エンジェリカの王女

四季

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18話 「あの時のまま」

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 四魔将の一人ライヴァンは私の目前で高らかに宣言する。

「エンジェリカの秘宝を渡せ! さもなくば王女を捕らえ人質とするのみ!」

 それに対して一歩前に歩み出たノアが言う。
 彼は面倒臭そうな顔つきをしている。

「んー、本当にやる気?」

 ジェシカも両手で剣を構えたまま同じように前へ出た。

「美しい僕を見て恐れをなしたか!? 大人しくしていれば痛い目には遭わずに済むぞ!」

 ライヴァンはとても強気な発言をしている。

「いやいや、そんなことで大人しく引くとかないでしょー。一応王女様の護衛だしねー?」
「そっちこそ! 逃げるなら今のうちだよ!」

 ジェシカとノアはそう言い返しライヴァンを睨みつける。私は巻き込まれるのを恐れて数歩後ろに下がった。

「そうかい……麗しき僕のお願いが聞けない、と。ならもういい。覚悟っ!!」

 ライヴァンはそう叫ぶとほぼ同時に黒っぽい塊を大量に連射する。素早くジェシカの前に出たノアが、薄紫色をした聖気を固めシールドを作り出してそれをすべて防いだ。
 ジェシカは目にもとまらぬ速さでライヴァンに接近し剣を振り下ろす。しかしライヴァンは魔気に包まれた黒いナイフで防ぐ。あのスピードの斬撃についていけるとは、腐っても四魔将、といったところか。

「そんな攻撃、麗しき僕には効かないよ。僕は偉大だ。なんたって人の心を読めるからな!」
「そういうこと。……面白いじゃん」

 飛び退いて距離を確保してからジェシカは小さく呟いた。

「今度は麗しき僕から行かせてもらうよ!」

 ライヴァンのナイフを持っていない方の手から不気味な黒い塊が出てくる。塊は徐々に膨らみ大きくなっていき、人一人くらいの大きさになってから、私の方へ放り投げた。

 彼がジェシカではなく私を狙ってきたため僅かにノアは反応が遅れる。しかしギリギリのところでシールドを張る。

「気を固めてそのまま投げてくるとか、これだから野蛮なやつはー」

 不完全だったシールドは塊の軌道を反らすのが精一杯で割れてしまい、塊の端がノアの腕に掠った。

「ノアさん! 大丈夫?」

 声をかけると彼は首から上だけ振り向き答える。

「平気平気。腕掠っただけだしたいしたことじゃないよー」

 彼はいつも軽い口調なので何を考えているか分かりづらい。それだけに、無理をしているのではないかと考えてしまう。それからも私はヴァネッサにぴったりとくっつき激しい戦いの様子を眺めるだけだった。

「エンジェリカの秘宝ぅっ!」

 気がつくとジェシカとノアをかわしたライヴァンが私に迫ってくる。何が起こったのか理解できなかった。
 最初ライヴァンはヴァネッサを魔気を帯びた黒いナイフで斬りつける。そして衝撃で頭が真っ白になった私の胸元についた赤い宝石のブローチを引き剥がし奪い取る。

「待って、返して……! それは……」

 私に分かる範囲だとすればブローチを奪われただけのはず。なのに意識が薄れていく。視界が歪んで霞み、体は思い通りに動かせない。

 そして私は気を失った。


 目の前に女が立っていた。黒い髪に漆黒のワンピース、そして真っ赤な唇。夢に出てきてから、鏡でグラスで、数回見た顔だ。

「貴女は一体誰なの?」

 前の夢とは違い周囲には誰もいない。もしかしてこの世界には今私と彼女しかいないのではないか。そう思うぐらい静かな寂しい場所。

「私に名はない。私がお前だからだ」

 黒い女は低い声で答えた。

「意味が分からないわ」
「今はまだそうかもしれない」

 夜の冷たい風が髪を揺らす。枯れた葉は一枚もない木々がある以外、本当に何も見当たらない。

「それで、ここはどこなの?」
「…………」

 女は黙ってしまった。

「ごめんなさい。聞かない方が良かった?」
「……ここはエンジェリカ」

 私は急に風が強まり寒さに身震いした。この寒い夜に外で話すには薄着すぎる。

「エンジェリカ? 嘘だわ。何もないじゃない」

 こんな殺風景な荒れ地がエンジェリカだなんて信じられなかった。エンジェリカは天界でも一番大きな王国だもの。

「今から四百年前。私はエンジェリカの王女だった」

 それは実におかしな話だ。

「四百年前? エンジェリカの歴史は三百年よ。今年が三百回目の建国記念祭だもの」
「あくまで歴史に残っているエンジェリカは……ね」

 彼女の話は信じられないし意味がよく分からない。しかしつい聞き入ってしまう。彼女の言葉には本当かもしれないと思わせる不思議な力がある。

「四百年前、天使と悪魔の最大の戦争があった。その戦場となったのがエンジェリカだった。私は王女として戦った。だが聖気の強すぎた私はエンジェリカの土地すらも壊してしまった」

 そう話す彼女は悲しそうな顔をしている。

「結果天界を壊したという罪で私は裁かれ死んだ。それから私はずっとこの日に止まったまま、いつか来る悪魔との戦争の時を待ち続けてきた」
「じゃあもし戦争になったら貴女は悪魔の味方をするの?」

 黒い髪を冷たい夜風になびかせながら彼女は言う。

「私はどちらにも味方しない。天使の味方をする気はない。だが私はエンジェリカの王女だ。悪魔の味方となる予定もない」

 私には彼女が何をしたいのかよく分からなかった。

「時間だ。呼ばれている。そろそろ戻らなければ二度と戻れなくなる」
「そうなの!? じゃあ急いで帰らなくちゃね」

 でもこの時間は無駄じゃなかったと私は思う。

「今日は貴女のことを少しだけ知れて良かったわ。またお話聞かせてね」

 彼女は本当はそんなに悪い存在ではないのかもしれないと、そう思えるようになったから。
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