婚約者を奴隷のように扱うなんて……正直どうかしていると思います。～無能だからこそ自由と幸福を手に入れられました～

後編

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　こき使われること一ヶ月、私はついにエーギルフィードから婚約の破棄を告げられてしまった。

　理由は、無能だったから、それだけ。

　どこまでもシンプルであった。

　でも私はそれでも良かった。
　だって彼がいなくなればこき使われることもなくなる、奴隷のように扱われることもなくなる。
　彼から離れられたなら私は自由を取り戻せる。
　そういう意味では婚約破棄されるというのも悪いことばかりではないのだ、特に今回の場合は。

　これは解放である。

　私はめでたく自由を取り戻した。

　それが無能ゆえであるのは少々悲しいことではあるけれど。

　ただ、それもまた救い。
　ふざけた話のようだが実際そうなのだ。

　無能ゆえ救われる。
　無能ゆえ自由を得る。

　時にはそういうこともあるのだ。


　◆


　あの婚約破棄から二年半が経った今、私は、良き夫と第一子である可愛い赤子と共に生活している。

　毎日はとても楽しい。
　もちろん忙しくもあるけれど。

　でも毎日充実している。

　一方エーギルフィードはというと。
　私の次に婚約した女性にも同じようなことをしていたようで、その結果裁判を起こされてしまい、痛い目に遭ったそうだ。

　その話を聞いた時、内心「ざまぁ」と思ってしまった。

　他者が落ちぶれることを喜ぶというのは一般的には良いことではないかもしれない、でも、人の心というのはそういうものなのだ。

　エーギルフィードは嫌いな人だから。
　エーギルフィードは私を傷つけた人だから。

　それがこの胸にある黒を作り出したすべての根源だ。


◆終わり◆