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114話 「貴方は愚かよ」
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「馬鹿を言うな!」
突如声を荒らげるディルク王。予想はしていたが、やはり簡単に納得してはくれないらしい。既に用意している結婚相手がいるからか。
まったく、勝手なことしてくれるじゃない。……と心の中で呟いてやる。
だって、そうでしょう? 私の結婚相手をディルク王が決めるなんておかしな話だわ。
「エリアスの何がいけないの?」
間違ったことは言っていないはずだ。
間違っているのはこちらではない。私に確認もせず話を進めている方である。
「中流貴族風情と結婚した女王など、エンジェリカの歴史上存在しない。それにエリアスは裏切り者の兄だ」
「歴史なんて関係ないわ。弟が裏切り者だというのも、エリアスには関係のないことよ」
エリアスがルッツを唆したわけじゃあるまいし、ただ兄弟というだけでそんな風に言うのはおかしいと思うの。
「関係は大いにある。お前の母親を殺した男の兄だぞ。王妃を殺害するなどという重罪、兄も同罪だ。許してなるものか」
「ならばなぜ護らなかったのですかっ!!」
叫んだのは、私の後ろに立っているヴァネッサだった。彼女が王の前でこんな鋭い口調になるのは見たことがない。
普段はちょっとやそっとで変わることのない彼女の顔だが、今は凄まじい怒りに満ちている。ヴァネッサもこんな顔をするんだ、と正直驚いた。
「貴方は、殺されるかも、というラヴィーナ妃の言葉に耳を貸さなかった! そして彼女が殺害されると、親衛隊から裏切り者を出したという自身の力不足を隠すために、すべてを隠したのでしょう!」
一介の侍女と一国の王だ、百人いれば百人が王に味方するだろう。権力に天地の差があるのだから当然と言える。
だが、今の私には、ディルク王を擁護する言葉は見つけられなかった。ヴァネッサの言うことがまっとうであると感じたから。
「貴方はアンナ王女から母親を奪い、寂しい思いをさせたのです! そんな可哀想なアンナ王女を護り続けたエリアスを裏切り者の兄と侮辱するのなら、ディルク王、私は貴方を許せません!」
その言葉に、私は衝撃を受ける。ヴァネッサはエリアスを嫌いなのだと思っていたからだ。
二人はいつも喧嘩ばかりしていた。それに、彼女は、エリアスが私と近い距離にいるとすぐに注意してきたし。仲良しとは到底思えないような関係の二人だった。
だから、エリアスが侮辱されることに対してヴァネッサが怒っているなんて、微塵も予想しなかった。
「……無礼にも程がある。お前ら、その女を牢へ連れていけ」
「止めなさい!」
私は無意識に叫んでいた。
ヴァネッサを捕らえようとした親衛隊員が一瞬怯んだように見える。
「……何のつもりだ」
「ヴァネッサは私の侍女よ。いくらお父様でも、無理矢理牢に入れるなんてできないわ」
王に対してこんなことを言うなんて、私はどうかしている。自分でも首を傾げたくなるくらい異常な行動だ。
ただ、もしかしたらこれは、ヴァネッサの身を守らねばという使命感に駆られた結果なのかもしれない、と少し思う。半ば無意識にヴァネッサを守ろうとしていたとしたら——きつい口調になるのも分からないではない。
「私はお父様を責める気はないわ。お母様が殺されたのは今さら言っても仕方ないもの」
ディルク王を責め、彼が後悔したところで、ラヴィーナが生き返るわけではない。過ぎたことを言うのは時間の無駄というものである。
「私はただ、結婚するならエリアスが良いと言っているだけよ。分かってちょうだい」
「何度言わせる気だ。裏切り者の血を王族に混ぜるわけには……」
「お父様、貴方は愚かよ」
そう言い放つと、辺りの空気が凍りつく。親衛隊員たちの表情が一気に固くなるのが感じられた。
王に対して「愚か」などと言ったのだから当然の反応かもしれない。ただ、私からすれば今のディルク王は愚かの極みだ。
エリアスが私に忠誠を誓っていることはディルク王も知っているはずである。彼が命がけで私を護ってくれていたことも知っているはずだ。それなのにエリアスを疑うのだから、ディルク王はおかしいと思う。
「その勝手に決めた結婚相手とは結婚しないわ。とにかく、断ってきておいてちょうだい」
なぜだろう。
とても不思議なことだが、今日は言葉が流れるように出てくる。
躊躇いなんてものは欠片もない。私とは思えないくらい、自分の本心を言える。
私自身も戸惑っている。今までなら考えられないようなことを言えてしまう自分に内心動揺してはいるのだが、その行動を止めようとは思わなかった。
「……そうか。分かった」
長い沈黙の後、ディルク王が厚みのある低い声で静かに言った。
「明日エリアスをここへ連れてこい。二人で話し、あやつのアンナへの忠誠心が揺るぎないものかどうか確認する。……これで良かろう?」
私は黙って頷く。
重傷のエリアスをあまり動かしたくはないが、すべては私と彼が結ばれるため。ここは多少無理してでも乗っていかねばならない局面だ。
ヴァネッサも巻き込んでしまっている以上後ろには退けない。いや、もちろん退く気は更々ないが。
「成立だな。明日の正午、あやつを連れてここへ来い」
「えぇ、分かったわ」
ディルク王はエリアスに何を言うつもりなのだろうか。まるでエリアスを試すというような口振りだった。
