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154話「ビタリーの戦闘」
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ウタがアイーナと別れウィクトルたちがいるところへ戻っていっていたちょうどその頃、ビタリーとカマカニは木々の多い場所に隠れつつ待機していた。
移動に使用していた車はまだ所持したままだが、今は二人とも降車している。木々に覆われた土の匂いのする場所で、二人はじっとしているのだ。
ちなみに、現在彼らがいるのは、一時より帝国に近い位置。
数々の戦いの中で、キエル軍は押し戻されつつあるのである。
「旦那ぁ……そろそろ帰った方がいいんじゃないっすかぁ……?」
メイド風のワンピースを着たカマカニは、体つき自体は逞しいが、心はそれほど強くないようだ。劣勢になりつつあることを恐れ、退くことを恐る恐る進言している。
「もう少し様子を見よう。ピンチはチャンスになり得る」
「そ、そうなんすかぁ……? でも、噂の仮面集団が来たりなんかしたら……この前みたく全滅させられるかも……」
ビタリーはわりと楽観的に考えているようで、自軍が危機的状況にあるとは捉えていない。若干劣勢であるとは気づいているものの、それによって狼狽えたりはしていなかった。
一方カマカニはそれとは対照的に、既に諦めが入ってきてしまっている。一刻も早く撤退したい、というような顔をしていた。彼の顔に浮かんでいるのは、数種類の恐怖をごちゃ混ぜにしたような色である。
「大丈夫だよ、本隊はそこまで弱くない」
「そ、そんな楽観的で……いいんすかぁ……?」
刹那、ビタリーの目つきが冷ややかなものに変わる。
「僕の選択にそれほど不満があるのかい」
氷で作られた剣のような冷たく鋭い視線を突き刺され、カマカニは体を微かに震わせる。その時のカマカニの瞳には、先ほどまでとはまた違った種の恐怖が出現していた。
二人の頭上を覆う大きな樹木、その先端についた無数の葉が、風によって時折揺れる。その様は、まるで、嵐の幕開けを告げるかのよう。ただ風に揺られているだけなのに、なぜか異様な不気味さを演出する。
「すんません……旦那ぁ……」
「冗談だよ。君を罰する気はない」
——刹那。
ビタリーは拳銃を抜き、宙に向けて構えた。
「だ、旦那ぁ?」
視認できるものは何もない方へ銃口を向けるビタリーを見て、カマカニは戸惑ったような顔をする。
だがビタリーはカマカニを無視。
誰もいない方に向かって言葉を放つ。
「姿を消しても無駄だよ。出てくるといい。相手になってあげよう」
しばらくは何も起こらなかった。が、数秒して、ビタリーの銃口が睨んでいる位置の空間に黄緑色の奇妙な光が現れる。そして、それからさらに三秒ほどが経過すると、光の中に一人の女性の肉体が出現した。
「よく気づきましたね」
現れたのは、獅子の面で顔を隠した女性——アナシエア。
しかし、ビタリーとカマカニはアナシエアのことを知らない。直接会ったことがないからだ。
ビタリーは銃を下ろさず、目を僅かに細めて「何の用?」と問う。それに対してアナシエアは、杖をビタリーへ向けて「貴方がキエル皇帝ですね」と問い返した。ビタリーもアナシエアも今はまだ静かな表情でいるが、二人の間に漂う空気といったら非常に緊迫したものである。
そんな二人を一メートルほど離れたところから見ているカマカニは、一人オロオロしている。両者を交互に見たり、顎を掻いたり、とにかく落ち着きがない。
「そうだよ。僕が今のキエル皇帝。だったら何かな」
「名乗っておきましょう。我が名はアナシエア。ラブブラブブラブラ族を取り仕切る者です」
アナシエアはわざとらしく丁寧に一礼し、直後、杖の先をビタリーへかざした。
「覚悟なさい」
杖の先から放たれる、緑の光線。ビタリーは大きく右へ飛び回避する。そして、躊躇いなく即座に引き金を引いた。銃口から放たれた弾丸はアナシエアに向かう。が、アナシエアは杖で弾丸を防いだ。
