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『過労で倒れてしまったところ婚約破棄されました。~冷血王子とはもうやっていけませんのでさよならします~』
婚約者ウェルベルトはこの国の王子でもあった。
そんな彼と生きてゆくということは、つまり、国の将来を背負ってゆくということだ。
私ルルーサはその意味を深く捉えていた。
だからこそ国の代表として恥ずかしくない私でいようと思っていたのだが――そんな矢先、過労で倒れてしまって。
「お前との婚約、破棄するわ」
目覚めた時、枕もとに立っていたウェルベルトは、第一声冷ややかにそんなことを言ってきた。
「え……」
「過労くらいで倒れる女を妻にするなんて恥ずかしい」
「そ、そんな」
「もっと強い身体の持ち主でないとな。子もたくさん産んでもらわなくてはならないわけだしな。ま、お前は俺の妻となるに相応しい女じゃないってこった」
ウェルベルトは心配なんて少しもしてくれなかった。それどころか倒れた私を馬鹿にしているようであった。さらに、幻滅した、とでも言いたげな目でこちらを見てきて。倒れた私の姿は彼の眼にはただただ情けない存在として映っていたのかもしれない。
「じゃあな、ルルーサ。……ばいばい」
こうして私はウェルベルトから別れを告げられてしまったのであった。
◆
あの後すぐウェルベルトはジエリーという女性と婚約した。
ジエリーという女性は元々は侍女だった人だそうなのだが、数年前に仕事を辞めてからはウェルベルトの傍をうろちょろしていたらしい。
どうやら彼女はウェルベルトの隣を狙っていたようで。
他の侍女らからの話によれば、倒れた私のことを悪く言い王子の妻には相応しくないなどと言って彼を洗脳していたのも彼女だとか。
……結局私は彼女の企みに巻き込まれただけだったのか。
そうして結婚したウェルベルトとジエリーだが、結婚後間もなく問題が発生する――そう、ジエリーが、王家のお金を勝手にどんどん使うようになったのだ。
で、やがて、王族らは行動を起こした。
ジエリーを王家より追い出す。
そのために動き出したのである。
だが追い込まれたジエリーはウェルベルトを人質にウェルベルトの部屋に立てこもり「わたくしを追い出すというのであれば、彼もろともここで死んでやりますわ!」と言って脅した。
それによってジエリーは一旦追放を免れる。
が、その後少しして、ウェルベルトと共に庭を散歩していた最中に突如何者かに襲われ殺害された。
ジエリーを殺したのは王族が雇った暗殺者であった。
その後ウェルベルトは国王の命により暫し謹慎させられることとなった。
妻を、ジエリーを、肝心な時に制止できず好き放題させてしまった。そのことを反省するように、とのことでの謹慎。ウェルベルトは反省のための時間を与えられたのであった。
だがその謹慎中にウェルベルトは殺められた。
ジエリーの兄による単身突入、そして王子殺害であった。
犯人である彼は妹を死なせる原因を作ったウェルベルトを恨んでいたのだ――もっとも、その彼も、捕らえられて処刑されたのだが――最期は爽やかな笑みを浮かべて満足そうに瞳を煌めかせていたらしい。
これらの一連の事件により、王家の民からの印象は良くないものとなってしまった。
◆
あれから数年、私は今、良き人と結婚して穏やかに幸せに暮らすことができている。
夫は王家の者ではない。そういう意味では相手の格が下がったとも言えるかもしれない。実際周囲にもそういうことを言ってくる者もいたことは確かだ。嫌みを言われたことも一度もないわけではない。
でも、私は、今の夫を他の誰よりも愛している。
彼が一番良い相手だと思う。
身分が高ければそれでいいのか? ――いいえ。
何度問われたとしても、私はきっとそう答えるだろう。
たとえ王子でも、過労で倒れた時にあんな心ない態度を取るような人とは生涯を共になどできない。だってそれは助け合えないということだからだ。生きていれば色々なことがあるのに、支え合うことができないなら、それはもはや夫婦とは言えないだろう。
そんなものは奴隷扱いでしかない。
しんどくても、よれよれでも、常に健康そうに振る舞って働き続けなくてはならないなんて。
◆終わり◆
『 「お前さ、生きてる意味あんの?」婚約者からいきなりそんなことを言われたら……何とも言えない複雑な気持ちになってしまいます。 』
「お前さ、生きてる意味あんの?」
婚約者ルトメールはある時急にそんなことを言ってきた。
「え。……今、何て?」
「だからさ、お前、生きてる意味あんのかって聞いてんだよ」
ルトメールとは五年以上関わっている。
けれども私は今の彼ほど心なく冷ややかな目をした彼を見たことがない。
「そんなこと聞く?」
