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3話
しおりを挟むちなみにその彼、実は小説家だった。
「お茶持ってきました」
「ありがとう」
「前気に入っていたやつですよ」
「あ! あれ!」
「そうです、ジャスミン風の……」
「それ好き! ありがとう、嬉しいよ。作業もはかどる!」
もっとも、その事実を知ったのは結婚が視野に入ってきてからだったのだけれど。
「では少し離れておきますね」
「ごめんねいつも」
「いえ! 貴方の力になりたいですから。これからも、別室にいても、ずっと応援しています!」
そういえば。
かつて私と婚約していたガーランドだが、彼は今、ロレッタの呪術によって操り人形となってしまっているそうだ。
これは街の人の噂話で入手した情報だが――ロレッタは実は怪しい術を使う人だったそうで、ガーランドが彼女に酷く惚れていたのも彼女の精神操作術によるものだったらしい。
表向き、二人は夫婦だ。
しかしガーランドは事実上ロレッタの操り人形。
己の意思などなく彼女の言いなりになって動くだけの器となってしまっているそうだ。
また、ガーランドはそんな状態であれこれグレーゾーンな商売をさせられているそうで、国に目をつけられて今にも拘束されそうだとか。
……彼はそんな今を喜んでいるのだろうか。
あの時ロレッタを選んだからの今。
彼にとってそれは幸福なのだろうか。
私には分からない――ガーランドの気持ちなんて。
でも、もし私がガーランドだったとしたら、操り人形となって一生を終えるなんていうのは絶対に嫌だ。
しかし、まぁ、それもまた彼の選んだ道。
他人が「可哀想だ」なんて思ってあげる必要はないのかもしれない。
◆
今年、私は五十歳になる。
ガーランドは、もう今から十年ほど前になるが、危険すぎる商売を繰り返したうえまったく反省しなかったために処刑されてこの世を去ったらしい。
また、ロレッタが術でガーランドにそういうことをさせていたということも後にガーランドの親たちの調査によって明らかになり、それによってロレッタも処刑されたそうだ。
二人は同じように死へと誘われたのだった。
◆終わり◆
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