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72話 「私たちはずっと」
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——ここはどこだろう。
そうだ。麗奈と遊んだ帰り道ルッツに襲われて。エリアスもノアも酷い目に遭っていたわ。
それからルッツがエリアスを連れていこうとした。
私はエリアスを放ってはおけないから、ついていくことにした……。
そうだ、置いてきちゃったノアは大丈夫かな。彼はあそこ倒れたままかもしれない。心配だけど、でもきっと誰かが見つけて助けてくれるはず。
だから大丈夫よね……。
意識が戻ると、薄水色の天井が視界に入った。背中にはフカフカした感覚。ここはベッドの上なのかもしれない。
そこへやって来たのは美しい女性——麗奈だった。
「アンナ! 起きたのね」
一つに束ねた水色の長い髪を揺らしながら、軽い足取りでこちらへ歩いてくる。
彼女は家でも化粧をしているのだろうか?いつもと変わらない美しさを保っていた。これですっぴんだとすれば余程の美女ということになる。
「……麗奈」
「びっくりしたわ、アンナ。道に倒れていたのよ。もしかして通り魔にでも襲われたの?」
麗奈は不安げに尋ねてくる。本当に優しい人だわ。
でも、だからこそ、彼女には言えない。通り魔に襲われたなんて。そんなことを言えば彼女まで巻き込んでしまうかもしれない。私はもう誰も巻き込みたくないの。
だから私は嘘をついた。地上界へ来てからただ一人だけできた人間の友達に嘘をついてしまった。
「助けていただいてありがとうございます。でも私、通り魔には会っていません。どうして倒れたのか記憶もないし……。麗奈はどうして私を?」
あれは彼女と別れてかなり経ってからのことだった。彼女が倒れていた私を発見するのはおかしい気もするのだが。
「実はね、これ!」
麗奈は明るい表情で箱を取り出す。
「アンナにプレゼントしようと思っていたのだけれど、渡すの忘れちゃったのよね。ごめんね。昨日はこれを渡したくて貴女の後を追っていったの。そしたら倒れている貴女を発見した。凄く驚いたわ」
「そうだったんですね」
それならまぁ意味は分かる。私を発見してもおかしな話ではない。もっとも、ルッツについて魔界へ行ったはずの私が道に倒れていたというところには、多少の疑問があるが。
「開けてみて!」
彼女はウキウキしているような表情で小さな箱を渡し、開けるよう促してくる。
私は恐る恐る箱の蓋を開けてみて、私は驚いた。
「凄い……!」
純白の羽のブローチだった。この世の物ではないと思えるような、不思議で魅力的なアクセサリー。
ブローチを胸元につけてみる。何だか温かい感じ。
「どこで買ったんですか?」
恐らく地上界で買ったのだろうが、信じられない綺麗さだ。
「え?」
彼女は一瞬困惑した表情になるが、すぐに元に戻る。
「どこって……普通の店よ」
それはそうか。逆に店以外で買ったはずがない。
そこで話題を変える。
「麗奈、私の近くに誰か他の人も倒れていませんでしたか?」
いきなりこんなことを尋ねたらおかしいと思われるかもしれない、そんな不安もあった。しかし、今はどう思われるかを気にしている余裕はない。それよりもエリアスやノアのことが気になるのだ。
変だと言われると覚悟はしていた。
しかし彼女は「変」とは言わなかった。それどころか、彫刻のような整った面に、ふふっと柔らかく笑みをこぼす。
「誰もいなかったわよ。どうしたの?」
彼女は澄んだ瞳で真っ直ぐに見つめてくる。
「……そうですか」
何だか違和感を感じる。
あの場所にノアがいなかったはずがない。彼は自力では到底移動できないような状態だった。かといって、人通りのほとんどないあの場所で、そんなすぐに誰かが助けたとも思えない。
