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70話 「復讐」
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ルッツの剣とエリアスの槍。二つがぶつかり、夜の闇に鋭い金属音が反響する。
兄弟なのに戦わなくてはならないなんて、こんな運命はあまりに辛い。ただ見ているだけでも胸が締めつけられる。
全部私のせいだ。通り魔のことは知っていたのに、麗奈に誘われて浮かれて遊びに行ったから、エリアスをこんなことに巻き込んでしまった。
私はなんて愚かなの……。
エリアスの動きはいつもより鈍かった。戦うことを決めても、実の弟であるルッツを倒すことに躊躇いがあるのだろう。それとは対照的に、ルッツは一切迷いがない。
「……くっ、ルッツ。なぜ王女を狙う!」
エリアスは勢いのあるルッツに押され気味だ。このままでは勝てるものか怪しい。
ノアを呼びにいく?
でもここからだとかなり時間がかかる。それに負傷しているジェシカを一人にするのも心配だ。
二人の攻防を見つめながら思考する。しかしなかなか良いアイデアが出てこない。
「それが俺の主君カルチェレイナ様の願いだからだ!」
ルッツは魔気を噴出しエリアスを吹き飛ばそうとする。しかしエリアスは後ろに飛び、紙一重で魔気をかわした。
「天使でありながら悪魔に仕えるとは情けない」
エリアスは眉を寄せ、複雑そうな顔をする。
「黙れ!」
悪魔に仕えていることを否定されたルッツは激昂する。黙っていればそれなりに整った顔なのだが、今の彼の顔からは憎悪の念しか感じられない。
「カルチェレイナ様は俺の苦しみを分かってくださった! 俺が幼い頃から兄と比べられどんな惨めな思いをしてきたか、理解してくださった!」
激しく荒れているルッツを悲しそうな瞳で見つめながら首を左右に振るエリアス。
「それは違う。カルチェレイナは理解してなどいない。彼女はお前を利用しているだけだ」
「黙れ! 黙れ黙れ黙れっ!」
ルッツは取り乱し激しく否定する。カルチェレイナを妄信している彼は、彼女に利用されている可能性など考えたくないのだろう。
大剣を振りかぶり攻撃を仕掛ける。が、エリアスはそれを軽くかわす。
「取り乱すのは良くない」
とても冷ややかな声。エリアスは先ほどまでとは打って変わって冷淡な表情になっていた。
「冷静さ不足は昔からの癖だが、以前より悪化している」
エリアスはルッツを幻滅したような目つきで見る。その表情には、先までのような倒すことへの躊躇いはなく、そこにあるのは哀れみの情だけ。
私にはそう感じられた。
エリアスは長槍を音もなく振りルッツの大剣を弾き飛ばす。大剣は数メートル飛んで地面に落下し、モアッと魔気に戻って消えた。
「悪魔に心酔しきるとは愚かなことだ。……だが」
厚い鉄板をも貫きそうな冷たい視線に、関係ない私ですら悪寒を感じる。もしあんな目で見られたらと思うと、怖い。
「これで迷いは消えた。私はもうお前を躊躇せずに殺せる」
エリアスは何かスイッチが入ったようだ。
どこで切り替わるやら。実に不思議なことだわ。
——とその時。また魔気を感じ、ルッツに目をやる。
「バカにするな! 昔みたいに勝てると思うなよ!」
怒りに目を見開く彼の周囲に黒いもやが漂っていた。恐らく魔気だろう。
一歩誤ればジェシカもこんな風になっていたかもしれない。そう思い、私は恐怖を覚える。
「勝てると思うなよオォォ!!」
怒声と共にルッツから大量の魔気が噴出され始める。
「な、何これ……」
その光景を、私は信じられない思いで見つめた。泥のように溢れ出す黒い魔気のせいかゾクゾクする。
とても静かな夜だ。街の一角でこんなことが起こっているとは誰も思っていないだろう。
「……ぁ」
エリアスは突然膝を追って座り込んでしまう。持っていた長槍は霧のように消え、左肩を押さえ呻く。
驚いてエリアスに駆け寄る。
彼はまだベルンハルトの時の傷がまだ完治していない。だから放っておくわけにはいかないと思った。
「エリアス、大丈夫?」
額に冷や汗が浮かんでいる。
「え、えぇ。問題ありません。……くっ」
押さえている左肩から黒いもやが出ていた。
「大丈夫そうじゃないわね。でもどうすれば……」
今は夜だ、近くに人はいない。それに、もし誰かが通りかかったとしても、普通の人間に助けを求めるなんて、危険すぎる。ルッツに勝てる人間なんて、いるわけがない。
「王女は離れていて下さい。私は大丈夫ですから」
「嘘ね。苦しそうだわ」
呼吸が荒れている。それに顔色も良くない。これでよく隠そうとできたものだ。
私もそこまでバカではない。
「……すみません、やはり王女に隠し事はできませんね。貴女はとても鋭い」
いやいや、さすがに誰でも分かるでしょう。
「お前の命を吸い取ってやる! もう終わりだ!」
ルッツが叫んだ。
次の瞬間、黒いもやに包まれていたエリアスの左肩から、白い霧のようなものが出てきた。
「……えっ。これは一体、どうなってるの?」
事態が飲み込めない。今、何が起きているのか。
エリアスはとても苦しそうな顔をしている。答えられなさそうだ。
「ルッツ! 貴方、何をしたの。狙いは私でしょ! エリアスをいじめるのは止めて!」
勇気を出して言い放つと、ルッツはニヤリと笑みを浮かべて返す。
「カルチェレイナ様の狙いはお嬢さんでも、俺の狙いはエリアスだよ。やっと夢が叶うんだ。俺の——」
——復讐トイウ夢ガ。
兄弟なのに戦わなくてはならないなんて、こんな運命はあまりに辛い。ただ見ているだけでも胸が締めつけられる。
全部私のせいだ。通り魔のことは知っていたのに、麗奈に誘われて浮かれて遊びに行ったから、エリアスをこんなことに巻き込んでしまった。
私はなんて愚かなの……。
エリアスの動きはいつもより鈍かった。戦うことを決めても、実の弟であるルッツを倒すことに躊躇いがあるのだろう。それとは対照的に、ルッツは一切迷いがない。
「……くっ、ルッツ。なぜ王女を狙う!」
エリアスは勢いのあるルッツに押され気味だ。このままでは勝てるものか怪しい。
ノアを呼びにいく?
