エンジェリカの王女

四季

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81話 「真実には向き合えない」

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 顔を上げたエリアスの表情はもう暗くなかった。目つきもいつもの彼らしい鋭さを取り戻している。

「……そうでしたね、王女。私は貴女の護衛隊長です」

 開いた手に白く輝く聖気が集まってくる。やがて出現した長い槍を彼は構えた。

 それに対しレクシフが激しく叫ぶ。

「エリアスさん! 天使でありながら王に武器を向けるなど、裏切り行為ですよ!」

 ディルク王に忠誠を誓う彼からすればありえない行為なのだろう。それがありありと分かるぐらい取り乱している。

 エリアスは長槍でレクシフに攻撃を仕掛ける。当然首を取りにいくような本気の振りではないが、それでも当たれば十分な威力がありそうだ。槍が長いので攻撃が届く範囲も広い。
 しかし、ギリギリのところで赤い髪のツヴァイが間に入り、エリアスの長槍を弾き返した。
 彼の手には二本の短剣が握られている。持ち手は髪と同じ赤い色。刃は銀色で、雲のように曲線的なラインを描いている。今までに見たことのない珍しい形状の短剣だ。

「ちょっとちょっと。いきなり攻撃は酷いっすよ。何考えてるんですか、エリアスさん」

 ツヴァイは二本の短剣でしっかり槍を受け止めつつ、私を見張っているレクシフに対し「先に行け」と言った。「こいつは俺が相手するから」と、エリアスを悪者みたいに扱う。

 レクシフが体に触れようとした瞬間、私は半ば無意識で「触らないで」と叫んでいた。
 純粋に触れられたくなかったのだ。いくら仕事だといっても、親しくない相手に触れられるのは、いい気がしないもの。

 しかしその直後、レクシフが物凄い勢いで吹き飛んだ。まるで彼が空き缶のように軽くなってしまったかのようである。私は一瞬何が起きたか掴めなかったが、どうやら力が発動したらしい。「触らないで」と言ったからだと思われる。

 身構えずに吹き飛ばされたレクシフは壁にぶつかった衝撃で立ち上がれそうにない。

 私からレクシフが離れたことに気がついたエリアスは咄嗟に槍を消してこちらへ飛ぶ。しかしツヴァイが素早く足首を掴んでいた。エリアスは引きずり下ろされ、そのまま地面に打ち付けられた。

「エリアスさんはアンナ王女のことしか見ていない。それで俺に勝てると思うとか甘いんっすよ」

 ツヴァイは地面に叩きつけられ立てないエリアスの背中に乗って押さえ込む。

「よく護衛隊長名乗れるっすね。本当はアンナ王女のこと、恋愛として好きなんでしょ?」
「……何を言って」

 エリアスは顔を強張らせる。いきなりそんなことを言われれば意図が分からず警戒するのも無理はない。

「まぁアンナ王女は美人さんだしおかしな話ではないっすけど。やっぱエリアスさんも案外普通の男なんっすね」
「黙れ!」

 ニタリと笑みを向けられたエリアスは暴れて抵抗する。しかしツヴァイは慣れているらしく一切動揺しない。両腕を背中に押し付け、がっちりとエリアスを押さえ込んでいる。

 エリアスが逃れられないとはかなりの力だ。

「叶わない恋は辛いっすよね。気づいてすらもらえない……」
「離せ!」

 ツヴァイの発言を振り払うように叫ぶエリアス。

「いや、それは無理っす。それよりエリアスさん。本当は触ったり愛を囁きあったり、今よりもっと近くにいったりしたいんでしょ?」
「そんなこと……!」

 否定しつつもエリアスは赤面している。もしかして図星なの? 私は少しそんな風に思ってしまった。

「王女様っ」

 レクシフがこちらへ来る前にジェシカが来る。その手には剣が握られていた。傷だらけの体だ、剣をとってもまともに戦えないだろう。

「ジェシカさん、戦うつもり?」

 尋ねると彼女は首を左右に振った。

 何か別の作戦があるのだろうか。戦わないにも関わらず剣を構えるということは時間稼ぎかそれとも……。

「見よ! これぞ我が必殺技!」

 突如ライヴァンの騒がしい声が響く。全員の視線が彼に注がれる。

「麗しき僕!」

 謎のポーズと共に大量の魔気が噴出される。レクシフとツヴァイはさすがに怯む。
 その隙にジェシカが私の手を引っ張って、どこかへ連れていくのだった。


 だいぶ走った気がする。どのくらい走り続けたのだろう、呼吸がはぁはぁと乱れる。こんなに走るのは久しぶりだ。
 運動なれしているからか、ジェシカは呼吸が乱れていない。慣れって凄いことね。基本運動不足の私は必死だったわ。途中で何度も転けそうになったし。

「王女様、大丈夫?」

 辺りを見回してみるがディルク王はいない。ツヴァイとレクシフの姿もなかった。

「何とか。でもエリアスはどうなって……」
「ここさ!」

 振り返るとライヴァンが立っていた。その隣にかなり疲れた表情のエリアスもいる。

「体は大丈夫?」

 すぐに駆け寄り確認する。ツヴァイに押さえ込まれた時にどこか痛めていないか心配だ。

 彼は私の質問に頷いたが、いつものような微笑みは浮かべない。

 その時ふとツヴァイの言っていたことを思い出す。

 アンナ王女を恋愛として好き、というあの言葉を気にしているのかもしれない。私はそんなことは気にしないが、真面目な彼のことだ、何か思って悩んでいるしれない。
 彼は触れてほしくないだろうが、いつまでも放置していると余計にややこしい。だから私はストレートに尋ねてみることにした。

「ねぇ、エリアス。ツヴァイが言っていたことは本当? 貴方は私を好きなの?」
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