それにそもそも、私が麗奈の家にいるのがおかしい。
私はエリアスを一人にさせたくないから、魔界へ行くことにしたはずなの。
私の願いを叶えるために。
「アンナ?」
つい考え込んでいた私を不思議そうな顔で見る麗奈。
「あ、はい。何ですか?」
私は慌てて返事をする。
「きっとまだ疲れているのね……。そうだ! アンナ、ホットミルクでも飲む?」
何がどうなったのかも分からないこんな状況では、飲む気にもなれない。
私は悪い夢でもみていたのかもしれない。ルッツのことも、エリアスやノアが酷いことも夢だったりして。そんな風に思えてくる。
「遠慮しないで! 作ってくるわ。ちょっと待っ——」
コンコン、と誰かがドアをノックする音がした。
え、どういうこと? 麗奈は一人暮らしではないの?そんな風に私は困惑する。
「……あら。もう時間なのね」
麗奈は急に寂しそうな顔をした。何やら様子がおかしい。
「麗奈?」
私は名前を呼んでみた。
すると彼女は私の方へ向き直り、こちらへ近づいてくる。そして、あと数歩のところで足を止めた。
「アンナ……悲しいわ。もう時間になってしまった……」
「え?」
一度目を閉じ再び開いた時、その黄色い瞳は煌々と輝いていた。人間離れした不気味で鋭い輝き。
「ごめんなさい、アンナ。あたし貴女に嘘をついたわ」
麗奈の服装が変わっていく。
一分も経たないうちに真っ黒なドレスになった。爪が伸び、コウモリのような羽が生える。
「本当はね、悪魔なの」
「……え?」
私はまだ信じられなかった。
「あたしの名はカルチェレイナ——魔界の王妃よ」
友達だと思っていた。信じていた。地上界で初めて知り合いになった、大切な友達だもの。
これからもずっと一緒に遊んだり話したりできるものと。そう信じて一度も疑わなかった。
今こうして告げられても——この時ですら私は信じていた。彼女は、『神木麗奈』は、私の友達だと。
そうだ。麗奈と遊んだ帰り道ルッツに襲われて。エリアスもノアも酷い目に遭っていたわ。
それからルッツがエリアスを連れていこうとした。
私はエリアスを放ってはおけないから、ついていくことにした……。
そうだ、置いてきちゃったノアは大丈夫かな。彼はあそこ倒れたままかもしれない。心配だけど、でもきっと誰かが見つけて助けてくれるはず。
だから大丈夫よね……。
意識が戻ると、薄水色の天井が視界に入った。背中にはフカフカした感覚。ここはベッドの上なのかもしれない。
そこへやって来たのは美しい女性——麗奈だった。
「アンナ! 起きたのね」
一つに束ねた水色の長い髪を揺らしながら、軽い足取りでこちらへ歩いてくる。
彼女は家でも化粧をしているのだろうか?いつもと変わらない美しさを保っていた。これですっぴんだとすれば余程の美女ということになる。
「……麗奈」
「びっくりしたわ、アンナ。道に倒れていたのよ。もしかして通り魔にでも襲われたの?」
麗奈は不安げに尋ねてくる。本当に優しい人だわ。
でも、だからこそ、彼女には言えない。通り魔に襲われたなんて。そんなことを言えば彼女まで巻き込んでしまうかもしれない。私はもう誰も巻き込みたくないの。
だから私は嘘をついた。地上界へ来てからただ一人だけできた人間の友達に嘘をついてしまった。
「助けていただいてありがとうございます。でも私、通り魔には会っていません。どうして倒れたのか記憶もないし……。麗奈はどうして私を?」
あれは彼女と別れてかなり経ってからのことだった。彼女が倒れていた私を発見するのはおかしい気もするのだが。
「実はね、これ!」
麗奈は明るい表情で箱を取り出す。
「アンナにプレゼントしようと思っていたのだけれど、渡すの忘れちゃったのよね。ごめんね。昨日はこれを渡したくて貴女の後を追っていったの。そしたら倒れている貴女を発見した。凄く驚いたわ」
