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19話 「ブローチを取り戻せ」
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「……さま、王女様っ!」
うっすらと目を開くと瞼の狭い隙間からジェシカの顔が漠然と見えた。今にも泣きそうな顔で必死に呼びかけているようだ。どうやら私は横たわっているようだということは分かったが体が重くて動かない。
「やだ、やだよぉ……! 死なないでよ! 王女様っ!」
涙の粒が頬に落ちてきた。恐らく彼女の涙だろう。なぜ彼女がそんなに泣いているのか理解ができない。私は死にそうなんかじゃないのに。
「……ジェシカさん」
とにかく何か反応をしなくてはと思い言ってみるが予想外に小さい消え入りそうな声しか出ない。それでも黙っているよりかましなはずだ。
「え。王女、様……?」
その頃になってようやく瞼を開けられるようになった。
「王女様? ……王女様っ!」
ジェシカは目に涙に溜めて物凄い勢いで抱き締めてきて、涙に濡れた頬を私の顔に擦り寄せる。
「死んじゃったかと思ったよぉ……ふぇぇぇん……」
「あ。王女様、気がついたんだねー。良かったよー」
近くに座っていたノアが急に参加してきた。
「ありがとう。ノアさん、もしかして怪我したの?」
彼が右足首に包帯を巻いていることに気づき尋ねる。
「え? あ、うん、これねー。ちょっとへましちゃっただけだから気にしないでー」
ノアは苦笑いしながら安定の呑気な口調で答えた。
「そうだ! ブローチは!? それとヴァネッサは!?」
突然思い出し胸元に触れる。赤い宝石のブローチはやはりない。ライヴァンに奪われてしまったのか……。
ジェシカはまだ私の胸に頬を寄せて号泣している。ノアが私の問いに答えるように首を横へ振った。
「赤いブローチだよねー、あれはライヴァンに奪われちゃったな。ごめんね。王女様を護るだけで精一杯だったんだー」
「気にしないで。それで、ヴァネッサは?」
意識を失う直前にライヴァンがナイフでヴァネッサを斬りつけるところを見た記憶がある。
「応急処置をしてから救護班に任せたよー。軽傷だったから大丈夫だと思うよ」
「そっか……良かった……」
安堵の溜め息をつきつつも、心の中は複雑だった。ヴァネッサに大事なくて良かったが、ブローチも非常に大切なものだ。ライヴァンなんかに渡すわけにはいかない。今は亡き母からもらった大切なものだから。恐らく彼はブローチをエンジェリカの秘宝であると勘違いし盗っていったのだろう。
「ねぇ、王女様」
ようやく泣き止んだジェシカが口を開く。
「あのブローチは王女様の大切なものなのよね? あたし、今から取り返してくる」
「そんなのいいわ」
今のジェシカは無茶をしそうだから気楽に送り出す気分にはなれなかった。何かあってから後悔しても遅いというもの。
「ダメだよ! 大切なものなんでしょ。あたし行ってくる!」
「お願い、待って!」
立ち上がり今にも走り出そうとする彼女の手首を強く掴む。
「ごめんなさい。でも離れたくないの。だから傍にいて」
しばらくの沈黙の後、ジェシカは明るく笑みを浮かべた。
「そだね」
分かってくれたようだ。
「ごめん。あたし、つい忘れてた。主人の傍にいるのが護衛の仕事ってエリアスからちゃんと習ったのに!」
彼女のそういうところは可愛らしいと感じる。完璧じゃないところに愛嬌があるというか。
「ジェシカだけ隊長に厳しく言われてたよねー」
「アンタは黙れ」
二人の会話は一種の漫才のようで愉快だ。
お決まりゆえに面白い。この状況でもクスッと笑いそうになった。
だがこんなことをしている場合ではない。
「そういえばライヴァンと悪魔たちはもう帰ったのかしら」
ノアがまた首を横に振った。
「魔気を感じる。この感じだと多分まだ近くにいるねー」
私はゆっくりと立ち上がり覚悟を決める。大切なブローチを取り返しに行くという覚悟を。
「……王女様、ブローチを取り返しに行くつもりかなー?」
何も言っていないのにノアはそう言った。
「そうよ。あれは大切なもの。だから取り返す!」
今は不思議と宣言できた。いつもの私ならはっきりとは言えないだろう。色々な経験を通して、心が少しは強くなっているのかもしれない。
「あたしも一緒に行くよ!」
ジェシカは勇ましく言う。
彼女は姿こそ少女だが立派な武人だ。今はそう思う。
「じゃあ僕も行かないわけにはいかないねー」
続けてノアが立ち上がりこちらへ来る。
「ノア。アンタ、ちゃんと戦えんの? 足首痛めてるじゃん」
「いやいや、翼あるしー」
「おかしいって。広さ的にそれは無理でしょ」
「うん、だから取り敢えずは歩くよ。もし無理になったら飛ぶねー」
「頭打たないようにね」
確かに成人男性の姿の天使が飛び回るには王宮は狭すぎる。だが、襲撃のおかげであちこちが破壊されているため、比較的動きやすいかもしれない。
「ジェシカさん、ノアさん。では、よろしくお願いします」
赤い宝石のブローチ。あれは母からもらったとても大切なもの。
ライヴァンなんかに、悪魔なんかには渡さない!
