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83話 「三重坂との別れ」
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ジェシカは必要な荷物をまとめるために一度暮らしていた家へ戻る。鴬色の髪のレクシフもそれに同行することになり、私は二人を見送った。
後で合流するというだけのことだが、何だか少し寂しい気もする。
私は、この前ノアと買ったジェルキャンドルの材料も持ち帰るよう、ジェシカに頼んだ。
材料は買ったものの色々忙しくてまだ作れていなかったジェルキャンドル。
少し落ち着いたら作ってみたいと思うの。カラフルな砂はとても綺麗だったし、あれを使えばきっと素敵なものができるわね。
そして私はエンジェリカへ帰るため天界列車の乗り場へ向かった。ディルク王とツヴァイ、そしてエリアス。四人で乗り場へ——と思っていたら、ライヴァンもちゃっかりついてきていた。
……馴染みすぎ。
もう悪魔になれないんじゃない? なんて思うぐらい。
エスカレーター。改札。
懐かしい思い出が蘇る。
ジェシカとノアの案内で初めて地上界へ来たあの日、私は生き物だと思ってびっくりした。機械なんて知らなかったから。
「……懐かしいな」
見るものすべてが新鮮で、驚きに満ちていて、楽しくて仕方なかった。エリアスと別れるのは寂しかったけど、地上界の興味深さに、つい寂しさを忘れていたりしたわね。
「地上界ともお別れなのね」
正直辛かった。気を緩めたら涙が出そうな気がする。
エンジェリカで生まれ育った私にもこの街は優しかった。天使でも普通に受け入れてくれたし、私にいろんな経験をさせてくれた。
そして友達も——。
「……麗奈」
出会いは些細なことだった。おつかいに行ったら十円足りなくて困っていたら、後ろに並んでいた麗奈がお金を払ってくれて。それから私たちは親しくなった。
あの日食べたイチゴクレープ、とても美味しかったな。
——麗奈。
もし私がエンジェリカの王女でなかったら、私たちには普通の友達になる道もあったのかもしれない。
手を取り合って、笑いあって。色々なところへお出かけして。大切な友達になれていたかもしれなかった。
私がエンジェリカの王女だったから——。
「どうなさいました?」
エリアスの声で私は現実に引き戻される。気づくと頬が濡れていた。
「王女、なぜ泣いておられるのですか?」
彼の瑠璃色の瞳が不安そうに見つめてくる。私は慌てて涙を拭った。
こんなことで泣いていたら何もできない。しっかりしないと。
「……大丈夫。気にしないで」
「ですが王女」
「気にしないで! 私は何ともないから!」
私は無理矢理笑顔を作り明るく言う。こんなことで彼を心配させるのは嫌だから。
「地上界は素敵なところですね。……三重坂。またいつか一緒に来ましょうか」
天界列車に乗り込む時、エリアスは言いながら柔らかく微笑んだ。長い睫が笑みを際立たせている。
「麗しき僕も一緒さ!」
たまたま横にいたライヴァンが急に謎のポーズをとる。それを見て、エリアスは冷めた表情になるが、私は面白くて笑ってしまった。
意味が分からない言動なのに温かい気持ちになる。私は少しおかしいかもしれない。
「自分がエンジェリカの王女でなかったらカルチェレイナと友達でいられたのに。そう思っているね」
ライヴァンに耳打ちされて、ドキッとした。一瞬心臓が止まったかと思った。
そうか、彼は心が読めるから……。
「けどそれは違う! 君が王女でなかったら、エリアスにもジェシカにもノアにも出会っていなかっただろうね。もちろん麗しい僕と会うこともなかった」
——そうだ。
失ったものばかりではない。私が王女だったから出会えた者たちもいる。
「……貴方の言う通りだわ。私はすべてを失ってきたわけではない」
ライヴァンに教えられる日が来るなんてね。
「王女、もうすぐ三重坂が見えますよ」
エリアスが教えてくれる。
「おっと、ここでダジャレか……ぶっ!」
ライヴァンの頭にエリアスのチョップがきまった。なぜライヴァン相手の時だけチョップなのだろう、謎だ。
「ハゲさせるつもりかぁっ!」
「王女に馴れ馴れしくするな」
「まぁまぁ、エリアス。ひとまず落ち着いて?ねっ」
天界、地上界、魔界。三つの世界が繋がる街・三重坂。
そこは賑わいに満ちた、いつまでも暮らしていたいような素敵な街だった。
『天界列車、天界行き。まもなく出発致します』
車内に響くアナウンス。
やがて列車が動き出し、地上界から遠ざかっていく。
私はもう悲しくはない。
麗奈一人がいなくても、私にはたくさんの大切な者がいると気づいたから。
