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73話 「二人で一つのようなもの」
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「カルチェレイナ……。じゃあ貴女が私を狙っていたの?」
彼女はどこか切なげに頷く。
既に出会っていたなんて、まったく気づかなかった。
「じゃあ初めからそのつもりで近づいたの?」
「いいえ。初めはあたしも普通に友達と思っていたわ」
彼女の彫刻のような整った顔に、寂しげな笑みが浮かぶ。
「でもね、エリアスという名を聞いた時に気づいてしまったの。貴女がエンジェリカのアンナ王女であることを」
そうか。仲間にルッツがいるからエリアスのことを知っていたのか。
迂闊だった。また私のせい。私が無理を言ってエリアスを麗奈に会わせなければ、彼女が気づくことはなかった。
「改めて、アンナ王女。あたしの可愛い部下たちを紹介するわ。一緒に来てくれるかしら」
麗奈——否、カルチェレイナについていくのは怖かった。
でも、こんなところで止まっていても意味がない。立ち向かわなくては。などと自分で自分を鼓舞する。
「カルチェレイナ……一つだけ聞かせて」
先に行こうとしていた彼女は、振り返り怪しく微笑すると、「いいわよ」と答えた。
私は変わらなくてはならない。だから勇気を出して聞く。
「エリアスは今どこにいるの」
すると彼女は静かに返す。
「……安心しなさい。すぐに会わせてあげるわ」
その声はあまりに冷たくて、私はゾッとした。
それと同時に、優しかった麗奈はもういないのだと実感した。クレープを食べたり、地上界のゲームについて教えてくれたり、メイドカフェへ連れていってくれたりした麗奈。私に友達の楽しさを教えてくれた麗奈。
——彼女はもう存在しないのだ。
それから私はカルチェレイナに連れられて不気味な暗い廊下を歩いた。
どこへ行くのだろう、私はこれからどうなるのだろう。底無しの恐怖が波のように繰り返し襲ってくる。
今私を護るものは、私以外には何一つない。自分で自分の身を護らなくてはならないこの状況。それがどれほど恐ろしいか、まざまざと思い知らされた。
「着いたわ、アンナ」
カルチェレイナが足を止めたのは、鉄製の分厚い扉の前だった。取り付けられている大きな錠を彼女は簡単に外す。彼女に促され、私は部屋に入る。
そこにはルッツとヴィッタが立っていた。
「カルチェレイナ様! お待ちしてましたぁ! キャハッ!」
ヴィッタがくねくねしながら嬉しそうに声をかける。
「静かにしなさい」
「はぁい! ヤーン、カルチェレイナ様に注意されちゃった!」
「ヴィッタ、うるさい」
「あ!? 元・天使が偉そうな口利いてんじゃねぇよ!」
ヴィッタのルッツに対する態度は最悪だ。まぁ、彼女らしいといえば彼女らしいが。
「紹介するわ、アンナ。二人があたしの可愛い部下よ。本当は、もう二人いたのだけれどね」
ライヴァンとベルンハルトのことね。それにしてもわざわざ紹介なんてして、何のつもりだろうか。
「この赤い子がヴィッタ、可愛いでしょ。家庭の事情であたしが引き取ったの。で、そっちの黒いのがルッツ。エリアスの弟だから彼のことはよく知っているでしょう」
正直そんなに知らないけれどね。
「あとは、ライヴァンっていうバカ丸出しの男がいたわ。それとベルンハルト。彼は昔恋人を亡くしたらしくってね。大切な人を亡くした悲しみを共感し合える相手だったわ」
麗奈が以前夫と子どもを亡くしたと言っていたことを、ふと思い出す。
カルチェレイナはヴィッタに電気を灯すよう命じる。ヴィッタは信じられないくらい従順にボタンを押す。
消えていた奥のライトがつくと、檻の中に閉じ込められたエリアスの姿が顕わになる。
「エリアス!」
私は半ば無意識に檻へ駆け寄る。
「エリアス、会いたかった! 平気? 酷いことされてない?」
見た感じ酷い傷はなさそうだが、なんせこのメンバーだ、何をされているか分からない。
「王女、なぜです。なぜ貴女までここへ来たのですか」