「そうだったんですね」
それならまぁ意味は分かる。私を発見してもおかしな話ではない。もっとも、ルッツについて魔界へ行ったはずの私が道に倒れていたというところには、多少の疑問があるが。
「開けてみて!」
彼女はウキウキしているような表情で小さな箱を渡し、開けるよう促してくる。
私は恐る恐る箱の蓋を開けてみて、私は驚いた。
「凄い……!」
純白の羽のブローチだった。この世の物ではないと思えるような、不思議で魅力的なアクセサリー。
ブローチを胸元につけてみる。何だか温かい感じ。
「どこで買ったんですか?」
恐らく地上界で買ったのだろうが、信じられない綺麗さだ。
「え?」
彼女は一瞬困惑した表情になるが、すぐに元に戻る。
「どこって……普通の店よ」
それはそうか。逆に店以外で買ったはずがない。
そこで話題を変える。
「麗奈、私の近くに誰か他の人も倒れていませんでしたか?」
いきなりこんなことを尋ねたらおかしいと思われるかもしれない、そんな不安もあった。しかし、今はどう思われるかを気にしている余裕はない。それよりもエリアスやノアのことが気になるのだ。
変だと言われると覚悟はしていた。
しかし彼女は「変」とは言わなかった。それどころか、彫刻のような整った面に、ふふっと柔らかく笑みをこぼす。
「誰もいなかったわよ。どうしたの?」
彼女は澄んだ瞳で真っ直ぐに見つめてくる。
「……そうですか」
何だか違和感を感じる。
あの場所にノアがいなかったはずがない。彼は自力では到底移動できないような状態だった。かといって、人通りのほとんどないあの場所で、そんなすぐに誰かが助けたとも思えない。
それにそもそも、私が麗奈の家にいるのがおかしい。
私はエリアスを一人にさせたくないから、魔界へ行くことにしたはずなの。
私の願いを叶えるために。
「アンナ?」
つい考え込んでいた私を不思議そうな顔で見る麗奈。
「あ、はい。何ですか?」
私は慌てて返事をする。
「きっとまだ疲れているのね……。そうだ! アンナ、ホットミルクでも飲む?」
何がどうなったのかも分からないこんな状況では、飲む気にもなれない。
私は悪い夢でもみていたのかもしれない。ルッツのことも、エリアスやノアが酷いことも夢だったりして。そんな風に思えてくる。
「遠慮しないで! 作ってくるわ。ちょっと待っ——」
コンコン、と誰かがドアをノックする音がした。
え、どういうこと? 麗奈は一人暮らしではないの?そんな風に私は困惑する。
「……あら。もう時間なのね」
麗奈は急に寂しそうな顔をした。何やら様子がおかしい。
「麗奈?」
私は名前を呼んでみた。
すると彼女は私の方へ向き直り、こちらへ近づいてくる。そして、あと数歩のところで足を止めた。
「アンナ……悲しいわ。もう時間になってしまった……」
「え?」
一度目を閉じ再び開いた時、その黄色い瞳は煌々と輝いていた。人間離れした不気味で鋭い輝き。
「ごめんなさい、アンナ。あたし貴女に嘘をついたわ」
麗奈の服装が変わっていく。
一分も経たないうちに真っ黒なドレスになった。爪が伸び、コウモリのような羽が生える。
「本当はね、悪魔なの」
「……え?」
私はまだ信じられなかった。
「あたしの名はカルチェレイナ——魔界の王妃よ」
友達だと思っていた。信じていた。地上界で初めて知り合いになった、大切な友達だもの。
これからもずっと一緒に遊んだり話したりできるものと。そう信じて一度も疑わなかった。
今こうして告げられても——この時ですら私は信じていた。彼女は、『神木麗奈』は、私の友達だと。
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