、恐らく、動かないのではなく動けないのだろう。

「山賊の間じゃ有名なんだゼェ? テメェはな。なんせ、テメェに消された仲間も多いからナァ」

 リベルテは愕然としながら、ねじ伏せられているウィクトルを見つめていた。

「話によりゃ、ちょっとぐれぇ傷物にしてから差し出しても問題ないらしいんでナァ。ちょーっぴりやってやるゼェ」

 男は汚らしい笑みを浮かべ、舌で唇をぺろりと舐めてから、転がっていたウィクトルのレイピアを掴む。そして、その鋭い先端をウィクトルの右手の甲へ突き立てる。

「苦しめェ!」

 手の甲に剣の先を刺されたのだ、痛くないはずがない。いくら苦痛に慣れているウィクトルだとしても、刺されれば多少は反応するはずだ。しかし、予想以上に反応がない。気絶しているわけではないから、痛みはあるはずなのに。

「……無駄だ」

 ウィクトルは低い声で呟く。

「な。何だとッ!? 強がりもいい加減にしろヨォッ!?」
「感覚のない手を刺されたところで苦痛などない。……順を逆にすべきだったな」
「し、しまった! 麻痺させてたからカァ!」

 男は目を大きく開き動揺する。ウィクトルは、そのタイミングを待っていた。彼は唯一自由になっている片足を勢いよく振り上げ、男のヒゲに包まれた顎を蹴る。

「アブゥスィッ!!」
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