「答えろよ」
「もしかしてルトメールは私に生きている意味がないって言いたい感じ?」
「何でもいいから問いに答えろ!」
「……そうね。私は私に自信を持っているわ。だから意味がないとは思わないしこれからもそんな風に思うことはないと思うわ」
するとルトメールは。
「分かった、じゃあ婚約は破棄な」
そんなことを言った。
……え? どうしてそうなるの。生きてる意味があるかどうか尋ねられて、それに答えたら、即座に婚約破棄? ……とても理解できそうにない。何が悪かったのだろう。それも、即座に婚約破棄されるほど。答えろと言われて答えたこと? それとも答えの内容? ……あるいは、どのみち最初から婚約破棄を告げるつもりだった? 申し訳ないが私には今の彼を理解することはできない。
「また急ね」
「いいだろ、もうそう決めたんだから」
「勝手だわ」
「だとしてもそれが俺の決定だ」
ルトメールがこんなにも悪い意味で自己中心的な人だとは思わなかった。
「……そう」
「いいな? 聞いたな? 婚約は本日をもって破棄だからな」
「分かったわ。けれど……償いはしてもらうから」
「はぁ?」
「お金よ」
「はああ!? 何だと!?」
「そちらの都合での婚約破棄だもの、当然でしょう」
向こうが冷ややかな視線を向けてくるのであれば、こちらだって容赦はしない。
彼はもう味方ではない。
私もそう捉えて動かせてもらう。
「じゃあねルトメール、さようなら」
◆
生きてる意味あんの、などという問いを私に投げつけたということを知った父は激怒した。
「絶対に許さん! 金をむしり取ってやる!」
父は協力者を集めルトメールから慰謝料をがっつり取るべく動き出した。
「父さん、無理はしなくて大丈夫よ」
「ああ。だが我が娘を侮辱されて黙ってはおれん。父として、だ。お前は何も心配するな、父が本気で叩きのめす」
「そ、そう……」
「やってほしいことがあれば言ってくれ、参考にするからな」
「そうね……何か思いついたら言うわ……」
ここまで怒っている父を見たのは初めてだった。
――その後ルトメールは本当に慰謝料を支払わされることとなった。
しかもその額が通常の倍以上。
それはそういうことに慣れていて詳しい人が父に協力したからこそできたことであった。
「よぉし、ま、これでそこそこ順調にいけたな!」
「ありがとう父さん」
「どうだ! これでちょっとは父さんを尊敬してくれたか?」
「上手くやったなぁと思うわ」
「ぐほへへへ!」
「……いや笑い方」
父は最後は相変わらずであった。
ただ、慰謝料をしっかりと取ることができたことによって、私の心は少し軽くなったような気がした。
負った傷は癒えずとも。
何もないまま終わってしまうよりかはすっとする部分もあって。
過去は捨てて、未来へと歩もう。
いつしかそう思えるようになっていた。
◆
慰謝料を取ることに成功した日からちょうど三ヶ月ほどが経った頃、父の紹介で一人の男性と会ってみることとなる。
その男性は良い会社に勤めている人だ。
父が言うには「誠実だしほどよく真面目、ユーモアもあって、広い心を持っている」とのこと。
だから会うのを楽しみにしていたのだが――本当に、父が言っていた通りの感じの人であった。
私はその人をすぐに好きになった。
――そして、彼と結婚するべく動き出す。
◆
出会いから一年半ほどで私は彼と結婚した。
父の紹介から始まった関係。
けれどもそれは良縁で。
二人はあっという間に惹かれ合い、そして、気づけば強い絆で結ばれていた。
こんなにも良い縁を手に入れさせてくれた父には感謝している。
……ああそうだ、そういえば、なのだが。
ルトメールはもうこの世を去った。
彼はまだ年寄りではない。
それゆえ死は驚くべきものだろう。
ただ、彼は自身の行動によって死へと至ることとなったのだ。
――既婚者女性に手を出した。
それが結果的に彼を死へ誘うこととなったのだった。
女性と深い仲になっていたが、それが女性の夫にばれてしまい、激昂した夫に何度もこん棒で殴られて。感情的になっていた夫はとまらなかった。で、殴り続けているうちにルトメールは死んでいた。
ルトメールの最期、それは、想像していたよりずっと呆気ないものであった。
激怒したからといって他人を殴り続けることは良くないことだ。そういう意味では女性の夫にも問題はある。やり過ぎ、という意味で。たとえショックだったとしても、もう少し冷静になるべきではあっただろう。
ただ、そんなことになる原因を作ったのは外の誰でもないルトメール自身であるので、ルトメールにも非はある。
いや、むしろ、彼にこそ非があるのである。
◆終わり◆
『お茶会を楽しんでいたのですが、謎の女が殴り込んできまして……? ~急に現れて、一体何なのでしょうか~』
