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前編
しおりを挟む妖精の森と呼ばれる森に一番近い人の村で生まれた私メリーは、村長の息子である同じ年の彼モリーグルスと婚約していた。
婚約することになったきっかけは、彼が私の顔を気に入ったこと――つまり、追い掛け回された果てに婚約したのである。
だが彼は熱しやすく冷めやすい人だった。それゆえ私のこともすぐに飽きてしまって。気づけば他の女に熱を上げる日々を過ごすようになっていた。休日だって最初の頃は一緒に過ごしていたのに段々忙しいとか何とか言って会ってくれなくなっていったし、たまにこちらから会いたいと言ってみても無視することが増えた。
――そしてその果てに。
「メリー、悪いけどさ。……婚約、破棄するわ」
ついにそう言われてしまった。
もっとも、彼の心が私に向いていないことには気づいていたので婚約破棄と言われようともそれほど驚かなかったけれど。
「顔は、まぁ、今も好きっちゃあ好きなんだけどさぁ……飽きたんだよな、正直。これが美人は飽きるってやつかな? はは。それにさ、メリーってお固いだろ? 身を許してくれないしさ。結婚まで我慢しろとかどんだけなんだよあり得ねぇ。まぁそれが王女とかなら分かるけどよ、一般人のくせに順序を守りたいとか価値なしだろ。しかもマッサージくらいの小さな奉仕も三日に一回しかしてくれねぇし。ほんと、メリーと一緒にいる価値ないわー」
急にあれこれ言ってきたことには驚いた。
そこまで言う? なんて思ってしまって。
でもそれが彼の本心だったのだと思う。
今までは言ってこなかった、が、いざ別れるとなった時に気が緩んでそれまで密かに思っていたことが口から出てしまったのだろう。
「分かったわ。じゃあ私たち、ここまでね」
「ああ! そうしよう!」
「ええ、分かった。じゃあね。さようならモリーグルス」
意外とさらりと通り過ぎてゆく婚約破棄だった。
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