「なるほど。なかなかやるみたいだね」
「帝国の者を許しはしません」
アナシエアは感情のこもらない声で述べ、すぐさま次の攻撃に移る。
またしても光線による攻撃だ。
「カマカニ! 戦え!」
二度目の交戦をかわすのはビタリーにとって難しいことではなかった。彼は素早く攻撃をかわし、言葉を失っていたカマカニに指示を出す。
「自分すかぁ!?」
「戦えるのだろう!」
「う、うす! もちろんすぅ!」
カマカニはフリルのついた紺色のスカートを捲りあげ、太ももにベルトで固定していた二本の短剣を取り出す。両刃の短剣を両方の手で握ると、アナシエアの方へと猪のように駆けていく。
彼は突進しながら剣での攻撃を繰り出した。アナシエアは、彼の二つの剣を杖を使って上手く止め、右足を使って蹴りを放つ。両手を封じられていたカマカニは、蹴りを脇腹にもろに食らうこととなってしまった。カマカニは苦痛の音をあげ、数歩後退する。
「つ、強いっすぅ……」
「怯むな!」
「旦那ぁ……自分はそこまで強い心を持てないすよぅ……」
カマカニの動きが止まっているのを見逃すアナシエアではない。彼女は「眠っていて下さい」と述べ、杖でカマカニの頭部を強打。杖での打撃はよほど威力が高かったらしく、カマカニの肉体は一メートルほど横に飛んで地面に落ちた。
「さぁ、次です」
カマカニの体が動かないことを確認するや否や、アナシエアは目標を再びビタリーへと戻す。
数秒の停止、その後、彼女はビタリーに向かって走り出した。
接近戦を選択したようだ。
アナシエアは振りかぶり、杖で殴ろうとする。が、ビタリーは後ろへ下がってそれを回避。即座に反撃に出る。宙を駆けるのは弾丸。煙の匂いと共に向かってくる物体をアナシエアは杖で弾く、が、ビタリーの狙いはその先にあった。
「……っ!?」
驚きの詰まるような声を発したのはアナシエアの方。
というのも、ビタリーが体を物凄く低くして、アナシエアの懐へ潜り込んだのだ。それも、一瞬にして、である。
ビタリーは左手でアナシエアの服を掴み、右の拳で腹を叩く。
初めてアナシエアへの攻撃が成功した。
移動に使用していた車はまだ所持したままだが、今は二人とも降車している。木々に覆われた土の匂いのする場所で、二人はじっとしているのだ。
ちなみに、現在彼らがいるのは、一時より帝国に近い位置。
数々の戦いの中で、キエル軍は押し戻されつつあるのである。
「旦那ぁ……そろそろ帰った方がいいんじゃないっすかぁ……?」
メイド風のワンピースを着たカマカニは、体つき自体は逞しいが、心はそれほど強くないようだ。劣勢になりつつあることを恐れ、退くことを恐る恐る進言している。
「もう少し様子を見よう。ピンチはチャンスになり得る」
「そ、そうなんすかぁ……? でも、噂の仮面集団が来たりなんかしたら……この前みたく全滅させられるかも……」
ビタリーはわりと楽観的に考えているようで、自軍が危機的状況にあるとは捉えていない。若干劣勢であるとは気づいているものの、それによって狼狽えたりはしていなかった。
一方カマカニはそれとは対照的に、既に諦めが入ってきてしまっている。一刻も早く撤退したい、というような顔をしていた。彼の顔に浮かんでいるのは、数種類の恐怖をごちゃ混ぜにしたような色である。
「大丈夫だよ、本隊はそこまで弱くない」
「そ、そんな楽観的で……いいんすかぁ……?」
刹那、ビタリーの目つきが冷ややかなものに変わる。
「僕の選択にそれほど不満があるのかい」
氷で作られた剣のような冷たく鋭い視線を突き刺され、カマカニは体を微かに震わせる。その時のカマカニの瞳には、先ほどまでとはまた違った種の恐怖が出現していた。
二人の頭上を覆う大きな樹木、その先端についた無数の葉が、風によって時折揺れる。その様は、まるで、嵐の幕開けを告げるかのよう。ただ風に揺られているだけなのに、なぜか異様な不気味さを演出する。
「すんません……旦那ぁ……」
