エンジェリカの王女

四季

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86話 「ノリが軽すぎる男」

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 ジェシカが届けてくれたくまのストラップは、改めて二人で持つことにした。

 エリアスが持つブルーのくまが二匹になり不思議な感じになってしまったが、特にこれといった問題はないはずだ。同じ色のものを二つ持っているという若干不思議な状態になっているだけである。

 エリアスは私がくまをなくしたことを怒らなかった。正直怒られるかもと心配していたので安堵した。何も言われなくて良かった。

 でも、もうなくさないようにしないとね。二度目はなさそう。


 ——その晩。

 簡易的な建物の一室、用意されていた部屋で、私は夜をすごすことになった。王宮の自室よりはずっと狭い部屋だ。それでもベッドやテーブルと椅子など必要最低限の家具はちゃんと置かれている。準備してくれたことに感謝である。

 久々のエンジェリカの夜はとても感慨深い。懐かしさと新鮮さが混ざりあった不思議な感覚。
 先ほどエリアスがディルク王に呼び出されていなくなってしまったのは残念。だが、まぁ仕方ない。何か用があるのだろうから。

「こんばんは! 来たっすよ!」
「突然お邪魔します」

 私が部屋でぼんやりしていると、ツヴァイとレクシフがやって来た。

 真面目すぎるレクシフはともかく、ツヴァイの軽いノリはどうも違和感を抱かずにはいられない。こんな軽い天使がどうして親衛隊に入れたのだろう、と疑問に思ってしまう。恐らく戦闘能力が高いからなのだろうが、「こんな軽さでいいの?」という気持ちはある。

 私が気にしすぎなだけだろうか……。

「遊びに来ちゃったっす」

 ツヴァイは安定の軽いノリでそんなことを言う。少々不愉快だ。嫌みの一つでも言ってやりたい気分だが言葉を飲み込む。
 こんなことに動じているようでは一人前じゃないわね。

「こんばんは。何か用ですか」

 私は敢えて笑顔で応えた。好意的に接しておいて損はない。
 するとツヴァイは私の肩に腕を回してくる。それもとても親しげに。

「配属移動してきたっすよ!」

 何のつもりなの……?

 こればかりは頭にきて振り払おうとした瞬間、後ろにいたヴァネッサがツカツカと歩いてきて、ツヴァイの頬にビンタを食らわす。
 ナイス! と内心思った。

「王女の前でしょう。少しはわきまえなさい!」

 ヴァネッサはツヴァイを鋭く叱った。
 レクシフは何度も頭を下げて「すみません」と繰り返し謝罪している。別に彼は悪くないのにね。ちょっと可哀想。

 だが当のツヴァイは飄々としている。

「仲良くなったらダメっすか」

 迂闊な発言がヴァネッサに更なる火をつけた。

「王女は女性ですよ! 護衛が気安く触れていい方ではありません! 分かっているのですか!?」

 ヴァネッサは凄まじい迫力でツヴァイを叱る。あまりに厳しく言われたものだから、さすがのツヴァイも言葉をなくす。

「分かりましたか!?」
「は、はい……」

 ツヴァイは身を縮めて小さく返事した。

「返事が小さい!」
「はいっ!」

 今夜のヴァネッサはなぜか体育会系である。いつもは淡々としている彼女のことだから余計にしっくりこない。
 ヴァネッサが怒っている間、レクシフは何回もペコペコ頭を下げていた。

「ヴァネッサ、もういいわよ。たまには楽しいのも素敵だわ」

 いきなり触れられた時には戸惑いイラッとしたが、今はもう何も思わない。気にするほどのことではないような気がしてきた。

「そうっすよね! 俺、アンナ王女と親しくなりたいっすよ!」
「わきまえなさい!!」

 軽いノリの戻ったツヴァイをヴァネッサがまたビンタする。なかなか痛そうだ。

「さすがに痛いっすよ……」

 意味が分からないし、バカみたいだし、でも何だか楽しい。また新しい知り合いが増えて、もっと賑やかになって。寂しいよりずっと素敵ね。
 いつまでもこんな風にすごせたらいいのにな。

「ヴァネッサさん、ツヴァイが馬鹿でご迷惑おかけしました……」

 生真面目にレクシフは礼儀正しく謝る。

「謝る必要はありません。貴方に非があるわけではないので。けれども、彼にはしっかり言い聞かせておいて下さい」

 ヴァネッサは淡々とした調子で言った。なかなか厳しい。

「もちろんです。では今日は失礼します。おやすみなさい。ツヴァイ、行きますよ!」
「アンナ王女、一緒に」
「コラッ! ……すみません。では失礼します」

 レクシフはツヴァイを引きずりながらそそくさと帰っていった。やって来て挨拶して帰る。それだけなのにとても騒がしい時間だった。
 深刻な雰囲気の時間よりは騒がしい方がいいけれど、夜分に大騒ぎはできれば止めてほしい。疲れるから。
 二人が嵐のように去った後、ヴァネッサは大きな溜め息を漏らした。

「まったく……礼儀知らずにも程があります」

 とても不満げな表情をしている。

「個性的な天使よね」

 私はフォローしつつ返した。

「アンナ王女、あの赤い髪には気をつけて下さい。無自覚はたちが悪いです」

 確かにそれはあるかも。
 ツヴァイの場合、一切悪気なく触れてくる。本人が自覚していないということは、注意しても改善はあまり見込めない。

「一応気をつけるわ」

 ヴァネッサでこれだもの、あんなのをエリアスが見たらきっと怒るでしょうね。それはもう、エンジェリカが半分に割れるぐらいに。

「はい。その方が良いと思います。私も見張ってはおきます」

 それにしても——、ヴァネッサって意外と親切なのね。
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