「貴方を一人にはできなかったのよ。当然じゃない」
「おかしいです、貴女が私のために捕まるなど……」
次の瞬間、エリアスは急に耳打ちする。
「王女、ブローチを外さないで下さい」
私は一瞬ついていけなかった。だが少しして、さっき貰った白い羽のブローチのことを言っているのだと気づく。
「ついているのは私の羽です」
私は衝撃を受けた。
カルチェレイナは嘘をついていたのか。エリアスの羽を抜いて、ブローチにして私に渡したというの。何て残酷な。
「きっと貴女の力になります。身につけておいて下さい」
「でも羽、痛く……」
「二三枚ですからご安心を」
でも少しだけ納得した。ブローチを身につけた時に感じた温かさ。あれはエリアスの羽だからだったんだわ。
「アンナ、お話は済んだ?」
カルチェレイナが口を挟む。終わりという意味なのだろう。
本当はずっとエリアスの傍にいたいけど、そういうわけにはいかないことは分かっている。今から私たちを待つ絶望がどれほどのものか……できれば考えたくない。
「済んだわ。カルチェレイナ、私たちに何をするつもり?」
すると彼女はニヤリと笑みを浮かべた。
「アンナ、あたしの願いを叶えてくれる?」
「断るわ」
「そう言うと思ったわよ。だからエリアスを使うの」
脅かそうとしたって無意味なんだから! と心の中で言い放ってやった。
私は決めたの、変わるって。
「彼を極限まで追い詰める。そうすれば貴女は従わざるをえなくなる」
「エリアスを追い詰められるつもりでいるの? 彼は悪魔なんかに屈さないわ」
わざと強気に言い返してやった。
姿かたちは同じでも、目の前にいるのは麗奈じゃない。魔界の王妃カルチェレイナ、私の敵だ。
「簡単なことよ。貴女を使えばいい」
カルチェレイナは一瞬にして私の体を引き寄せる。気づくと首に彼女の長い爪が触れていた。
「アンナとエリアス、貴方たちは二人で一つのようなもの。傍にいることで強くなる。けれどもお互いが弱点でもある……不思議ね」
言い終わるとカルチェレイナは私から手を離し、少し歩いて離れる。それからくるりと身を返す。
そして宣言した。
「さぁ、ショータイムの始まりよ」
彼女はどこか切なげに頷く。
既に出会っていたなんて、まったく気づかなかった。
「じゃあ初めからそのつもりで近づいたの?」
「いいえ。初めはあたしも普通に友達と思っていたわ」
彼女の彫刻のような整った顔に、寂しげな笑みが浮かぶ。
「でもね、エリアスという名を聞いた時に気づいてしまったの。貴女がエンジェリカのアンナ王女であることを」
そうか。仲間にルッツがいるからエリアスのことを知っていたのか。
迂闊だった。また私のせい。私が無理を言ってエリアスを麗奈に会わせなければ、彼女が気づくことはなかった。
「改めて、アンナ王女。あたしの可愛い部下たちを紹介するわ。一緒に来てくれるかしら」
麗奈——否、カルチェレイナについていくのは怖かった。
でも、こんなところで止まっていても意味がない。立ち向かわなくては。などと自分で自分を鼓舞する。
「カルチェレイナ……一つだけ聞かせて」
先に行こうとしていた彼女は、振り返り怪しく微笑すると、「いいわよ」と答えた。
私は変わらなくてはならない。だから勇気を出して聞く。
「エリアスは今どこにいるの」
すると彼女は静かに返す。
「……安心しなさい。すぐに会わせてあげるわ」
その声はあまりに冷たくて、私はゾッとした。
それと同時に、優しかった麗奈はもういないのだと実感した。クレープを食べたり、地上界のゲームについて教えてくれたり、メイドカフェへ連れていってくれたりした麗奈。私に友達の楽しさを教えてくれた麗奈。
——彼女はもう存在しないのだ。
それから私はカルチェレイナに連れられて不気味な暗い廊下を歩いた。
どこへ行くのだろう、私はこれからどうなるのだろう。底無しの恐怖が波のように繰り返し襲ってくる。
今私を護るものは、私以外には何一つない。自分で自分の身を護らなくてはならないこの状況。それがどれほど恐ろしいか、まざまざと思い知らされた。
「着いたわ、アンナ」
