エンジェリカの王女

四季

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80話 「説得も虚しく」

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「お前は護るどころかアンナを危険に曝した。そんな者を護衛と認めるわけにはいかぬ」

 ショックを受けて顔面蒼白になっているエリアスに追い討ちをかけるようにディルク王は冷たく言い放つ。情けなど欠片もない、冷ややかで淡々とした声色だ。

「違うわ、エリアスは悪くない。私が勝手についていったのよ! 分かって」
「何も違わん」

 慌ててエリアスを擁護しようと口を挟むと、ディルク王は淡々とした口調で言い返してくる。

「エリアスがいなければお前は危険な目に遭わずに済んでいた。そうだろう?」

 私は信じられない思いで目の前の父親を見つめた。ずっと私を護ってくれていたエリアスに平気でそんなことを言えるとは、なんと心ない天使か。

 エリアスがいなければ私は一生王宮から出られなかった。ジェシカやノアと知り合うことも、地上界を歩くことも、すべてなかっただろう。今の私があるのはエリアスのおかげ。
 だから私は彼にとても感謝している。
 しかしディルク王はそんなエリアスに対し躊躇なく酷いことを言った。こればかりは許せない。

「お父様! 何を言い出すの! エリアスとは関係な——」
「王女」

 ディルク王に反論しようとした私の言葉をエリアスが遮る。

「ディルク王の仰ったことは事実です」

 少し間をあけて続ける。

「私は王女に迷惑をかけてしまいました。それは認めます。ですが! どうか、私にもう一度チャンスを下さい!」

 エリアスの悲痛な叫びがディルク王に届くことはなかった。ディルク王は自身の考えを少しも変えず冷淡に答える。

「いずれにせよお前はもう戦えまい。肩の傷もあるだろう」
「戦えます! 私は王女のためならどんなこともします!」

 エリアスはすぐさまそう返す。彼らしい返しだ。

「誰もがいつかは衰えるもの。それ故、お前が悪いとは言わんが、今のお前にアンナは任せられない」
「……っ」

 エリアスは唇を噛みながら悔しそうな表情を浮かべる。その様子は、言うべき言葉を探しているようにも見える。

 そんなエリアスには気をかけず、ディルク王はツヴァイとレクシフに次の指示を出す。
 自動的に話が進んでいってしまい止められない。

 このままではエリアスと一緒にいられなくなる。それだけはどうにか回避しなくては。こんなくだらないことで彼と別れるなんて絶対に嫌。

「お父様、聞いて。私はエリアスがいいわ」

 血の繋がりがあるとはいえそこまで親しくない父親だ、簡単に私の意見を聞き入れてくれるかは分からない。だが言わないよりはましだろう。
 今言わなければ後悔する。それは確かだ。

「何? 父親に逆らうのか?」

 ディルク王は眉を寄せ怪訝な顔をする。

「そうじゃなくて、話を聞いてほしいの。私はエリアスが護衛隊長に相応しいと言える根拠を色々と持っているわ」

 それまで悔しそうに俯いていたエリアスが、顔を上げてこちらに目をやる。
 ディルク王は私の発言に興味を持ったのか「根拠とは?」と尋ねてくる。

 ……勢いで言っただけだ。

 エリアスこそ私の護衛隊長。そう思っているのは事実だ。彼の長所もたくさん知っている。だが根拠と呼べるほど立派なものかは分からない。果たしてディルク王を説得できるような内容であるかは、何とも言えない。
 それでも今更下がれない。

「お父様が知らないエリアスの魅力を私はたくさん知っているのよ」
「ならばお前がわしを説得してみせろ」

 私は頷き、エリアスの良いところを話し始める。

 いつも温かな声をかけてくれること、どんな時も傍にいてくれることや、味方してくれること……。他にもたくさんある。
 いざ口にしてみると、予想よりも多くの良いところが見つかった。普段は改めて長所を探す機会などあまりないの。だから自覚していなかったが、私はエリアスの良いところを結構な数知っていた。

「……そうか」

 私がだいぶ話した時、ディルク王は小さくそう言った。

「お前はエリアスを信頼しているのだな」
「そうよ」
「確かに。それは伝わった」

 私はディルク王が理解してくれたと思って胸を撫で下ろした。

 しかし。

 次の瞬間、赤い髪のツヴァイて鴬色の髪のレクシフが、それぞれ私の腕を掴む。

「だがそれとこれとは話が別だ。ツヴァイ、レクシフ。アンナを速やかにエンジェリカへ連れて帰れ」

 ディルク王の下した命令に、私は唖然とするしかなかった。

「オッケーっす!」
「承知しました。アンナ王女をエンジェリカへ送り届けます」

 ツヴァイとレクシフは各々返事をすると、半ば強制的に私を連れていこうとする。

 あからさまな発言はしないものの、優しさが感じられない。無理矢理である。命令だから仕方ないのかもしれないが。

「待って、離してちょうだい。話はまだ……!」

 抵抗しようと身を捩ると、レクシフに冷たく睨まれる。

「王の命令には誰であろうと逆らえません」

 もはや忠実の域を越えていると思い寒気がした。

 ディルク王の命令に誰も逆らえないのならば、もし彼が「死ね」と言えばどうなる?みんな従って死ななくてはならないということだ。
 そんなことがあって堪るものか。

 苛立った私は、絶望で生気をなくしかけているような顔のエリアスに向けて、叫んだ。

「エリアス! 助けて!」

 ツヴァイとレクシフは敵ではないが、邪魔者ではある。私の心と逆のことを強要してくるのだから。
 邪魔者の排除。それは護衛隊長の職務に含まれるはず。

「私の護衛隊長でしょう!?」

 その声に彼は顔を上げた。

 エリアスは私の護衛隊長であることを望んでいて、私は彼に傍にいてほしいと思っている。つまり二人は同じ意見だということ。
 二人の気持ちを阻害することこそ、誰にもできないことだ。私はそう思う。
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