でもここからだとかなり時間がかかる。それに負傷しているジェシカを一人にするのも心配だ。
二人の攻防を見つめながら思考する。しかしなかなか良いアイデアが出てこない。
「それが俺の主君カルチェレイナ様の願いだからだ!」
ルッツは魔気を噴出しエリアスを吹き飛ばそうとする。しかしエリアスは後ろに飛び、紙一重で魔気をかわした。
「天使でありながら悪魔に仕えるとは情けない」
エリアスは眉を寄せ、複雑そうな顔をする。
「黙れ!」
悪魔に仕えていることを否定されたルッツは激昂する。黙っていればそれなりに整った顔なのだが、今の彼の顔からは憎悪の念しか感じられない。
「カルチェレイナ様は俺の苦しみを分かってくださった! 俺が幼い頃から兄と比べられどんな惨めな思いをしてきたか、理解してくださった!」
激しく荒れているルッツを悲しそうな瞳で見つめながら首を左右に振るエリアス。
「それは違う。カルチェレイナは理解してなどいない。彼女はお前を利用しているだけだ」
「黙れ! 黙れ黙れ黙れっ!」
ルッツは取り乱し激しく否定する。カルチェレイナを妄信している彼は、彼女に利用されている可能性など考えたくないのだろう。
大剣を振りかぶり攻撃を仕掛ける。が、エリアスはそれを軽くかわす。
「取り乱すのは良くない」
とても冷ややかな声。エリアスは先ほどまでとは打って変わって冷淡な表情になっていた。
「冷静さ不足は昔からの癖だが、以前より悪化している」
エリアスはルッツを幻滅したような目つきで見る。その表情には、先までのような倒すことへの躊躇いはなく、そこにあるのは哀れみの情だけ。
私にはそう感じられた。
エリアスは長槍を音もなく振りルッツの大剣を弾き飛ばす。大剣は数メートル飛んで地面に落下し、モアッと魔気に戻って消えた。
「悪魔に心酔しきるとは愚かなことだ。……だが」
厚い鉄板をも貫きそうな冷たい視線に、関係ない私ですら悪寒を感じる。もしあんな目で見られたらと思うと、怖い。
「これで迷いは消えた。私はもうお前を躊躇せずに殺せる」
エリアスは何かスイッチが入ったようだ。
どこで切り替わるやら。実に不思議なことだわ。
——とその時。また魔気を感じ、ルッツに目をやる。
「バカにするな! 昔みたいに勝てると思うなよ!」
怒りに目を見開く彼の周囲に黒いもやが漂っていた。恐らく魔気だろう。
一歩誤ればジェシカもこんな風になっていたかもしれない。そう思い、私は恐怖を覚える。
「勝てると思うなよオォォ!!」
怒声と共にルッツから大量の魔気が噴出され始める。
「な、何これ……」
その光景を、私は信じられない思いで見つめた。泥のように溢れ出す黒い魔気のせいかゾクゾクする。
とても静かな夜だ。街の一角でこんなことが起こっているとは誰も思っていないだろう。
「……ぁ」
エリアスは突然膝を追って座り込んでしまう。持っていた長槍は霧のように消え、左肩を押さえ呻く。
驚いてエリアスに駆け寄る。
彼はまだベルンハルトの時の傷がまだ完治していない。だから放っておくわけにはいかないと思った。
「エリアス、大丈夫?」
額に冷や汗が浮かんでいる。
「え、えぇ。問題ありません。……くっ」
押さえている左肩から黒いもやが出ていた。
「大丈夫そうじゃないわね。でもどうすれば……」
今は夜だ、近くに人はいない。それに、もし誰かが通りかかったとしても、普通の人間に助けを求めるなんて、危険すぎる。ルッツに勝てる人間なんて、いるわけがない。
「王女は離れていて下さい。私は大丈夫ですから」
「嘘ね。苦しそうだわ」
呼吸が荒れている。それに顔色も良くない。これでよく隠そうとできたものだ。
私もそこまでバカではない。
「……すみません、やはり王女に隠し事はできませんね。貴女はとても鋭い」
いやいや、さすがに誰でも分かるでしょう。
「お前の命を吸い取ってやる! もう終わりだ!」
ルッツが叫んだ。
次の瞬間、黒いもやに包まれていたエリアスの左肩から、白い霧のようなものが出てきた。
「……えっ。これは一体、どうなってるの?」
事態が飲み込めない。今、何が起きているのか。
エリアスはとても苦しそうな顔をしている。答えられなさそうだ。
「ルッツ! 貴方、何をしたの。狙いは私でしょ! エリアスをいじめるのは止めて!」
勇気を出して言い放つと、ルッツはニヤリと笑みを浮かべて返す。
「カルチェレイナ様の狙いはお嬢さんでも、俺の狙いはエリアスだよ。やっと夢が叶うんだ。俺の——」
——復讐トイウ夢ガ。
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