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79話 「突きつけられた言葉」
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魔界を脱出し地上界へ戻った私たちを一番に迎えてくれたのはジェシカだった。
彼女は随分疲れた顔をしていたが、私たちに気がつくと、 すぐに駆け寄ってきてくれる。
「無事だったのっ!? 王女様、酷いことされなかった?」
そう尋ねる彼女は憂色を漂わせていた。
「えぇ」
そう答えるとジェシカは安堵の表情を浮かべる。はっきりした目をパチパチまばたかせている。
「良かった……、良かった」
彼女はとても喜んでくれた。まるで自分のことのように。我ながらいい友人を持ったと思うわ。
それから私は、ジェシカから何がどうなったのか事の全貌を聞いた。
まず、帰宅しないノアを心配して、ジェシカは彼を探しにいったらしい。そしてあの道で倒れている彼を発見した。
「かなり重傷だったけど息はあったんだ。ノアが『隊長と王女様が拐われた』なんて言うから、いきなりすぎてびっくりしたよ」
ジェシカはノアを連れて天界列車に乗り一度天界へ帰ったらしい。そして私たちが拐われたことをディルク王へ伝えに走り、それによってディルク王直々に救出しに行くことになったという。
「ジェシカさんのおかげね、ありがとう。助かったわ」
本当に。
みんなが助けに来てくれなかったら、私もエリアスも、もっと酷い目に遭っているところだった。散々いたぶられた挙げ句殺されるという危機を回避することができたのはみんなのおかげだ。
今は感謝しかない。
「いやいや、あたしはたいしたことしてないよ。ノアから聞かなかったら分かんなかったわけだし、救出作戦で戦ったのは王様と親衛隊だし」
そこに聞き覚えのある声が乱入してくる。
「おっと! もしや、麗しき僕のことを忘れているね!?」
自分に麗しきなどとつけるのは知り合いに一人しかいない。
「ライヴァン! ごめん、アンタのこと忘れてた」
「酷いなぁ。まったく、これだから野蛮な天使は……」
「うるさいな! 野蛮は余計! 野蛮はいらないって!」
そう、ライヴァンだ。
だが彼は悪魔。背中にはコウモリのような羽が生えている。
「やぁ、久しぶりだね。お人好し王じ……ぶっ!」
私に対しうやうやしく手を差し出すライヴァンの頭に、エリアスが強烈なチョップを食らわせた。かなり痛かったらしく、涙目になりながら頭をさするライヴァン。若干可哀想な気もした。
「王女に気安く触れるな、汚らわしい」
エリアスはなぜか怒っている様子。いや、単にライヴァンを嫌っているだけかもしれない。
「ひっ、酷いなぁ! 麗しいこの僕の頭にチョップなど、はげたらどうしてくれるんだい!」
ライヴァンはライヴァンで気にするところがおかしいわ。髪より脳を気にしなさい、脳を。
そんなおかしなことになっていてもまだ冷ややかな表情を崩さないエリアスに、ジェシカが説明する。
「ライヴァンは悪くないよ。魔界の案内役をしてくれたんだ。だからそんなに嫌わないで」
ごもっともな意見である。
今の私たちは彼にお礼を言わなくてはならない立場だ。
「……そうなのか?」
エリアスは睨みつつライヴァンに確認する。
「その通りさ! 麗しい僕のおかげで君たちは助かった!」
ライヴァンは調子に乗って謎のポーズをきめる。Dの字のようなポーズだ。彼は今日も安定して痛い。常にこのテンションを保てているのはもはや尊敬の域である。
「……ライヴァン。今回ばかりは感謝しよう。私ではどうしようもなかった」
エリアスは不服そうな表情をしつつも素直にお礼を述べる。表情と口調のずれが何だか可愛らしくも感じられる。
一方ライヴァンは少し恥ずかしそうな顔をする。素直に礼を言われるとは予想していなかったのかもしれない。
「アンナ、怪我はないか?」
親衛隊員と話していたディルク王がこちらへやって来る。
