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前編

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「やっぱお前とはやっていけんわ。婚約は破棄させてもらう」

 ある日のこと、私は、何の前触れもなく急に婚約破棄された。

 彼——婚約者であったサイタルが言うには、元々私のことは好きでなかったらしい。だが、親が家のため私と婚約するよう強く勧めてくるので断れず、仕方なく婚約しただけだったらしい。

 何と勝手な話だろうか。

 確かに身分という意味では私の家の方が上だ。サイタルの親が息子と私を結ばせたいと考えるのも、ある意味では、不自然な話ではないのかもしれない。地位や権力を求める者であるならば、そういう思考に至ることも十分考えられる。

 だが、そんなことで他人を振り回すなんて、勝手にもほどがある。

「そう。分かったわ。婚約は破棄ということね」
「そうさせてくれ」
「損をするのはそちらよ? 構わないのね」
「いいさ。一回きりの人生ならせめて好きな女と暮らしたい」
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