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前編

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 私には妹がいる。その妹はいつも私のものを奪おうとしてくる。私が何かを手にしているのが気に入らないのだろう。だから彼女はすぐに私のものを奪う。子どもの頃からそうだった。お菓子も、友達も、お気に入りのぬいぐるみも、全部妹に奪われてきた。

 だが、今回だけは、私が望んで妹に奪ってもらう——親が勝手に決めた、困ったところしかない婚約者を。

「お姉様! 婚約者の方との関係はどうですの?」
「そうね……まぁ悪くはないと思うわ。親が勝手に決めたわりには善い人よ」

 もちろんこの発言は嘘である。
 私の婚約者であるアマネスクは問題ばかりの人物だ。

「まぁ! 素敵な方ですのね!」
「そうよ」
「お姉様が幸せそうで嬉しいですわ! ではお姉様、これにて失礼しますわね」
「またね」

 こう言っておけば、妹は間違いなく婚約者を奪おうとするはず。

 奪ってくれ。
 そうすれば私はアマネスクから解放される。


 ◆


 あれから数週間が経ったある日。
 アマネスクから婚約破棄を告げる便りが届いた。

 彼は、私との婚約は破棄し、私の妹と改めて婚約し直すことにしたらしい。

 すべてが順調。
 上手く進んでいる。

「お姉様! ご機嫌いかがかしら?」
「何だか楽しそうね」
「えぇ! 実は、婚約が決まりましたの! アマネスク様と婚約することになりましたわ。お姉様はご存知?」
「聞いたわ」
「うふふ。また奪ってしまいましたわね。ごめんなさいね、お姉様」

 今までは腹を立てることもあったが、今はもう腹を立てることはない。いや、それどころか、今回の件に関しては奪ってくれたことに感謝している。

「いいのよ、気にしないで。むしろ感謝しているわ」
「……何ですの?」
「何って、なんでもないわよ? 単に感謝しているだけよ?」
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