その日もいつもと変わりなくお茶会を楽しんでいたのだが。
「あんたねえええええええ! さっさとアドリー様から離れなさいよおおおおおおおお!」
お茶会をしていた庭に侵入してきた謎の女がそんなことを叫びながら襲いかかってきた。
アドリーというのは私の婚約者の名だ。
ということはつまり彼女はアドリーに関係する誰かなのだろう。
ただ、私を敵視していることは明らかなので、そこから推測するに恐らく彼女はアドリーの男女という意味での関係者なのだろう。
……なんということだ、厄介なことになりそうな予感。
彼女は私が着ている服の襟部分を掴んで「邪魔なのよあんた!」などと怒鳴ってくる。その形相はまるで鬼のよう。恐ろしさの塊、みたいな顔をしている。本来であればそこそこ美しい女性なのだろうと想像するのだけれど、怒りと憎しみに染まったそれからは恐ろしさしか感じ取ることができない。
「あんたなんて殺してや――」
「やめなさいよッ!!」
女性が私の顔面を殴ろうとした瞬間、お茶会参加者のうちの一人が女性を後ろから殴って倒し地面に押さえつけた。
「大丈夫?」
「……あ、え、ええ。ありがとう。助かったわ」
凶暴な女性は地面に押さえ付けらえていてもなお暴れている。
また、暴れながら同時に私への暴言を吐き続けているので、なおさら野獣のようだ。
こんな恐ろしい女性、アドリーはどこで知り合ったのだろう……。
「取り敢えずこの女、警察に突き出してくるわ」
「え、いいのかしら」
「当たり前でしょ。この女がやろうとしたことは犯罪だし。じゃ、行ってくるから」
「……ありがとう」
こうして私を襲った女性は警察にお世話になることとなったのだった。
彼女は牢屋送りに。
当分一般社会には出てこられないだろう――そう思っていたら、牢内での態度が悪かったとか何とかで思っていたより早く処刑に回された。
あれほどまでに敵意や殺意を向けられたのはこれが初めてで、だから私は何だかとても怖かった。またいつの日かあの女が社会に出てくるのだと考えるだけでぞっとして眠れそうにない夜もあった。
だからこそ、彼女が処刑されたと聞いた時には嬉しくて。
そこには言葉で表現できないほど大きな安堵があった。
その後私はアドリーから話を聞いた。
するとアドリーとあの女性が実は恋仲であったということが判明。
また、アドリーが「もうすぐ婚約破棄できそうだから待っていて」などと言っていたことも発覚した。
アドリーは「本当は別れる気なんてなかったんだ」と言っていたけれど、今さらそんなことを言われても信じられるはずもないので、彼との婚約は破棄とすることとした。
償いのお金はしっかりと払ってもらい、アドリーとの関係はそこでおしまいとする。
婚約している身で他の女に手を出していた彼が悪い、自業自得だ。
その後アドリーは結婚相手を新しく探し始めたようだが評判が悪すぎるせいでまともな女性からは少しも相手にされなかったようである。
それから少しして、私は良き人と巡り会え、その人と結婚。
幸せな家庭を築くことができた。
あの時アドリーに執着していなくて良かった。
◆終わり◆
『他に好きな人ができたからと私との婚約を破棄した彼は惚れた女性からは相手にしてもらえなかったようです。』
「君との婚約だが、破棄とすることとしたよ」
かっこつけ婚約者ミレニーユは変ないきったポーズでそんなことを告げてきた。
ある春の日のことである。
穏やかな日射しに沈み込むような彼の怪しい格好が見ていて恥ずかしくなる。
ミレニーユとしてはかっこいいつもりなのだろうか……。
いやはや、イタい。
「婚約破棄、ですか?」
「そうなのだよ。実はね、真実の愛を見つけてしまったんだ」
「……と、言いますと?」
「好きな人ができたんだよ。君ではない女性で。その女性は本当に美しい人でね、僕の心は今彼女に燃えているんだ」
つまり、心変わりしたということか。
それはまた大変かっこ悪いではないか。
「僕の心をこれほどまでに燃やすのは彼女が初めてだ」
「そうですか」
「なので、君とは終わりにするのだよ」
「……分かりました」
他に愛している女性がいる男をいつまでも持っていたいとは思わない。だって、そんなことをしても、結局形だけの持っているになることは目に見えているから。縛りたくない、なんていうきれいごとではない。ただ、心がこちらに向いていないと知りながら縛りつけていたいほど彼への執着はないのだ。
「はは! 分かってくれるなら助かるよ! じゃあな、ばいばい」
彼は笑顔でそう言って、一度両手を頭の上で交差させるようなポーズをとってから、害虫のような速さで去っていった。
◆
あの後ミレニーユは言っていた女性に嫌われてしまったそうだ。
