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152話「ラインの故郷のカフェ」
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緑寄りの青の空は澄んでいる。あの広大な天に、雲は一つもない。
まだ砂利が残る中途半端な舗装しかされていない道が、見る者に素朴な印象を与える。
アダルザスは決して都会といった印象の町ではなかった。
人口が少ないからか、歩いている人を見かけることも多くはないのだ。
そんな町中を、私は、アイーナに案内されて歩く。車から降りてからは徒歩。足の裏に小さな粒の感触があった。
「アイーナさん、これからどこへ?」
ラインの母親であるアイーナは淑女だった。
派手な見た目ではないし、華やかでもないし、別段若々しく見えるわけでもない。けれども、どことなく品の良さを感じさせる。
「昼食でもどうかと思いまして」
「レストランにでも……行くつもりですか?」
「そうですね。そんな感じです」
言われてみれば、お腹が空いているような気もする。
自動運転車に乗っている間は特に何も食べていなかった。
「……ありがとうございます。嬉しいです」
私はそっと礼を述べ、彼女の背中を追うように歩く。
アイーナに案内されるままに歩き、たどり着いたのは町の端にあるカフェ。
屋根の部分は昆布色を薄めたような色の藁で造られていて、その他は木材を組み合わせて造られている、頑丈さは欠いていそうな建物だ。
中へ入ると、独特の内装に驚く。
椅子と丸テーブルが置かれている、というところは、カフェらしいと言えるだろう。それらは別段驚くようなものでもない。だが、壁に掛けられている時計や飾られている置物は、独特さを感じさせる物がほとんどだった。
店内に入ってそのまま直進するとぶち当たる位置の壁の上側に掛けられている時計は、蛇のデザイン。時計の重要な部位たる円盤はきっちり存在しているのだが、その他の部分が衝撃的過ぎて、円盤にまで意識を向けられない状態だ。円盤の上には、蛇の正面顔が大きくついている。また、円盤の周囲には、細めの蛇が巻き付いているようなデザインになっていた。
「蛇デザインの物が凄く多いですね……」
モチーフが蛇なのは、時計だけではない。飾られている置物の多くも、蛇と何らかの関連がある形をしている。全部が、とは言わないが。ただ、九割くらいは蛇関連の置物である。
蛇嫌いが来店したら発狂しそうだ。
「はい。ウタさんはご存じないかもしれませんが……このカフェは『ヘ・ビー』という店名ですので」
そのままだ、名称が。
「……じゃあ、本当に蛇がテーマで?」
「そのようですね。噂によれば、数百年以上の歴史を持つカフェだそうですよ。私も詳しくはないのですが」
数百年以上の歴史、というところに驚いた。
そんなカフェが存在していたなんて信じられない。
「ひとまず座りましょうか」
「あ、はい」
店内は静かだ。客は多くない。一番奥の窓際の二人席に一人で座っているおじいさんがいるのと、入ってすぐ左手側の四人席に女性二人組がいるのと、そのくらいだけだ。
アイーナに促され、私はすぐ近くの席に座った。
すると店員の女性がやって来て、「いらっしゃいませ」と声をかけてくれる。彼女は無料の水と共に、メニューも持ってきてくれていた。茶色のカバーがついた、少々重量感のあるメニューである。
「好きなものをどうぞ」
「え……あの、アイーナさん?」
「何でしょう」
「私、そんなに大きなお金は持ってきていません」
どこかで使うかもしれないから、と、一応少しのお金は持ってきた。それゆえ、所持金がゼロというわけではない。だが、あくまで緊急時に使えるようにと持ってきただけなので、店によっては食事代を払えるかどうかはっきりしないのだ。高級店だと困ってしまう。
「それは問題ありません。代金はこちらで支払います」
「そんな……」
「良いのです。こちらが頼んで来てもらっているのですから。さぁ、好きなものを選んで下さい」
