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前編
しおりを挟むある穏やかな春の日。
自宅の庭にて地面に座り込んで勝手に生えた草の種類を確認していると。
「リーゼラッタ、ちょっといいか?」
婚約者ミートルーボが現れた。
彼の方から私のところへやって来るのは珍しいことだ。
なぜって彼は私のことをあまり愛していないから。
「あ、ミートルーボさん」
「こっちへ出てこい、話がある」
「お話、ですか?」
「ああそうだ。ぼやぼやするな、さっさと出てこい。遅いんだよお前はいつも行動が」
ミートルーボは何やら苛立っているようだ。
「はい、お待たせしました」
取り敢えず急いで彼の前へ行く。
「じゃあ本題に入るぞ」
「どうぞ」
するとミートルーボは。
「お前との婚約、破棄とする」
――そう宣言した。
春空の下、吹き抜ける冷たい風。
「え……」
冷たい風が肌を突き刺す。
静寂の海に落とされたみたいだった。
「お前とは一緒に生きない、そう決めた」
「こ、婚約……破棄、ですか……」
「ああそうだ。だから今日はそれを伝えに来たんだ。こういう肝心なことは実際に会って対面で伝えないとと思ってな」
これって、捨てられてしまうということ?
私はもう要らないのね。
まぁ前から薄々気づいてはいたけれど。
それでもちょっと悲しくて……胸が痛い。
「そう、ですか」
「ま、庭で座ってなんかしてるような女を嫁に貰うわけないわな」
「えっ……どうして。そ、そこですか!? そこなんですか!?」
「まぁそれだけじゃないけどな」
「ああ……そうですか……」
ついにこの時が来てしまった。
「分かったか? リーゼラッタ」
「……はい」
「よし! じゃあ話はここまでだ。物分かりがいいとこだけは助かるよ。じゃあこれにて! ばいばい!」
ミートルーボは嬉しそうに走って去っていった。
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