エンジェリカの王女

四季

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13話 「ジェシカとノア」

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 晩餐会は王宮内でも何番目かに広い部屋で行われる。天井からはシャンデリアが吊り下げられ、室内のあちこちに雰囲気を盛り上げるための豪華な飾り付けがされている。長いテーブルには真っ白なレース素材のテーブルクロスを敷き、いかにも高級そうな食事が振る舞われるのだ。

 晩餐会には客として天界の他の国からお偉いさんが来ることも多い。エンジェリカの力を見せつけるよい機会なのだろう。

 ……と、まぁそのようなイベントが晩餐会だが、私は王女なのでほぼ毎回参加しなくてはならない。しかも王女らしい言動をしなくてはならない。それゆえ、晩餐会といっても楽しいばかりではないのだが、それでも美味しい食事を食べられるのは嬉しい。

「もしもーし」

 私が会場のドアの前で待機している時、一人の青年天使が声をかけてきた。薄紫のふわふわとしたショートの髪で右サイドだけが肩の辺りまで伸びているという珍しい髪型。そしておっとりした感じの顔つきだ。

「私に何か用ですか?」

 そう返すと青年はまったりした口調で答える。

「初めまして、僕はノアっていうんだー。もちろん天使だよー。王女様って貴女なのかな?」

 いきなりの問いに戸惑い返答に困っていると、青年天使ノアの背後から背の低い少女が姿を現した。肩に届くか届かないかぐらいの長さの外はねの髪が子どもっぽく愛嬌がある。

「ノア、アンタいきなりすぎでしょ。初対面の相手にいきなりそんなこと聞かれたら普通に引くって」

 少女は勢いよく突っ込む。

「突然ごめん。正直びっくりしたでしょ」

 初対面でこんな馴れ馴れしい話し方というのも珍しいと思うが。しかも名乗らないし。……と内心思いつつ返す。

「いえ、平気です」

「初めまして! あたしはジェシカ。見ての通り天使! よろしくね」

 ジェシカは羽を見せてくれる。私やエリアスなんかよりずっと小さいものだが確かに生えていた。

「あたしたち二人、エリアスから王女様の護衛を任されたの。最強のエリアスに信頼されてるあたしって凄いでしょ!」

 彼女は胸を張り誇らしげな顔で言いきる。

 ちょうどその時、ヴァネッサが話していた、心強い味方を呼んだという話を思い出した。たしかこんな名前を言っていたような。

「連絡くれたのはヴァネッサさんだけどねー」
「アンタは余計なこと言わないで!」

 なんだか明るくて楽しい二人だ。二人の様子を見ているとこっちまで明るい気持ちになってくる。

「王女様、これからよろしく。しばらくは最強のエリアスの部下であるあたしが護ってあげるから!」
「その最強のエリアスさんは地下牢なうなんだけどねー」
「うるさい。そういうこと言わなくていいって。それに地上界でももう終わったような発言すんな」

 ジェシカとノアが私の目の前でそんなやり取りを続けるものだから、理由はよく分からないがおかしくなり、ついつい笑ってしまった。

「ノア! アンタのせいで笑われちゃったじゃん!」
「面白かったんだねー。良かったー」
「いい加減にしてよ! ……と、ごめん王女様。ノアはこんなだから普段はちょっと意味分かんないかもしれないけど、一応戦いは強いから安心してよ」

 王女である私に対しても敬語を使わないあたり新鮮だ。傍から見れば失礼かもしれないが、こんな風に話しかけてくれると親しい感じがして自分は案外嫌じゃない。

「分かりました。私はアンナです。よろしくお願いします」

 すると珍しくノアが先に口を開いた。

「王女様が僕たちに丁寧語っていうのは違和感あるね。普通に話すでいいんじゃないかなー」

 確かにヴァネッサやエリアスに丁寧語を使うことはない。しかしそれはある程度の期間近くにいて慣れたからだ。いくら護衛だとしても、今さっき会ったばかりの相手に馴れ馴れしく話すというのは、あまり気が進まない。

「ごめんなさい。私、いきなり友人のように話すのは……。努力しますからゆっくりでも構いませんか?」

 思いつく最善の答えを返すと、それとほぼ同時にジェシカがノアをきつく睨む。

「アンタ、王女様に何て口を利いてるの。生意気にもほどがあるでしょ」

 彼女は可愛らしい容姿に似合わず非常に厳しい。
 ちなみに、ノアに対してだけ。

「ノアの言うことなんて王女様が気にする必要ないよ。好きなようにすればいいんだから!」
「ありがとうございます。でも早くお二人と親しくなりたいので……なるべく頑張るわ」

 しばらく時間が経過して徐々に馴染んできたからか、ほんの少しだが普通に話すことができた。

「今、丁寧語じゃなかった」

 私の言葉を聞き、ノアは予想外に鋭く反応した。おっとりぼんやりしているように見えるが意外とそうでもないのかもしれない。

「僕は仕えるならそうやって話してほしいなー」
「ノア! 圧力かけない!」
「うん。でも嬉しいな。王女様緊張してるみたいだったから、ちょっと心配してたんだ」

 それを聞いて少し驚いた。彼はただ自分の好みで丁寧語を止めるように言っているものと思っていた。しかし実は違う。緊張気味な私が楽に話せるように気を遣ってくれていたのだ。
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