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14話「晩餐会と嫌な女」
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「それじゃ、晩餐会ゆっくり楽しんできてね! 美味しいの食べれていいなぁー!」
「一応いるけどねー」
「アンタは黙って。王女様、もし何かあれば声かけてよね!」
ジェシカとノア、二人は護衛だ。会場内には入れるが食事をとることはしない。二人とも善さそうな天使で良かった、と思いながら私は席についた。
大抵いつも私の周囲の席は、王妃や上流貴族の妻あるいは娘など、権威のある女性が多い。女は女で集めた方が共通の話題もあって話しやすいだろうという配慮なのだろう。もっとも、こちらからすれば余計なお世話だが。
「あらぁ、王女様。今日も綺麗なドレスを着てらっしゃるわねぇ。膨らんだ袖が子どもみたいで可愛らしいわぁ」
隣の席の女性が話しかけてきた。彼女は晩餐会の時にはよく見かける女性で確かどこかの王家の親戚だとかなんとか。いつも自慢ばかりしているくだらない女。
胸の谷間がはっきり見えるぐらい深く開いた鮮やかなピンクのドレス。背中はほぼ丸見え。ギラギラしたスパンコールや宝石のようなもので派手に飾られている。ここまでだともはや豪華などというレベルではない。一言で言うと下品だ。
「今日はいつもの護衛のお兄さんはいらっしゃらないのぉ?」
「はい。エリアスは用事があって来れませんでした」
いちいち伸ばす語尾が鬱陶しく、私は彼女を好きじゃない。はっきり言うなら、嫌いだ。
「あらぁ、じゃあ今日は一人なのねぇ。可哀想ですわね。寂しくありませんのぉ?」
「まったく寂しくありません。今日は特別な護衛が来てくれていますから」
屈託のない笑みを浮かべてはっきり答える。少しでも弱みを見せれば、次はそれについて嫌みを言われるから。
予想通り言いようがなくなった彼女は、面白くなさそうな顔をして他の女性の方を向いた。そしてまた品のない大きい声で喋り始める。
「最近アクセサリーとか買われましたぁ? わたくし、この前天界で一番人気のリゾート地へ行って参りましたのぉ。まぁ数十回くらいは行ったことありますけれどねぇ、おほほっ。ネックレス十本と指輪十個とこの最高級ブローチと……」
お得意の自慢が始まった。しかも今日は特に酷い。見ているこちらが恥ずかしくなってくるぐらいのくだらなさだ。
「そうなんですか!? えぇーっ、凄い!」
「さすが! 王家の一族は違いますね! 尊敬します!」
取り巻きたちのおだてが自慢話を助長する。ここまでくると、もはや腹も立たない。
「貴女は何か新しいアクセサリーとか買われましたぁ? エンジェリカのたった一人の王女様なら、きっといっぱいいっぱい、買い放題でしょうねぇ!」
話し相手が他へ移ってラッキーと思っていると唐突に絡まれた。すぐにこうやって巻き込んでくるのが面倒臭い。
「私、そういうのあまり興味なくて」
渋々答えると途端に女性は高笑いした
「おーほっほっほっ! あらあらぁ。エンジェリカも華やかな国を装っているけれど、案外大変ですのねぇ! 王女様すらまともに買い物できないなんてぇ」
取り巻きたちもくすくすと小さな笑いをこぼす。失礼にもほどがあるが、ここで怒って言い返せばもっと言われるだろう。だから私は作り笑顔を浮かべつつ適当にスルーした。
しかし、彼女の嫌みはまだ終わらなかった。
「何も答えられないなんてぇ、図星だったのかしらぁ? おほほっ! いくら華やかに晩餐会を開いたところで、王女様がみすぼらしい格好をしていらっしゃるようではねぇ」
周りの取り巻きたちが気持ち悪いほどぴったりのタイミングで笑いだす。いつもはチクリと不愉快なことを言われる程度なので、今日の嫌がらせは不思議な酷さだ。
——言い返してやりたい。
心の隅で、そんな気持ちがちらつく。
——痛い目に遭わせて、私に意地悪したことを後悔させてやりたい。
急にこんな気持ちが湧いてくるなんて私らしくない。薄々気づいてはいたが今日は何かがおかしい。
「……!」
その時、恐ろしいことに気がついてしまった。隣の席の透明なグラスに、またしてもあの女が映っていたからだ。視線を向けている私の顔でも、隣の鬱陶しい女性の顔でもない。ここへ来る前に自室の鏡に映っていた黒い髪をした謎の女だ。紅く塗られた唇が音もたてずに小さく動く。
「後悔させ……る力……?」
私は女の唇の動きに合わせて呟いていた。先ほどの動きはまったく分からなかったが、今の唇の動作はわりと容易く読み取れた。
カシャン!!
