私のことをいつも醜いと言っていた婚約者は理想の女性に拒否されたため私のところへ戻ってきたのですが、再びの婚約を断ると暴れ自滅しました。

四季

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前編

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「お前、ほんと醜いよな」

 婚約者マトレフスミーは女性に何よりも美しさを求める人だった。

 その理想は驚くほど高く。
 平均的な容姿と思われる私ですら毎日のように否定するような言葉を吐かれていたほどで。

 彼に「醜いよな」とか「みっともない女だ」とか言われることにはもう慣れた――それほどに私はいつも彼から容姿を批判されていたのである。

 そんなある日、マトレフスミーは一人の理想的な顔をした女性に巡り会う。

 彼が恋に落ちるのは一瞬だった。
 で、その日から、ずっとその女性について聞かされるようになった。

「彼女は女神だ! 間違いない! 女神の生まれ変わりだよ。エミィというのだけどな、とても素晴らしい理想的な容姿の持ち主なんだ!」
「そうなんですね」
「何だその棒読み返事は!」
「すみません……」
「もっと驚け! 派手な反応で場を盛り上げろ! はぁ、これだから醜い奴は嫌いなんだ。顔と比例して知能も低い」

 ――そして、ある時ついに。

「俺はエミィと生きる。よって、お前との婚約は破棄とする」

 彼はそう告げてきた。

「今から彼女のもとへいってプロポーズをしてくる。だからその前にお前とは縁を切っておこうと思ってな」
「そうですか、分かりました」

 正直なところを言うなら、痛みはなかった。ショックでもない。なぜって、こうなるだろうと思っていたから。それに、彼と離れることが辛いこととイコールではないから。

 容姿についてあれこれ言われることから解放されるなら、ある意味、それは嬉しいことなのだ。

 ずっと容姿を悪く言ってくるような人と一緒にいたいなんて誰も思わないだろう。

「何だその反応は! 可愛くないな。ふん、俺の素晴らしさに後から気づいても遅いぞ」
「貴方には私は相応しくありませんよね」
「ああそうだ、分かっているじゃないか」
「承知しています。では、どうか、エミィさんとお幸せに」

 私は一礼して彼の前から去った。

 これでもう醜いと言われなくて済む。
 それは救いだった。
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