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後編

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 ◆


 婚約破棄を告げられた日から八ヶ月が経った頃、かつて私を切り捨てた元婚約者の青年オルクが落命したことを知った。

 なんでも、婚約者がいなくなったからといって油断し、八人の女性と交際していたそうなのだ。

 で、ある時、そのうちの四人に八股していることがばれて。

 三人は去っていったそうなのだが。
 残りの一人が激怒したそうで。
 その女性が問い詰めた時にオルクが誠実に対応しなかったために女性は感情的になり、隠し持っていた短剣で彼を刺し貫いたそうだ。

 それによってオルクは傷を負い、数時間後に死亡したらしい。

 彼はその女好きによって生命を失うこととなったのだ。

 ま、自業自得だろう。

 人殺しは罪だ。たとえどんな理由があろうとも、そこは、越えてはならない一線。何をされたとしても、殺してしまえばその人の大きな罪である。が、彼の場合、殺されるようなことをした彼自身の行いにも問題はあったと思われる。

 ――そして私、いや、エミリアはというと。

「貴女と共に生きてゆきたいのです」
「すみません、私、記憶喪失なので……結婚とかは、あまり」

 ある時、馬に乗っているところ出会った青年マトリオールに見初められ、急に求婚された。

「構いませんよ、記憶喪失でも。僕が支えてゆきます、そう誓います」
「え……」
「貴女しか見えないのです」
「そんなこと言われましても……」

 はじめは乗り気ではなかったけれど、やがて私はマトリオールと結ばれた。

 けれど、結果的には、悪くはないと思った。

 彼との暮らしは楽しくて。
 こういう道も良いな、と思えて。
 幸福を見つけられそうで。

 あの日カードゲームしていて異世界へ飛ばされた私は、エミリアという美しい女性として、青年マトリオールと共に生きてゆくこととなった。


◆終わり◆
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