突如乾いた高い音が響き、透明なグラスは粉々に割れる。
「なっ、なななっ……何ですの……? 一体……何が……」
誰も何もしていないのにグラスが急に割れたので、隣の鬱陶しい女性は目を見開いておののく。無理もない。私でも突然そんなことが起これば気味悪く思い震えるだろう。
「……きゃあぁっ!」
グラスが割れてから一分も経たないうちに続けて女性の座っていた椅子がガタンと倒れた。
「どうなさいました?」
取り巻きたちが騒いだのもあり、料理を運んでいた使用人が慌てて飛んでくる。
「王女様よぉっ! わたくしが恵まれていることを羨んだ王女様が嫌がらせでこんなことしたのぉ!!」
いきなりこんなことを叫ぶなんて、と思っていたら、使用人が信じられないような顔で私を見てきた。失礼極まりない。
「待って! こんなことをしたのは私ではありません!」
床まで落ちた隣の女はヒステリーに叫ぶ。
「嘘つきぃ! 嘘つきよぉっ! 王女だからって酷すぎるぅっ!」
騒ぎを大きくするのが目的なのか、取り巻きたちは同じように甲高く叫びだす。
「私見ました! 王女様が突き落としたんです。何を思ってかは知りませんけど、危ないことは許せません!」
「私も見ました!」
周囲から疑いの視線を向けられ、私はパニックに陥る。
いつもならエリアスがスッと出てきて擁護してくれるのだが、今は一人ぼっちで、孤独で……。
「一応いるけどねー」
「アンタは黙って。王女様、もし何かあれば声かけてよね!」
ジェシカとノア、二人は護衛だ。会場内には入れるが食事をとることはしない。二人とも善さそうな天使で良かった、と思いながら私は席についた。
大抵いつも私の周囲の席は、王妃や上流貴族の妻あるいは娘など、権威のある女性が多い。女は女で集めた方が共通の話題もあって話しやすいだろうという配慮なのだろう。もっとも、こちらからすれば余計なお世話だが。
「あらぁ、王女様。今日も綺麗なドレスを着てらっしゃるわねぇ。膨らんだ袖が子どもみたいで可愛らしいわぁ」
隣の席の女性が話しかけてきた。彼女は晩餐会の時にはよく見かける女性で確かどこかの王家の親戚だとかなんとか。いつも自慢ばかりしているくだらない女。
胸の谷間がはっきり見えるぐらい深く開いた鮮やかなピンクのドレス。背中はほぼ丸見え。ギラギラしたスパンコールや宝石のようなもので派手に飾られている。ここまでだともはや豪華などというレベルではない。一言で言うと下品だ。
「今日はいつもの護衛のお兄さんはいらっしゃらないのぉ?」
「はい。エリアスは用事があって来れませんでした」
いちいち伸ばす語尾が鬱陶しく、私は彼女を好きじゃない。はっきり言うなら、嫌いだ。
「あらぁ、じゃあ今日は一人なのねぇ。可哀想ですわね。寂しくありませんのぉ?」
「まったく寂しくありません。今日は特別な護衛が来てくれていますから」
屈託のない笑みを浮かべてはっきり答える。少しでも弱みを見せれば、次はそれについて嫌みを言われるから。
予想通り言いようがなくなった彼女は、面白くなさそうな顔をして他の女性の方を向いた。そしてまた品のない大きい声で喋り始める。
「最近アクセサリーとか買われましたぁ? わたくし、この前天界で一番人気のリゾート地へ行って参りましたのぉ。まぁ数十回くらいは行ったことありますけれどねぇ、おほほっ。ネックレス十本と指輪十個とこの最高級ブローチと……」
お得意の自慢が始まった。しかも今日は特に酷い。見ているこちらが恥ずかしくなってくるぐらいのくだらなさだ。