エリアスに辛い思いをさせるようなことをしなければ良いのだが……。
しかし、これはチャンスでもある。エリアスの忠誠心を生で目にすれば、さすがのディルク王も認めざるを得ないはずだ。
突如声を荒らげるディルク王。予想はしていたが、やはり簡単に納得してはくれないらしい。既に用意している結婚相手がいるからか。
まったく、勝手なことしてくれるじゃない。……と心の中で呟いてやる。
だって、そうでしょう? 私の結婚相手をディルク王が決めるなんておかしな話だわ。
「エリアスの何がいけないの?」
間違ったことは言っていないはずだ。
間違っているのはこちらではない。私に確認もせず話を進めている方である。
「中流貴族風情と結婚した女王など、エンジェリカの歴史上存在しない。それにエリアスは裏切り者の兄だ」
「歴史なんて関係ないわ。弟が裏切り者だというのも、エリアスには関係のないことよ」
エリアスがルッツを唆したわけじゃあるまいし、ただ兄弟というだけでそんな風に言うのはおかしいと思うの。
「関係は大いにある。お前の母親を殺した男の兄だぞ。王妃を殺害するなどという重罪、兄も同罪だ。許してなるものか」
「ならばなぜ護らなかったのですかっ!!」
叫んだのは、私の後ろに立っているヴァネッサだった。彼女が王の前でこんな鋭い口調になるのは見たことがない。
普段はちょっとやそっとで変わることのない彼女の顔だが、今は凄まじい怒りに満ちている。ヴァネッサもこんな顔をするんだ、と正直驚いた。
「貴方は、殺されるかも、というラヴィーナ妃の言葉に耳を貸さなかった! そして彼女が殺害されると、親衛隊から裏切り者を出したという自身の力不足を隠すために、すべてを隠したのでしょう!」
一介の侍女と一国の王だ、百人いれば百人が王に味方するだろう。権力に天地の差があるのだから当然と言える。
だが、今の私には、ディルク王を擁護する言葉は見つけられなかった。ヴァネッサの言うことがまっとうであると感じたから。
「貴方はアンナ王女から母親を奪い、寂しい思いをさせたのです! そんな可哀想なアンナ王女を護り続けたエリアスを裏切り者の兄と侮辱するのなら、ディルク王、私は貴方を許せません!」
その言葉に、私は衝撃を受ける。ヴァネッサはエリアスを嫌いなのだと思っていたからだ。
二人はいつも喧嘩ばかりしていた。それに、彼女は、エリアスが私と近い距離にいるとすぐに注意してきたし。仲良しとは到底思えないような関係の二人だった。
だから、エリアスが侮辱されることに対してヴァネッサが怒っているなんて、微塵も予想しなかった。
「……無礼にも程がある。お前ら、その女を牢へ連れていけ」
「止めなさい!」
私は無意識に叫んでいた。
ヴァネッサを捕らえようとした親衛隊員が一瞬怯んだように見える。
「……何のつもりだ」
「ヴァネッサは私の侍女よ。いくらお父様でも、無理矢理牢に入れるなんてできないわ」
王に対してこんなことを言うなんて、私はどうかしている。自分でも首を傾げたくなるくらい異常な行動だ。
ただ、もしかしたらこれは、ヴァネッサの身を守らねばという使命感に駆られた結果なのかもしれない、と少し思う。半ば無意識にヴァネッサを守ろうとしていたとしたら——きつい口調になるのも分からないではない。
「私はお父様を責める気はないわ。お母様が殺されたのは今さら言っても仕方ないもの」
ディルク王を責め、彼が後悔したところで、ラヴィーナが生き返るわけではない。過ぎたことを言うのは時間の無駄というものである。
「私はただ、結婚するならエリアスが良いと言っているだけよ。分かってちょうだい」
「何度言わせる気だ。裏切り者の血を王族に混ぜるわけには……」
「お父様、貴方は愚かよ」
そう言い放つと、辺りの空気が凍りつく。親衛隊員たちの表情が一気に固くなるのが感じられた。
王に対して「愚か」などと言ったのだから当然の反応かもしれない。ただ、私からすれば今のディルク王は愚かの極みだ。
エリアスが私に忠誠を誓っていることはディルク王も知っているはずである。彼が命がけで私を護ってくれていたことも知っているはずだ。それなのにエリアスを疑うのだから、ディルク王はおかしいと思う。
「その勝手に決めた結婚相手とは結婚しないわ。とにかく、断ってきておいてちょうだい」
なぜだろう。
とても不思議なことだが、今日は言葉が流れるように出てくる。
躊躇いなんてものは欠片もない。私とは思えないくらい、自分の本心を言える。
私自身も戸惑っている。今までなら考えられないようなことを言えてしまう自分に内心動揺してはいるのだが、その行動を止めようとは思わなかった。
「……そうか。分かった」
長い沈黙の後、ディルク王が厚みのある低い声で静かに言った。
「明日エリアスをここへ連れてこい。二人で話し、あやつのアンナへの忠誠心が揺るぎないものかどうか確認する。……これで良かろう?」
私は黙って頷く。
重傷のエリアスをあまり動かしたくはないが、すべては私と彼が結ばれるため。ここは多少無理してでも乗っていかねばならない局面だ。
ヴァネッサも巻き込んでしまっている以上後ろには退けない。いや、もちろん退く気は更々ないが。
「成立だな。明日の正午、あやつを連れてここへ来い」
「えぇ、分かったわ」
ディルク王はエリアスに何を言うつもりなのだろうか。まるでエリアスを試すというような口振りだった。
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