4 / 8
四話「死から、親族の訪れまで」
しおりを挟む
聖暦二○二七年、九月九日午後五時三十七分。
株縫志が働いているコンビニによく来てくれていた女性の一人である菊田和 真菊が、九十二歳で亡くなった。
彼女の葬儀は、田和和島内で行われることとなる。
通夜の日、午後辺りから、これまでに見たことがないくらい大勢の人たちが田和和島へとやって来た。本州から田和和島までは、陸路がない。そのため、やって来た人たちは、誰もが船でやって来たらしく、港は混雑。その混雑ぶりは、いつも港で仕事をしている漁師たちを仰天させていた。
島民のある人から株縫志が聞いた話によれば、何でも、真菊は大会社のお嬢さんだったらしい。つまり、彼女は田和和島生まれではなかったということである。
この日、田和和島へやって来た人たちを、少しばかり紹介しよう。
真菊には三人の兄と二人の妹がいる。
長男の尾小倉 権在地は、この時、既に百七歳。
かなりの高齢ながら、真菊の葬儀にはきちんと参加する辺りの真面目さに、株縫志は少し感動を覚えた。
ちなみに、権在地の妻である朧は、昨年八十二歳で亡くなったそうだ。二人の間に子はいなかったという。
次男の尾小倉 権次地は、百五歳。
彼もまたかなり高齢だが、真菊の葬儀にはきちんと参加していた。
株縫志が偶々見かけた時、権次地は赤いタキシードを着ていて。しかも、金髪に近い色みの頭で。株縫志は密かに驚いたのだった。
ちなみに、いまだに独身らしい。
そして、三男の尾小倉 権三地は、百歳。
真菊の三人の兄の中で、一番、いかにも真面目そうな容姿。白髪ながら、きちんとした身なりをしていて、いかにも良い年の取り方をしている男性という感じであった。
株縫志が島民から聞いた話によれば、権三地には三つ年下の妻がいるらしい。
ただ、株縫志がその妻を見かけることはなかったが。
また、噂によれば、その妻は三人目の妻だそうだ。
一人目の妻は、権三地が二十代後半頃に飲み屋で知り合った、天野 天魔という女性だったそうだ。
そして、天魔との間には、五人の子どもがいたらしい。
全員女性。名前は上から、嗚呼、藍、遭卯、和絵、亜尾。
が、離婚後、全員天魔の方が引き取ったそうだ。
二人目の女性と結婚したのは、権三地が三十半ばの頃。街の隅で出会った身寄りのない女性が、権三地の二人目の結婚相手だったという。身寄りがなく頼る者も手の内になく、街を彷徨っていた時、彼女と権三地は出会ったのだ。
彼女と権三地の間に生まれたのは、七人。
今度は皆、男性。
名前は上から、一次郎、二次郎、三太郎、夜次郎、五五郎、六衛門、七太郎。
そして現在の妻との間には、八人の子ども。
二人は女性で六人は男性だそうだ。
長女の名は、綺羅李。
次女の名は、ピカリ。
六人の男性は、上から順に、宵射、智哉、ケーゴ、四十万、蛇句、内斗。
結果、権三地は生涯のうちに、二十人もの子どもを持つこととなったのだった。
真菊と年が近い方の妹である真夜流は、八十五歳。
白髪ながら長い髪を、うなじの辺りで一つのお団子にまとめた、仕事のできそうな雰囲気をまとった淑女である。
株縫志が島民から聞いた話によれば、彼女は、二十五歳にして自力で起業した強者だとか。
そんな彼女には、五つ年下の旦那がいる。名は、児玉 駄是。
そして、二人の間には、子どもが二人。
とはいえ、その子どもも既に高齢者。
これが高齢化か、と、株縫志は思ってしまった。
もう一人の妹は現在六十二歳。
名を、トメ子という。
彼女は独り身だが、多趣味ゆえ、日頃は都会の片隅で人生を謳歌しているそうだ。
そして、真菊の子は五人いる。
長女の菊子は、真菊と共に暮らしていた。つまり、田和和島民。
次女の握子は、十六で都会へ出ていったきりだった。
長男である明彦は、勉学のため本州へ行き、そこで駄是と出会って、以降は真夜流の会社で働いている。
三女の耳子は、俳優を志し、若くして田和和島から離れたそうだ。だが今は、夢破れ、コンビニバイトに明け暮れている。
四女である鼻子は、郊外のアパートで独り暮らし中。
次男の多呂路は、昨年の秋、妻に先立たれてしまって、いまだに落ち込んでいる。が、真菊の葬式が行われると聞いて、田和和島へやって来た。十人の子とその配偶者、そして、八十人の孫を引き連れて。
株縫志が働いているコンビニによく来てくれていた女性の一人である菊田和 真菊が、九十二歳で亡くなった。