うっすらと目を開くと瞼の狭い隙間からジェシカの顔が漠然と見えた。今にも泣きそうな顔で必死に呼びかけているようだ。どうやら私は横たわっているようだということは分かったが体が重くて動かない。
「やだ、やだよぉ……! 死なないでよ! 王女様っ!」
涙の粒が頬に落ちてきた。恐らく彼女の涙だろう。なぜ彼女がそんなに泣いているのか理解ができない。私は死にそうなんかじゃないのに。
「……ジェシカさん」
とにかく何か反応をしなくてはと思い言ってみるが予想外に小さい消え入りそうな声しか出ない。それでも黙っているよりかましなはずだ。
「え。王女、様……?」
その頃になってようやく瞼を開けられるようになった。
「王女様? ……王女様っ!」
ジェシカは目に涙に溜めて物凄い勢いで抱き締めてきて、涙に濡れた頬を私の顔に擦り寄せる。
「死んじゃったかと思ったよぉ……ふぇぇぇん……」
「あ。王女様、気がついたんだねー。良かったよー」
近くに座っていたノアが急に参加してきた。
「ありがとう。ノアさん、もしかして怪我したの?」
彼が右足首に包帯を巻いていることに気づき尋ねる。
「え? あ、うん、これねー。ちょっとへましちゃっただけだから気にしないでー」
ノアは苦笑いしながら安定の呑気な口調で答えた。
「そうだ! ブローチは!? それとヴァネッサは!?」
突然思い出し胸元に触れる。赤い宝石のブローチはやはりない。ライヴァンに奪われてしまったのか……。
ジェシカはまだ私の胸に頬を寄せて号泣している。ノアが私の問いに答えるように首を横へ振った。
「赤いブローチだよねー、あれはライヴァンに奪われちゃったな。ごめんね。王女様を護るだけで精一杯だったんだー」
「気にしないで。それで、ヴァネッサは?」
意識を失う直前にライヴァンがナイフでヴァネッサを斬りつけるところを見た記憶がある。
「応急処置をしてから救護班に任せたよー。軽傷だったから大丈夫だと思うよ」
「そっか……良かった……」
安堵の溜め息をつきつつも、心の中は複雑だった。ヴァネッサに大事なくて良かったが、ブローチも非常に大切なものだ。ライヴァンなんかに渡すわけにはいかない。今は亡き母からもらった大切なものだから。恐らく彼はブローチをエンジェリカの秘宝であると勘違いし盗っていったのだろう。
「ねぇ、王女様」
ようやく泣き止んだジェシカが口を開く。
「あのブローチは王女様の大切なものなのよね? あたし、今から取り返してくる」
「そんなのいいわ」
今のジェシカは無茶をしそうだから気楽に送り出す気分にはなれなかった。何かあってから後悔しても遅いというもの。
「ダメだよ! 大切なものなんでしょ。あたし行ってくる!」
「お願い、待って!」
立ち上がり今にも走り出そうとする彼女の手首を強く掴む。
「ごめんなさい。でも離れたくないの。だから傍にいて」
しばらくの沈黙の後、ジェシカは明るく笑みを浮かべた。
「そだね」
分かってくれたようだ。
「ごめん。あたし、つい忘れてた。主人の傍にいるのが護衛の仕事ってエリアスからちゃんと習ったのに!」
彼女のそういうところは可愛らしいと感じる。完璧じゃないところに愛嬌があるというか。
「ジェシカだけ隊長に厳しく言われてたよねー」
「アンタは黙れ」
二人の会話は一種の漫才のようで愉快だ。
お決まりゆえに面白い。この状況でもクスッと笑いそうになった。
だがこんなことをしている場合ではない。
「そういえばライヴァンと悪魔たちはもう帰ったのかしら」
ノアがまた首を横に振った。
「魔気を感じる。この感じだと多分まだ近くにいるねー」
私はゆっくりと立ち上がり覚悟を決める。大切なブローチを取り返しに行くという覚悟を。
「……王女様、ブローチを取り返しに行くつもりかなー?」
何も言っていないのにノアはそう言った。
「そうよ。あれは大切なもの。だから取り返す!」
今は不思議と宣言できた。いつもの私ならはっきりとは言えないだろう。色々な経験を通して、心が少しは強くなっているのかもしれない。
「あたしも一緒に行くよ!」
ジェシカは勇ましく言う。
彼女は姿こそ少女だが立派な武人だ。今はそう思う。
「じゃあ僕も行かないわけにはいかないねー」
続けてノアが立ち上がりこちらへ来る。
「ノア。アンタ、ちゃんと戦えんの? 足首痛めてるじゃん」
「いやいや、翼あるしー」
「おかしいって。広さ的にそれは無理でしょ」
「うん、だから取り敢えずは歩くよ。もし無理になったら飛ぶねー」
「頭打たないようにね」
確かに成人男性の姿の天使が飛び回るには王宮は狭すぎる。だが、襲撃のおかげであちこちが破壊されているため、比較的動きやすいかもしれない。
「ジェシカさん、ノアさん。では、よろしくお願いします」
赤い宝石のブローチ。あれは母からもらったとても大切なもの。
ライヴァンなんかに、悪魔なんかには渡さない!
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