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前編
しおりを挟む現代で生まれ育った私は、その日も普通に当たり前のように、友人と大学の学生ホールでカードゲームをしていた。
「これで、これを――」
だが。
突如虹色の光に包まれる。
「ちょ、大丈夫!?」
遠くで友人の声が聞こえる。
そして私は意識を失った。
◆
気づけば私は別人になっていた。
容姿も原形を留めていない。
元は平凡であまり美しいとは言えないような女だったのだけれど、部屋のすみに置かれている鏡に映る今の私はとても美しい女性だ。
それに、藍色のドレスをまとっている。
明らかに現代の服装ではない。
いや、もちろん、発表会とか演奏会とかパーティーとかであれば、現代であってもドレスを着ることはあるだろう。けれども今はそういうシチュエーションではなさそうなのだ。目の前には知らない男性がいるけれど、ドレスをまとうようなシチュエーションといった感じではない。
それにカードゲームをしていたはずだし……。
「エミリア・ガーネット! 貴様との婚約、本日をもって破棄とする!!」
目の前の金髪の男性はいきなり大きな声で宣言してくる。
そういえばこういうのあったなぁ。
創作物で。
あまり詳しいジャンルではないけれどそんな記憶がある。
「分かりました」
私はそれだけ返した。
幸い、言葉は理解できるようになっている。
これは幸運だった。
言語の理解が駄目だとどうしようもない。
「ったく、生意気な女め」
そんなことを言われても困ってしまう……。
その後私は実家へ帰った。
待ってみていたところ迎えの馬車が来たので何とか帰ることができたのである。
それから私は記憶喪失なことにした。
だってそうだろう? 今の私には、否、今のこの身には、エミリアの記憶がない。それでどうやって知っているように見せられる? 無理だろう。私はそこまで器用ではない。ならば記憶を失ったことにしよう、そう考えて。
「エミリアさん、記憶喪失だそうねぇ」
「婚約破棄されたショックかしらね」
「あらあらぁ、可哀想にね。でもまぁ、良かったんじゃない? オルクさんって女癖凄く悪いみたいだし」
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