所持金の心配はしなくていいみたいだった。
払ってもらえるというのなら、少しだけだが安堵できる。
早速メニューを開いた。
カフェという名称なだけあって、甘いもの系と食事系が両方存在している。もちろんコーヒーなる飲み物も用意されているようだ。ドリンクだけでも色々なものが載っているので、迷わずにはいられない。
「えっと……おすすめの品はありますか?」
自力では決めきれないと判断し、アイーナに意見を求めることにした。
「そうですね。ヘ・ビーブレンドなんてどうでしょう」
「コーヒーですか?」
「いえ。紅茶のような飲み物です」
紅茶系の飲料であるならば、それほど苦くはないだろう。
それなら飲めるかもしれない。
「では、それにします」
「あとはお食事ですね? ウタさん、お菓子の方が良いですか」
「食事でお願いしたいです」
こればかりは即答。
というのも、しばらく何も食べていなくて空腹なのだ。
「そうですか。では、これなんかはどうでしょう」
言ってアイーナが指で示したのは、黄色い物体の写真。
柔らかい黄色の楕円形の物体があって、そこに赤と白の線が描かれている。そんな料理だ。
「それは?」
物体の正体を把握できなかったので、質問してみた。
「オムそば、なるものです」
「オムレツの仲間ですか?」
「そんな感じですね。オムレツの中に焼きそばが入っています」
「へぇ……!」
その後、アイーナが店員を呼んでくれる。そこで注文を告げ、待つこと十分。注文していた品が席に届いた。
私は、冷たいヘ・ビーブレンドとオムそば。
アイーナは、温かいヘ・ビーブレンドとクッキー三種盛り合わせ。
夜の湖畔のように静かな店内で、私とアイーナは、食事と会話を少しばかり楽しんだ。
食事を終え、店から出る。
腹は十分満たされた。
ここからもまたアイーナの案内に従うことにしよう。
「これからはどうするのですか?」
次のことばかり言ったらせっかちと思われかねないが、思いきって尋ねてみた。
「ラインのところへ案内します」
「……お墓、ですか?」
「そうですね、そんな感じです。我が家ですが」
そこへ行って、歌を歌えば良いのだろうか。
まだ砂利が残る中途半端な舗装しかされていない道が、見る者に素朴な印象を与える。
アダルザスは決して都会といった印象の町ではなかった。
人口が少ないからか、歩いている人を見かけることも多くはないのだ。
そんな町中を、私は、アイーナに案内されて歩く。車から降りてからは徒歩。足の裏に小さな粒の感触があった。
「アイーナさん、これからどこへ?」
ラインの母親であるアイーナは淑女だった。
派手な見た目ではないし、華やかでもないし、別段若々しく見えるわけでもない。けれども、どことなく品の良さを感じさせる。
「昼食でもどうかと思いまして」
「レストランにでも……行くつもりですか?」
「そうですね。そんな感じです」
言われてみれば、お腹が空いているような気もする。
自動運転車に乗っている間は特に何も食べていなかった。
「……ありがとうございます。嬉しいです」
私はそっと礼を述べ、彼女の背中を追うように歩く。
アイーナに案内されるままに歩き、たどり着いたのは町の端にあるカフェ。
屋根の部分は昆布色を薄めたような色の藁で造られていて、その他は木材を組み合わせて造られている、頑丈さは欠いていそうな建物だ。
中へ入ると、独特の内装に驚く。
椅子と丸テーブルが置かれている、というところは、カフェらしいと言えるだろう。それらは別段驚くようなものでもない。だが、壁に掛けられている時計や飾られている置物は、独特さを感じさせる物がほとんどだった。
店内に入ってそのまま直進するとぶち当たる位置の壁の上側に掛けられている時計は、蛇のデザイン。時計の重要な部位たる円盤はきっちり存在しているのだが、その他の部分が衝撃的過ぎて、円盤にまで意識を向けられない状態だ。円盤の上には、蛇の正面顔が大きくついている。また、円盤の周囲には、細めの蛇が巻き付いているようなデザインになっていた。
「蛇デザインの物が凄く多いですね……」