カルチェレイナが足を止めたのは、鉄製の分厚い扉の前だった。取り付けられている大きな錠を彼女は簡単に外す。彼女に促され、私は部屋に入る。
そこにはルッツとヴィッタが立っていた。
「カルチェレイナ様! お待ちしてましたぁ! キャハッ!」
ヴィッタがくねくねしながら嬉しそうに声をかける。
「静かにしなさい」
「はぁい! ヤーン、カルチェレイナ様に注意されちゃった!」
「ヴィッタ、うるさい」
「あ!? 元・天使が偉そうな口利いてんじゃねぇよ!」
ヴィッタのルッツに対する態度は最悪だ。まぁ、彼女らしいといえば彼女らしいが。
「紹介するわ、アンナ。二人があたしの可愛い部下よ。本当は、もう二人いたのだけれどね」
ライヴァンとベルンハルトのことね。それにしてもわざわざ紹介なんてして、何のつもりだろうか。
「この赤い子がヴィッタ、可愛いでしょ。家庭の事情であたしが引き取ったの。で、そっちの黒いのがルッツ。エリアスの弟だから彼のことはよく知っているでしょう」
正直そんなに知らないけれどね。
「あとは、ライヴァンっていうバカ丸出しの男がいたわ。それとベルンハルト。彼は昔恋人を亡くしたらしくってね。大切な人を亡くした悲しみを共感し合える相手だったわ」
麗奈が以前夫と子どもを亡くしたと言っていたことを、ふと思い出す。
カルチェレイナはヴィッタに電気を灯すよう命じる。ヴィッタは信じられないくらい従順にボタンを押す。
消えていた奥のライトがつくと、檻の中に閉じ込められたエリアスの姿が顕わになる。
「エリアス!」
私は半ば無意識に檻へ駆け寄る。
「エリアス、会いたかった! 平気? 酷いことされてない?」
見た感じ酷い傷はなさそうだが、なんせこのメンバーだ、何をされているか分からない。
「王女、なぜです。なぜ貴女までここへ来たのですか」
「貴方を一人にはできなかったのよ。当然じゃない」
「おかしいです、貴女が私のために捕まるなど……」
次の瞬間、エリアスは急に耳打ちする。
「王女、ブローチを外さないで下さい」
私は一瞬ついていけなかった。だが少しして、さっき貰った白い羽のブローチのことを言っているのだと気づく。
「ついているのは私の羽です」
私は衝撃を受けた。
カルチェレイナは嘘をついていたのか。エリアスの羽を抜いて、ブローチにして私に渡したというの。何て残酷な。
「きっと貴女の力になります。身につけておいて下さい」
「でも羽、痛く……」
「二三枚ですからご安心を」
でも少しだけ納得した。ブローチを身につけた時に感じた温かさ。あれはエリアスの羽だからだったんだわ。
「アンナ、お話は済んだ?」
カルチェレイナが口を挟む。終わりという意味なのだろう。
本当はずっとエリアスの傍にいたいけど、そういうわけにはいかないことは分かっている。今から私たちを待つ絶望がどれほどのものか……できれば考えたくない。
「済んだわ。カルチェレイナ、私たちに何をするつもり?」
すると彼女はニヤリと笑みを浮かべた。
「アンナ、あたしの願いを叶えてくれる?」
「断るわ」
「そう言うと思ったわよ。だからエリアスを使うの」
脅かそうとしたって無意味なんだから! と心の中で言い放ってやった。
私は決めたの、変わるって。
「彼を極限まで追い詰める。そうすれば貴女は従わざるをえなくなる」
「エリアスを追い詰められるつもりでいるの? 彼は悪魔なんかに屈さないわ」
わざと強気に言い返してやった。
姿かたちは同じでも、目の前にいるのは麗奈じゃない。魔界の王妃カルチェレイナ、私の敵だ。
「簡単なことよ。貴女を使えばいい」
カルチェレイナは一瞬にして私の体を引き寄せる。気づくと首に彼女の長い爪が触れていた。
「アンナとエリアス、貴方たちは二人で一つのようなもの。傍にいることで強くなる。けれどもお互いが弱点でもある……不思議ね」
言い終わるとカルチェレイナは私から手を離し、少し歩いて離れる。それからくるりと身を返す。
そして宣言した。
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