「そうなんですか!? えぇーっ、凄い!」
「さすが! 王家の一族は違いますね! 尊敬します!」
取り巻きたちのおだてが自慢話を助長する。ここまでくると、もはや腹も立たない。
「貴女は何か新しいアクセサリーとか買われましたぁ? エンジェリカのたった一人の王女様なら、きっといっぱいいっぱい、買い放題でしょうねぇ!」
話し相手が他へ移ってラッキーと思っていると唐突に絡まれた。すぐにこうやって巻き込んでくるのが面倒臭い。
「私、そういうのあまり興味なくて」
渋々答えると途端に女性は高笑いした
「おーほっほっほっ! あらあらぁ。エンジェリカも華やかな国を装っているけれど、案外大変ですのねぇ! 王女様すらまともに買い物できないなんてぇ」
取り巻きたちもくすくすと小さな笑いをこぼす。失礼にもほどがあるが、ここで怒って言い返せばもっと言われるだろう。だから私は作り笑顔を浮かべつつ適当にスルーした。
しかし、彼女の嫌みはまだ終わらなかった。
「何も答えられないなんてぇ、図星だったのかしらぁ? おほほっ! いくら華やかに晩餐会を開いたところで、王女様がみすぼらしい格好をしていらっしゃるようではねぇ」
周りの取り巻きたちが気持ち悪いほどぴったりのタイミングで笑いだす。いつもはチクリと不愉快なことを言われる程度なので、今日の嫌がらせは不思議な酷さだ。
——言い返してやりたい。
心の隅で、そんな気持ちがちらつく。
——痛い目に遭わせて、私に意地悪したことを後悔させてやりたい。
急にこんな気持ちが湧いてくるなんて私らしくない。薄々気づいてはいたが今日は何かがおかしい。
「……!」
その時、恐ろしいことに気がついてしまった。隣の席の透明なグラスに、またしてもあの女が映っていたからだ。視線を向けている私の顔でも、隣の鬱陶しい女性の顔でもない。ここへ来る前に自室の鏡に映っていた黒い髪をした謎の女だ。紅く塗られた唇が音もたてずに小さく動く。
「後悔させ……る力……?」
私は女の唇の動きに合わせて呟いていた。先ほどの動きはまったく分からなかったが、今の唇の動作はわりと容易く読み取れた。
カシャン!!
突如乾いた高い音が響き、透明なグラスは粉々に割れる。
「なっ、なななっ……何ですの……? 一体……何が……」
誰も何もしていないのにグラスが急に割れたので、隣の鬱陶しい女性は目を見開いておののく。無理もない。私でも突然そんなことが起これば気味悪く思い震えるだろう。
「……きゃあぁっ!」
グラスが割れてから一分も経たないうちに続けて女性の座っていた椅子がガタンと倒れた。
「どうなさいました?」
取り巻きたちが騒いだのもあり、料理を運んでいた使用人が慌てて飛んでくる。
「王女様よぉっ! わたくしが恵まれていることを羨んだ王女様が嫌がらせでこんなことしたのぉ!!」
いきなりこんなことを叫ぶなんて、と思っていたら、使用人が信じられないような顔で私を見てきた。失礼極まりない。
「待って! こんなことをしたのは私ではありません!」
床まで落ちた隣の女はヒステリーに叫ぶ。
「嘘つきぃ! 嘘つきよぉっ! 王女だからって酷すぎるぅっ!」
騒ぎを大きくするのが目的なのか、取り巻きたちは同じように甲高く叫びだす。
「私見ました! 王女様が突き落としたんです。何を思ってかは知りませんけど、危ないことは許せません!」
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