モチーフが蛇なのは、時計だけではない。飾られている置物の多くも、蛇と何らかの関連がある形をしている。全部が、とは言わないが。ただ、九割くらいは蛇関連の置物である。
蛇嫌いが来店したら発狂しそうだ。
「はい。ウタさんはご存じないかもしれませんが……このカフェは『ヘ・ビー』という店名ですので」
そのままだ、名称が。
「……じゃあ、本当に蛇がテーマで?」
「そのようですね。噂によれば、数百年以上の歴史を持つカフェだそうですよ。私も詳しくはないのですが」
数百年以上の歴史、というところに驚いた。
そんなカフェが存在していたなんて信じられない。
「ひとまず座りましょうか」
「あ、はい」
店内は静かだ。客は多くない。一番奥の窓際の二人席に一人で座っているおじいさんがいるのと、入ってすぐ左手側の四人席に女性二人組がいるのと、そのくらいだけだ。
アイーナに促され、私はすぐ近くの席に座った。
すると店員の女性がやって来て、「いらっしゃいませ」と声をかけてくれる。彼女は無料の水と共に、メニューも持ってきてくれていた。茶色のカバーがついた、少々重量感のあるメニューである。
「好きなものをどうぞ」
「え……あの、アイーナさん?」
「何でしょう」
「私、そんなに大きなお金は持ってきていません」
どこかで使うかもしれないから、と、一応少しのお金は持ってきた。それゆえ、所持金がゼロというわけではない。だが、あくまで緊急時に使えるようにと持ってきただけなので、店によっては食事代を払えるかどうかはっきりしないのだ。高級店だと困ってしまう。
「それは問題ありません。代金はこちらで支払います」
「そんな……」
「良いのです。こちらが頼んで来てもらっているのですから。さぁ、好きなものを選んで下さい」
所持金の心配はしなくていいみたいだった。
払ってもらえるというのなら、少しだけだが安堵できる。
早速メニューを開いた。
カフェという名称なだけあって、甘いもの系と食事系が両方存在している。もちろんコーヒーなる飲み物も用意されているようだ。ドリンクだけでも色々なものが載っているので、迷わずにはいられない。
「えっと……おすすめの品はありますか?」
自力では決めきれないと判断し、アイーナに意見を求めることにした。
「そうですね。ヘ・ビーブレンドなんてどうでしょう」
「コーヒーですか?」
「いえ。紅茶のような飲み物です」
紅茶系の飲料であるならば、それほど苦くはないだろう。
それなら飲めるかもしれない。
「では、それにします」
「あとはお食事ですね? ウタさん、お菓子の方が良いですか」
「食事でお願いしたいです」
こればかりは即答。
というのも、しばらく何も食べていなくて空腹なのだ。
「そうですか。では、これなんかはどうでしょう」
言ってアイーナが指で示したのは、黄色い物体の写真。
柔らかい黄色の楕円形の物体があって、そこに赤と白の線が描かれている。そんな料理だ。
「それは?」
物体の正体を把握できなかったので、質問してみた。
「オムそば、なるものです」
「オムレツの仲間ですか?」
「そんな感じですね。オムレツの中に焼きそばが入っています」
「へぇ……!」
その後、アイーナが店員を呼んでくれる。そこで注文を告げ、待つこと十分。注文していた品が席に届いた。
私は、冷たいヘ・ビーブレンドとオムそば。
アイーナは、温かいヘ・ビーブレンドとクッキー三種盛り合わせ。
夜の湖畔のように静かな店内で、私とアイーナは、食事と会話を少しばかり楽しんだ。
食事を終え、店から出る。
腹は十分満たされた。
ここからもまたアイーナの案内に従うことにしよう。
「これからはどうするのですか?」
次のことばかり言ったらせっかちと思われかねないが、思いきって尋ねてみた。
「ラインのところへ案内します」
「……お墓、ですか?」
「そうですね、そんな感じです。我が家ですが」
そこへ行って、歌を歌えば良いのだろうか。
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