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前編
しおりを挟む私、今日婚約者に捨てられました。
彼は悪い人ではなかったのです。これまで数年にわたって関わってきましたが、彼はいつもとても誠実でした。だから彼は良い人だと思っていましたし、そう信じていました。
でもそれは私がそう思っていただけで。
彼、本当は裏で、何人も女を作っていたんです。
その事実を知ってショックで。
それでそのことについて言ってしまって――その結果「もういい! 婚約破棄だ!」と吐き捨てられてしまったのでした。
それで落ち込んで、今は広葉樹の根もとに座っています。
だってもう……明るい未来なんて見つめられない。
我が心には暗い色しかありません。
愛していた人に捨てられて、居場所を失って、それでも幸せを信じろだなんて……無理なのです、そんなこと。
いえ、もちろん、心が強い人にならできるのかもしれません。でもそれはあくまでその人の心の強さゆえでしょう。私ではそんな風にはなれない、それが本心です。特別暗い後ろ向きな人間だと思ってはきませんでした、でも、今になって自分は前向きな人間ではないと気づいたのです。
こうして木の根もとに座っていたら、静かな風が頬を撫でてゆきます。
……こういう感じは好きです。
自然は好き。
時に恐ろしくもあるけれど、でも、とても綺麗で愛おしいから。
もういっか、ずっとここにいれば。
そんなことを思って空を眺めていたのですが――。
「あの、大丈夫ですか?」
一人の美しい女性が声をかけてきました。
「え……」
「涙の跡があったので気になって。すみません急に」
彼女は白いドレスをまとっていました。
「何かお辛いことがあったのかと……心配になりまして」
「……はい、実は」
「まぁ! それは大変。あの、よければですけれど……うちへ来ませんか?」
「どうして……」
「放っておけないのですよ、悲しそうな方を見ると」
「あ、そうですか……」
ああ、彼女は、姿のみならず心までも美しいのだ――そんなことを思いながら差し出された白い手を包むように握る。
「良かった! では行きましょう!」
「はい……」
「美味しいお茶、ありますよっ」
「ありがとうございます……」
立ち上がる元気なんてなかったけれど、それでも光を掴みたくて、彼女についていくことにしました。
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