彼女の葬儀は、田和和島内で行われることとなる。
通夜の日、午後辺りから、これまでに見たことがないくらい大勢の人たちが田和和島へとやって来た。本州から田和和島までは、陸路がない。そのため、やって来た人たちは、誰もが船でやって来たらしく、港は混雑。その混雑ぶりは、いつも港で仕事をしている漁師たちを仰天させていた。
島民のある人から株縫志が聞いた話によれば、何でも、真菊は大会社のお嬢さんだったらしい。つまり、彼女は田和和島生まれではなかったということである。
この日、田和和島へやって来た人たちを、少しばかり紹介しよう。
真菊には三人の兄と二人の妹がいる。
長男の尾小倉 権在地は、この時、既に百七歳。
かなりの高齢ながら、真菊の葬儀にはきちんと参加する辺りの真面目さに、株縫志は少し感動を覚えた。
ちなみに、権在地の妻である朧は、昨年八十二歳で亡くなったそうだ。二人の間に子はいなかったという。
次男の尾小倉 権次地は、百五歳。
彼もまたかなり高齢だが、真菊の葬儀にはきちんと参加していた。
株縫志が偶々見かけた時、権次地は赤いタキシードを着ていて。しかも、金髪に近い色みの頭で。株縫志は密かに驚いたのだった。
ちなみに、いまだに独身らしい。
そして、三男の尾小倉 権三地は、百歳。
真菊の三人の兄の中で、一番、いかにも真面目そうな容姿。白髪ながら、きちんとした身なりをしていて、いかにも良い年の取り方をしている男性という感じであった。
株縫志が島民から聞いた話によれば、権三地には三つ年下の妻がいるらしい。
ただ、株縫志がその妻を見かけることはなかったが。
また、噂によれば、その妻は三人目の妻だそうだ。
一人目の妻は、権三地が二十代後半頃に飲み屋で知り合った、天野 天魔という女性だったそうだ。
そして、天魔との間には、五人の子どもがいたらしい。
全員女性。名前は上から、嗚呼、藍、遭卯、和絵、亜尾。
が、離婚後、全員天魔の方が引き取ったそうだ。
二人目の女性と結婚したのは、権三地が三十半ばの頃。街の隅で出会った身寄りのない女性が、権三地の二人目の結婚相手だったという。身寄りがなく頼る者も手の内になく、街を彷徨っていた時、彼女と権三地は出会ったのだ。
彼女と権三地の間に生まれたのは、七人。
今度は皆、男性。
名前は上から、一次郎、二次郎、三太郎、夜次郎、五五郎、六衛門、七太郎。
そして現在の妻との間には、八人の子ども。
二人は女性で六人は男性だそうだ。
長女の名は、綺羅李。
次女の名は、ピカリ。
六人の男性は、上から順に、宵射、智哉、ケーゴ、四十万、蛇句、内斗。
結果、権三地は生涯のうちに、二十人もの子どもを持つこととなったのだった。
真菊と年が近い方の妹である真夜流は、八十五歳。
白髪ながら長い髪を、うなじの辺りで一つのお団子にまとめた、仕事のできそうな雰囲気をまとった淑女である。
株縫志が島民から聞いた話によれば、彼女は、二十五歳にして自力で起業した強者だとか。
そんな彼女には、五つ年下の旦那がいる。名は、児玉 駄是。
そして、二人の間には、子どもが二人。
とはいえ、その子どもも既に高齢者。
これが高齢化か、と、株縫志は思ってしまった。
もう一人の妹は現在六十二歳。
名を、トメ子という。
彼女は独り身だが、多趣味ゆえ、日頃は都会の片隅で人生を謳歌しているそうだ。
そして、真菊の子は五人いる。
長女の菊子は、真菊と共に暮らしていた。つまり、田和和島民。
次女の握子は、十六で都会へ出ていったきりだった。
長男である明彦は、勉学のため本州へ行き、そこで駄是と出会って、以降は真夜流の会社で働いている。
三女の耳子は、俳優を志し、若くして田和和島から離れたそうだ。だが今は、夢破れ、コンビニバイトに明け暮れている。
四女である鼻子は、郊外のアパートで独り暮らし中。
次男の多呂路は、昨年の秋、妻に先立たれてしまって、いまだに落ち込んでいる。が、真菊の葬式が行われると聞いて、田和和島へやって来た。十人の子とその配偶者、そして、八十人の孫を引き連れて。
0
あなたにおすすめの小説
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした
有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる