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84話 「懐かしいヴァネッサ」
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天界列車が三重坂を出て数十分。あっという間にエンジェリカへ到着した。
車内販売のクッキーはやはり今日もぶれない美味しさで、何枚かエリアスにあげた以外は全部食べてしまった。平らげるつもりはなかったのだけど、つまんでいるうちに、いつの間にかなくなっていたのだ。
まぁ、美味しいから仕方ないわよね。
駅にはディルク王の帰りを待つ親衛隊員たちが集まっていた。ずらっと一直線に並び、目に見えないカーペットが敷かれているかのような感覚に陥る。
ディルク王が一番先に列車を降り、それに続いてツヴァイ、そして私とエリアス。最後に少し離れてライヴァンが降車した。
「ディルク王! お帰りなさいませ!」
親衛隊員全員がぴったり揃えて出迎えの言葉を述べる。いつ練習したのだろう、と首を傾げたくなる。
エンジェリカの空気はとても懐かしい匂いがする。地上界とはまた異なった温かさだ。
それから私たちは二台の送迎馬車によって王宮まで送ってもらった。一台目にはディルク王とツヴァイ、二台目には私とエリアスが乗る。ライヴァンは悪魔なので乗せてもらえるはずもなく、ぶつくさ愚痴を漏らしながら自力でついてきていた。
ライヴァンは情けない悪魔だが、生身で馬車についてこれているのはなかなか凄いと思った。
……それにしても、馬車遅い。
地上界でバスばかり使う生活をしていたので、馬車のスピードが物凄く遅いように感じる。そのうちエンジェリカにもバスを導入してくれないかしらね。
馬車の進みの遅さにむしゃくしゃしているうちに王宮へ着いた。もっとも、王宮と言っても元のような立派な建物はないが。
私が壊しちゃったものね。
しかし私たちがエンジェリカを旅立ったあの日よりかは復興している。簡易の建物が建てられていたり、色々工夫したようだ。そこを多くの天使が忙しそうに行き来している。
「もう復興しつつあるのね」
私は隣に立っているエリアスへ話しかける。想像以上の復興スピードに驚いたことを誰かに伝えたかったのだ。
すると彼は私の顔を見つめながら優しく微笑む。瑠璃色の瞳が柔らかく輝いている。
何か嬉しかったみたいね。
「はい。驚かれましたか? 案外速やかに復興しています。王宮再建にはもう少し時間がかかるようですが……数年もかからないでしょう」
過去の私は大変なことをしてしまったのだな、と申し訳ない気分になる。
けれど落ち込んでばかりもいられない。これからは私も復興の手助けをしなくては。
それにカルチェレイナのこともある。彼女が次はいつ私を狙ってくるか分からない。常に警戒しておかないと。
なかなか忙しくなりそうね。
「アンナ王女!」
名を呼ばれそちらを向く。
向こうから駆けてくる女性天使の姿が目に入る。黒いかっちりしたシニヨンですぐに誰か分かった。
ヴァネッサだ。
侍女のヴァネッサ。彼女は私の母のような天使。しかしベルンハルトに魔気を注入されて以降は一度も話せていない。
懐かしい顔に、思わず駆け寄った。
「ヴァネッサ!」
ギュッと抱き合い、それからすぐに話し始める。
「体はもう大丈夫なの? もう治った?」
それにしても私、いつもみんなに同じような質問ばかりしている気がする。
……うん。まぁみんな負傷しているから、同じような質問ばかりになっていも変な話ではない。逆にそれが普通と言える。
「すべて聞きましたよ。貴女が力を暴発させたこと、罰として地上界へ行っていたこと。……ブローチも壊れたそうですね」
私の質問には答えないのね、と内心文句を言う。
「目覚めるととんでもない状態になっていて驚きました。王妃の恐れてられたことが現実になってしまった——おや?」
ヴァネッサの視線が私の胸元に注がれていた。正確には胸元の『銀のブローチ』に。
「そのブローチは何ですか。もしかして地上界で?」
「えぇ、友達にもらったの。綺麗でしょ」
エリアスの羽だなんて言ったら、また長々と説教されそうだ。本当のことは口が裂けても言えない。
いや、たまには懐かしい長々とした説教もいいかもしれないな——なんてね。実際始まったら数秒で嫌になる自信がある。
最初はイライラし、次第に眠くなる。最後は耐えきれず逃げ出そうとして捕まり、更に時間が長くなる。
それがヴァネッサの説教というものだ。
「ところでエリアス。貴方、お茶は淹れられるようになったのかしら?」
ヴァネッサの視線がエリアスに移る。私の隣にいる彼は、気まずそうに視線を逸らす。お茶の淹れ方には自信がない、それが容易く見てとれた。
彼の態度を見たヴァネッサは一度目を細め、それから元に戻して溜め息をつく。
「その様子じゃ、まだ駄目なようね。貴方にはもっと練習が必要だわ」
「それは承知しています」
エリアスは少し不快そうな顔をしつつも、淡々とした調子で短く答えた。
彼の淹れたお茶は渋かった。蜂蜜でごまかして美味しくはなったが、ヴァネッサにはそれは言えないだろう。彼女のことだ。そんなことを言えば、「それでは美味しく淹れられているとは言えない」などと、注意するに違いない。
ヴァネッサはかなり完璧主義だから。
「これからも精進します」
「良い心がけね」
あれ、何だか親しくなってる? 気のせいか二人の距離が縮まったように見えるけど……本当に気のせい?