「カルチェレイナ、もし貴女と戦うことになったとしたら——」
私が倒す。
彼女の四百年に渡る憎しみの日々を終わらせる。
だって私は、彼女の友達だから。
後で合流するというだけのことだが、何だか少し寂しい気もする。
私は、この前ノアと買ったジェルキャンドルの材料も持ち帰るよう、ジェシカに頼んだ。
材料は買ったものの色々忙しくてまだ作れていなかったジェルキャンドル。
少し落ち着いたら作ってみたいと思うの。カラフルな砂はとても綺麗だったし、あれを使えばきっと素敵なものができるわね。
そして私はエンジェリカへ帰るため天界列車の乗り場へ向かった。ディルク王とツヴァイ、そしてエリアス。四人で乗り場へ——と思っていたら、ライヴァンもちゃっかりついてきていた。
……馴染みすぎ。
もう悪魔になれないんじゃない? なんて思うぐらい。
エスカレーター。改札。
懐かしい思い出が蘇る。
ジェシカとノアの案内で初めて地上界へ来たあの日、私は生き物だと思ってびっくりした。機械なんて知らなかったから。
「……懐かしいな」
見るものすべてが新鮮で、驚きに満ちていて、楽しくて仕方なかった。エリアスと別れるのは寂しかったけど、地上界の興味深さに、つい寂しさを忘れていたりしたわね。
「地上界ともお別れなのね」
正直辛かった。気を緩めたら涙が出そうな気がする。
エンジェリカで生まれ育った私にもこの街は優しかった。天使でも普通に受け入れてくれたし、私にいろんな経験をさせてくれた。
そして友達も——。
「……麗奈」
出会いは些細なことだった。おつかいに行ったら十円足りなくて困っていたら、後ろに並んでいた麗奈がお金を払ってくれて。それから私たちは親しくなった。
あの日食べたイチゴクレープ、とても美味しかったな。
——麗奈。
もし私がエンジェリカの王女でなかったら、私たちには普通の友達になる道もあったのかもしれない。
手を取り合って、笑いあって。色々なところへお出かけして。大切な友達になれていたかもしれなかった。
私がエンジェリカの王女だったから——。
「どうなさいました?」
エリアスの声で私は現実に引き戻される。気づくと頬が濡れていた。
「王女、なぜ泣いておられるのですか?」
彼の瑠璃色の瞳が不安そうに見つめてくる。私は慌てて涙を拭った。
こんなことで泣いていたら何もできない。しっかりしないと。
「……大丈夫。気にしないで」
「ですが王女」
「気にしないで! 私は何ともないから!」
私は無理矢理笑顔を作り明るく言う。こんなことで彼を心配させるのは嫌だから。
「地上界は素敵なところですね。……三重坂。またいつか一緒に来ましょうか」
天界列車に乗り込む時、エリアスは言いながら柔らかく微笑んだ。長い睫が笑みを際立たせている。
「麗しき僕も一緒さ!」
たまたま横にいたライヴァンが急に謎のポーズをとる。それを見て、エリアスは冷めた表情になるが、私は面白くて笑ってしまった。
意味が分からない言動なのに温かい気持ちになる。私は少しおかしいかもしれない。
「自分がエンジェリカの王女でなかったらカルチェレイナと友達でいられたのに。そう思っているね」
ライヴァンに耳打ちされて、ドキッとした。一瞬心臓が止まったかと思った。
そうか、彼は心が読めるから……。
「けどそれは違う! 君が王女でなかったら、エリアスにもジェシカにもノアにも出会っていなかっただろうね。もちろん麗しい僕と会うこともなかった」
——そうだ。
失ったものばかりではない。私が王女だったから出会えた者たちもいる。
「……貴方の言う通りだわ。私はすべてを失ってきたわけではない」
ライヴァンに教えられる日が来るなんてね。
「王女、もうすぐ三重坂が見えますよ」
エリアスが教えてくれる。
「おっと、ここでダジャレか……ぶっ!」
ライヴァンの頭にエリアスのチョップがきまった。なぜライヴァン相手の時だけチョップなのだろう、謎だ。
「ハゲさせるつもりかぁっ!」
「王女に馴れ馴れしくするな」
「まぁまぁ、エリアス。ひとまず落ち着いて?ねっ」
天界、地上界、魔界。三つの世界が繋がる街・三重坂。
そこは賑わいに満ちた、いつまでも暮らしていたいような素敵な街だった。
『天界列車、天界行き。まもなく出発致します』
車内に響くアナウンス。
やがて列車が動き出し、地上界から遠ざかっていく。
私はもう悲しくはない。
麗奈一人がいなくても、私にはたくさんの大切な者がいると気づいたから。
「カルチェレイナ、もし貴女と戦うことになったとしたら——」
私が倒す。
彼女の四百年に渡る憎しみの日々を終わらせる。
だって私は、彼女の友達だから。
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