「冗談だよ。君を罰する気はない」
——刹那。
ビタリーは拳銃を抜き、宙に向けて構えた。
「だ、旦那ぁ?」
視認できるものは何もない方へ銃口を向けるビタリーを見て、カマカニは戸惑ったような顔をする。
だがビタリーはカマカニを無視。
誰もいない方に向かって言葉を放つ。
「姿を消しても無駄だよ。出てくるといい。相手になってあげよう」
しばらくは何も起こらなかった。が、数秒して、ビタリーの銃口が睨んでいる位置の空間に黄緑色の奇妙な光が現れる。そして、それからさらに三秒ほどが経過すると、光の中に一人の女性の肉体が出現した。
「よく気づきましたね」
現れたのは、獅子の面で顔を隠した女性——アナシエア。
しかし、ビタリーとカマカニはアナシエアのことを知らない。直接会ったことがないからだ。
ビタリーは銃を下ろさず、目を僅かに細めて「何の用?」と問う。それに対してアナシエアは、杖をビタリーへ向けて「貴方がキエル皇帝ですね」と問い返した。ビタリーもアナシエアも今はまだ静かな表情でいるが、二人の間に漂う空気といったら非常に緊迫したものである。
そんな二人を一メートルほど離れたところから見ているカマカニは、一人オロオロしている。両者を交互に見たり、顎を掻いたり、とにかく落ち着きがない。
「そうだよ。僕が今のキエル皇帝。だったら何かな」
「名乗っておきましょう。我が名はアナシエア。ラブブラブブラブラ族を取り仕切る者です」
アナシエアはわざとらしく丁寧に一礼し、直後、杖の先をビタリーへかざした。
「覚悟なさい」
杖の先から放たれる、緑の光線。ビタリーは大きく右へ飛び回避する。そして、躊躇いなく即座に引き金を引いた。銃口から放たれた弾丸はアナシエアに向かう。が、アナシエアは杖で弾丸を防いだ。
「なるほど。なかなかやるみたいだね」
「帝国の者を許しはしません」
アナシエアは感情のこもらない声で述べ、すぐさま次の攻撃に移る。
またしても光線による攻撃だ。
「カマカニ! 戦え!」
二度目の交戦をかわすのはビタリーにとって難しいことではなかった。彼は素早く攻撃をかわし、言葉を失っていたカマカニに指示を出す。
「自分すかぁ!?」
「戦えるのだろう!」
「う、うす! もちろんすぅ!」
カマカニはフリルのついた紺色のスカートを捲りあげ、太ももにベルトで固定していた二本の短剣を取り出す。両刃の短剣を両方の手で握ると、アナシエアの方へと猪のように駆けていく。
彼は突進しながら剣での攻撃を繰り出した。アナシエアは、彼の二つの剣を杖を使って上手く止め、右足を使って蹴りを放つ。両手を封じられていたカマカニは、蹴りを脇腹にもろに食らうこととなってしまった。カマカニは苦痛の音をあげ、数歩後退する。
「つ、強いっすぅ……」
「怯むな!」
「旦那ぁ……自分はそこまで強い心を持てないすよぅ……」
カマカニの動きが止まっているのを見逃すアナシエアではない。彼女は「眠っていて下さい」と述べ、杖でカマカニの頭部を強打。杖での打撃はよほど威力が高かったらしく、カマカニの肉体は一メートルほど横に飛んで地面に落ちた。
「さぁ、次です」
カマカニの体が動かないことを確認するや否や、アナシエアは目標を再びビタリーへと戻す。
数秒の停止、その後、彼女はビタリーに向かって走り出した。
接近戦を選択したようだ。
アナシエアは振りかぶり、杖で殴ろうとする。が、ビタリーは後ろへ下がってそれを回避。即座に反撃に出る。宙を駆けるのは弾丸。煙の匂いと共に向かってくる物体をアナシエアは杖で弾く、が、ビタリーの狙いはその先にあった。
「……っ!?」
驚きの詰まるような声を発したのはアナシエアの方。
というのも、ビタリーが体を物凄く低くして、アナシエアの懐へ潜り込んだのだ。それも、一瞬にして、である。
ビタリーは左手でアナシエアの服を掴み、右の拳で腹を叩く。
初めてアナシエアへの攻撃が成功した。
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