車内販売のクッキーはやはり今日もぶれない美味しさで、何枚かエリアスにあげた以外は全部食べてしまった。平らげるつもりはなかったのだけど、つまんでいるうちに、いつの間にかなくなっていたのだ。
まぁ、美味しいから仕方ないわよね。
駅にはディルク王の帰りを待つ親衛隊員たちが集まっていた。ずらっと一直線に並び、目に見えないカーペットが敷かれているかのような感覚に陥る。
ディルク王が一番先に列車を降り、それに続いてツヴァイ、そして私とエリアス。最後に少し離れてライヴァンが降車した。
「ディルク王! お帰りなさいませ!」
親衛隊員全員がぴったり揃えて出迎えの言葉を述べる。いつ練習したのだろう、と首を傾げたくなる。
エンジェリカの空気はとても懐かしい匂いがする。地上界とはまた異なった温かさだ。
それから私たちは二台の送迎馬車によって王宮まで送ってもらった。一台目にはディルク王とツヴァイ、二台目には私とエリアスが乗る。ライヴァンは悪魔なので乗せてもらえるはずもなく、ぶつくさ愚痴を漏らしながら自力でついてきていた。
ライヴァンは情けない悪魔だが、生身で馬車についてこれているのはなかなか凄いと思った。
……それにしても、馬車遅い。
地上界でバスばかり使う生活をしていたので、馬車のスピードが物凄く遅いように感じる。そのうちエンジェリカにもバスを導入してくれないかしらね。
馬車の進みの遅さにむしゃくしゃしているうちに王宮へ着いた。もっとも、王宮と言っても元のような立派な建物はないが。
私が壊しちゃったものね。
しかし私たちがエンジェリカを旅立ったあの日よりかは復興している。簡易の建物が建てられていたり、色々工夫したようだ。そこを多くの天使が忙しそうに行き来している。
「もう復興しつつあるのね」
私は隣に立っているエリアスへ話しかける。想像以上の復興スピードに驚いたことを誰かに伝えたかったのだ。
すると彼は私の顔を見つめながら優しく微笑む。瑠璃色の瞳が柔らかく輝いている。
何か嬉しかったみたいね。
「はい。驚かれましたか? 案外速やかに復興しています。王宮再建にはもう少し時間がかかるようですが……数年もかからないでしょう」
過去の私は大変なことをしてしまったのだな、と申し訳ない気分になる。
けれど落ち込んでばかりもいられない。これからは私も復興の手助けをしなくては。
それにカルチェレイナのこともある。彼女が次はいつ私を狙ってくるか分からない。常に警戒しておかないと。
なかなか忙しくなりそうね。
「アンナ王女!」
名を呼ばれそちらを向く。
向こうから駆けてくる女性天使の姿が目に入る。黒いかっちりしたシニヨンですぐに誰か分かった。
ヴァネッサだ。
侍女のヴァネッサ。彼女は私の母のような天使。しかしベルンハルトに魔気を注入されて以降は一度も話せていない。
懐かしい顔に、思わず駆け寄った。
「ヴァネッサ!」
ギュッと抱き合い、それからすぐに話し始める。
「体はもう大丈夫なの? もう治った?」
それにしても私、いつもみんなに同じような質問ばかりしている気がする。
……うん。まぁみんな負傷しているから、同じような質問ばかりになっていも変な話ではない。逆にそれが普通と言える。
「すべて聞きましたよ。貴女が力を暴発させたこと、罰として地上界へ行っていたこと。……ブローチも壊れたそうですね」
私の質問には答えないのね、と内心文句を言う。
「目覚めるととんでもない状態になっていて驚きました。王妃の恐れてられたことが現実になってしまった——おや?」
ヴァネッサの視線が私の胸元に注がれていた。正確には胸元の『銀のブローチ』に。
「そのブローチは何ですか。もしかして地上界で?」
「えぇ、友達にもらったの。綺麗でしょ」
エリアスの羽だなんて言ったら、また長々と説教されそうだ。本当のことは口が裂けても言えない。
いや、たまには懐かしい長々とした説教もいいかもしれないな——なんてね。実際始まったら数秒で嫌になる自信がある。
最初はイライラし、次第に眠くなる。最後は耐えきれず逃げ出そうとして捕まり、更に時間が長くなる。
それがヴァネッサの説教というものだ。
「ところでエリアス。貴方、お茶は淹れられるようになったのかしら?」
ヴァネッサの視線がエリアスに移る。私の隣にいる彼は、気まずそうに視線を逸らす。お茶の淹れ方には自信がない、それが容易く見てとれた。
彼の態度を見たヴァネッサは一度目を細め、それから元に戻して溜め息をつく。
「その様子じゃ、まだ駄目なようね。貴方にはもっと練習が必要だわ」
「それは承知しています」
エリアスは少し不快そうな顔をしつつも、淡々とした調子で短く答えた。
彼の淹れたお茶は渋かった。蜂蜜でごまかして美味しくはなったが、ヴァネッサにはそれは言えないだろう。彼女のことだ。そんなことを言えば、「それでは美味しく淹れられているとは言えない」などと、注意するに違いない。
ヴァネッサはかなり完璧主義だから。
「これからも精進します」
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