上 下
1 / 2

前編

しおりを挟む

「お前がイリーシアだな」
「はい」

 私は婚約者に売られた。

 つい先日まで私には婚約者がいた。
 名はジェールという。
 婚約したばかりの関係ではなく、そこそこ長い付き合いになっている人だった。

 でも彼は私を切り捨てた。

 勝手に婚約破棄し、実家に支援を入れるため私を北の領主のもとへと送り込んだのだ。

「わたしは誰も愛さない」
「え……」
「イリーシア、貴女のことも、愛することはない」
「そ、そうですか……といいますか、まぁ、普通そうですよね。急に女が来てもだからといって愛せるわけがない……そういうものだろうと思います」

 北の領主と結婚することになってしまった私。
 でもそこに愛なんてなくて。
 所詮形だけの結婚だ、実際目の前の彼もそう言っている。

「理解していただけるようで助かる」
「はい」
「では、これにて」

 ジェールには腹が立つ。
 でも目の前の彼には罪はない。


 ◆


「イリーシアちゅわあぁぁぁん! こっち! こっち向いてちゅおぉぉぉーどぅあぁぁぁーい! もっともっとこっちぃぃぃぃ!」

 北の領主は別人のようになった。

 結婚して二年。
 彼は私を不自然なほど溺愛するようになっている。

「んもぉぉぉぉー、可愛いぃぃぃぃー! ちゅきちゅき、ちゅっきいぃぃぃぃぃーん!」

 最初は変わりように驚いた。
しおりを挟む

処理中です...