エリアスの時も思ったけど、やっぱり天使に地上界はあまり似合わないわね。周囲の風景と馴染まなすぎてシュールな感じになってしまっているわ。
「お父様。私は平気よ」
ディルク王と話していた二人は、どうやら助けに来てくれた時の二人のようだ。記憶が曖昧だが確かこんな顔だった気がする。
一人は赤い髪をオールバックにしていてやや筋肉質。もう一人は鴬色のおかっぱのような髪型でわりと細め。
対照的な容姿である。
「お父様、その二人は?」
何となく気になったので聞いてみる。二人とも見たことのない天使だ。髪色のせいかよく目立つ。
「ツヴァイとレクシフ、我が忠実なる親衛隊の所属だ」
ディルク王は指差して教えてくれる。どうやら、赤い方がツヴァイ、鴬色の方がレクシフのようだ。
「よろしくお願いします」
鴬色の髪をしたレクシフは礼儀正しく頭を下げた。
品のある雰囲気をまとう、やや中性的な男性である。
「よろしくでっす!」
ツヴァイと呼ばれた赤い髪の天使が、軽いノリで片手を掲げる。それが彼流の挨拶の仕方なのだろう。
「アンナ、お前の護衛たちはもう護衛任務を果たせない。これからはこの二人を連れていけ」
私は耳を疑った。いきなり何を言い出すのか。
ディルク王の言葉に戸惑っていると、隣にいたエリアスが先に口を開く。
「待って下さい、ディルク王。それはどういう意味ですか」
ジェシカはもちろん、ライヴァンも驚いた顔をしている。いきなりこんな話が出てきたのだから、彼らがどう反応していいものか分からないのも無理はない。
私だって話についていけていないわ。
「今後、アンナの護衛は、すべてツヴァイとレクシフがする」
それはつまり——エリアスはくびということ? またまた意味が分からない。
「……なぜです」
エリアスは納得できないような顔で静かに尋ねた。対してディルク王は淡々と答える。
「お前ではアンナを護れぬ」
——それは、何よりも冷ややかな言葉。
突きつけられた言葉に、エリアスの顔から血の気が引いていく。
みるみるうちに顔面蒼白になった彼は、そのまま地面に座り込んでしまった。
彼女は随分疲れた顔をしていたが、私たちに気がつくと、 すぐに駆け寄ってきてくれる。
「無事だったのっ!? 王女様、酷いことされなかった?」
そう尋ねる彼女は憂色を漂わせていた。
「えぇ」
そう答えるとジェシカは安堵の表情を浮かべる。はっきりした目をパチパチまばたかせている。
「良かった……、良かった」
彼女はとても喜んでくれた。まるで自分のことのように。我ながらいい友人を持ったと思うわ。
それから私は、ジェシカから何がどうなったのか事の全貌を聞いた。
まず、帰宅しないノアを心配して、ジェシカは彼を探しにいったらしい。そしてあの道で倒れている彼を発見した。
「かなり重傷だったけど息はあったんだ。ノアが『隊長と王女様が拐われた』なんて言うから、いきなりすぎてびっくりしたよ」
ジェシカはノアを連れて天界列車に乗り一度天界へ帰ったらしい。そして私たちが拐われたことをディルク王へ伝えに走り、それによってディルク王直々に救出しに行くことになったという。
「ジェシカさんのおかげね、ありがとう。助かったわ」
本当に。
みんなが助けに来てくれなかったら、私もエリアスも、もっと酷い目に遭っているところだった。散々いたぶられた挙げ句殺されるという危機を回避することができたのはみんなのおかげだ。
今は感謝しかない。
「いやいや、あたしはたいしたことしてないよ。ノアから聞かなかったら分かんなかったわけだし、救出作戦で戦ったのは王様と親衛隊だし」
そこに聞き覚えのある声が乱入してくる。
「おっと! もしや、麗しき僕のことを忘れているね!?」
自分に麗しきなどとつけるのは知り合いに一人しかいない。
「ライヴァン! ごめん、アンタのこと忘れてた」
「酷いなぁ。まったく、これだから野蛮な天使は……」
「うるさいな! 野蛮は余計! 野蛮はいらないって!」
そう、ライヴァンだ。
だが彼は悪魔。背中にはコウモリのような羽が生えている。
「やぁ、久しぶりだね。お人好し王じ……ぶっ!」
私に対しうやうやしく手を差し出すライヴァンの頭に、エリアスが強烈なチョップを食らわせた。かなり痛かったらしく、涙目になりながら頭をさするライヴァン。若干可哀想な気もした。
「王女に気安く触れるな、汚らわしい」
エリアスはなぜか怒っている様子。いや、単にライヴァンを嫌っているだけかもしれない。
「ひっ、酷いなぁ! 麗しいこの僕の頭にチョップなど、はげたらどうしてくれるんだい!」
ライヴァンはライヴァンで気にするところがおかしいわ。髪より脳を気にしなさい、脳を。
そんなおかしなことになっていてもまだ冷ややかな表情を崩さないエリアスに、ジェシカが説明する。
「ライヴァンは悪くないよ。魔界の案内役をしてくれたんだ。だからそんなに嫌わないで」
ごもっともな意見である。
今の私たちは彼にお礼を言わなくてはならない立場だ。
「……そうなのか?」
エリアスは睨みつつライヴァンに確認する。
「その通りさ! 麗しい僕のおかげで君たちは助かった!」
ライヴァンは調子に乗って謎のポーズをきめる。Dの字のようなポーズだ。彼は今日も安定して痛い。常にこのテンションを保てているのはもはや尊敬の域である。
「……ライヴァン。今回ばかりは感謝しよう。私ではどうしようもなかった」
エリアスは不服そうな表情をしつつも素直にお礼を述べる。表情と口調のずれが何だか可愛らしくも感じられる。
一方ライヴァンは少し恥ずかしそうな顔をする。素直に礼を言われるとは予想していなかったのかもしれない。
「アンナ、怪我はないか?」
親衛隊員と話していたディルク王がこちらへやって来る。
エリアスの時も思ったけど、やっぱり天使に地上界はあまり似合わないわね。周囲の風景と馴染まなすぎてシュールな感じになってしまっているわ。
「お父様。私は平気よ」
ディルク王と話していた二人は、どうやら助けに来てくれた時の二人のようだ。記憶が曖昧だが確かこんな顔だった気がする。
一人は赤い髪をオールバックにしていてやや筋肉質。もう一人は鴬色のおかっぱのような髪型でわりと細め。
対照的な容姿である。
「お父様、その二人は?」
何となく気になったので聞いてみる。二人とも見たことのない天使だ。髪色のせいかよく目立つ。
「ツヴァイとレクシフ、我が忠実なる親衛隊の所属だ」
ディルク王は指差して教えてくれる。どうやら、赤い方がツヴァイ、鴬色の方がレクシフのようだ。
「よろしくお願いします」
鴬色の髪をしたレクシフは礼儀正しく頭を下げた。
品のある雰囲気をまとう、やや中性的な男性である。
「よろしくでっす!」
ツヴァイと呼ばれた赤い髪の天使が、軽いノリで片手を掲げる。それが彼流の挨拶の仕方なのだろう。
「アンナ、お前の護衛たちはもう護衛任務を果たせない。これからはこの二人を連れていけ」
私は耳を疑った。いきなり何を言い出すのか。
ディルク王の言葉に戸惑っていると、隣にいたエリアスが先に口を開く。
「待って下さい、ディルク王。それはどういう意味ですか」
ジェシカはもちろん、ライヴァンも驚いた顔をしている。いきなりこんな話が出てきたのだから、彼らがどう反応していいものか分からないのも無理はない。
私だって話についていけていないわ。
「今後、アンナの護衛は、すべてツヴァイとレクシフがする」
それはつまり——エリアスはくびということ? またまた意味が分からない。
「……なぜです」
エリアスは納得できないような顔で静かに尋ねた。対してディルク王は淡々と答える。
「お前ではアンナを護れぬ」
——それは、何よりも冷ややかな言葉。
突きつけられた言葉に、エリアスの顔から血の気が引いていく。
みるみるうちに顔面蒼白になった彼は、そのまま地面に座り込んでしまった。
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