何でも、婚約破棄した日からアプローチを始めたのだそうだが、まったくもって相手にされなかったそう。女性は特にミレニーユのナルシスト的部分を嫌っていたらしい。それでもミレニーユは何度も接触し愛をもぎ取ろうとしていたようだが、ある時女性に我慢の限界が来たらしくて。ボロクソに言われ「二度と近寄らないでください」とまで言われてしまったそうだ。
彼の想いは実らなかった。
また、ミレニーユはその後も女性につきまとい、やがてストーカーとして治安維持組織に突き出され牢屋送りにされてしまったそう。
……馬鹿だなぁ、なんて思いながら。
でも、女性からすれば、拒否したにもかかわらずいつまでもつきまとわれたら怖かっただろう。
その気持ちは想像できる。
だから彼女がミレニーユを治安維持組織に突き出すという選択をしたのも理解はできた。
ミレニーユはもう罪人だ。
この先きっと穏やかには生きてゆけないだろう。
でも自業自得。
すべては彼の行動が招いたことなのだから。
◆
ミレニーユが牢屋送りになったと聞いた頃から数ヶ月が経った頃、私は、一人の青年と知り合った。
これまで異性の知り合いはあまりいなかった。
でも彼とはすぐに仲良くなれた。
出会いは、とある釣り大会。
私は昔からたまに釣りをしていたのでたまたま思い立って大会に参加してみたのだが、そこで彼と出会ったのだ。
そんな彼と私は結ばれた。
出会いとはどこに落ちているか分からないものだ。今も強くそう思う。そして、人生とは分からないものだ、とも。人生の不思議、というものを、彼との出会いからは強く感じた。
ただ、何にしても、彼と出会えたことは本当に良かったと思うしそれが幸運な出来事であったことは確かだ。
◆終わり◆
婚約者ウェルベルトはこの国の王子でもあった。
そんな彼と生きてゆくということは、つまり、国の将来を背負ってゆくということだ。
私ルルーサはその意味を深く捉えていた。
だからこそ国の代表として恥ずかしくない私でいようと思っていたのだが――そんな矢先、過労で倒れてしまって。
「お前との婚約、破棄するわ」
目覚めた時、枕もとに立っていたウェルベルトは、第一声冷ややかにそんなことを言ってきた。
「え……」
「過労くらいで倒れる女を妻にするなんて恥ずかしい」
「そ、そんな」
「もっと強い身体の持ち主でないとな。子もたくさん産んでもらわなくてはならないわけだしな。ま、お前は俺の妻となるに相応しい女じゃないってこった」
ウェルベルトは心配なんて少しもしてくれなかった。それどころか倒れた私を馬鹿にしているようであった。さらに、幻滅した、とでも言いたげな目でこちらを見てきて。倒れた私の姿は彼の眼にはただただ情けない存在として映っていたのかもしれない。
「じゃあな、ルルーサ。……ばいばい」
こうして私はウェルベルトから別れを告げられてしまったのであった。
◆
あの後すぐウェルベルトはジエリーという女性と婚約した。
ジエリーという女性は元々は侍女だった人だそうなのだが、数年前に仕事を辞めてからはウェルベルトの傍をうろちょろしていたらしい。
どうやら彼女はウェルベルトの隣を狙っていたようで。
他の侍女らからの話によれば、倒れた私のことを悪く言い王子の妻には相応しくないなどと言って彼を洗脳していたのも彼女だとか。
……結局私は彼女の企みに巻き込まれただけだったのか。
そうして結婚したウェルベルトとジエリーだが、結婚後間もなく問題が発生する――そう、ジエリーが、王家のお金を勝手にどんどん使うようになったのだ。
で、やがて、王族らは行動を起こした。
ジエリーを王家より追い出す。
そのために動き出したのである。
だが追い込まれたジエリーはウェルベルトを人質にウェルベルトの部屋に立てこもり「わたくしを追い出すというのであれば、彼もろともここで死んでやりますわ!」と言って脅した。
それによってジエリーは一旦追放を免れる。
が、その後少しして、ウェルベルトと共に庭を散歩していた最中に突如何者かに襲われ殺害された。
ジエリーを殺したのは王族が雇った暗殺者であった。
その後ウェルベルトは国王の命により暫し謹慎させられることとなった。
妻を、ジエリーを、肝心な時に制止できず好き放題させてしまった。そのことを反省するように、とのことでの謹慎。ウェルベルトは反省のための時間を与えられたのであった。
だがその謹慎中にウェルベルトは殺められた。
ジエリーの兄による単身突入、そして王子殺害であった。
犯人である彼は妹を死なせる原因を作ったウェルベルトを恨んでいたのだ――もっとも、その彼も、捕らえられて処刑されたのだが――最期は爽やかな笑みを浮かべて満足そうに瞳を煌めかせていたらしい。
これらの一連の事件により、王家の民からの印象は良くないものとなってしまった。
◆
あれから数年、私は今、良き人と結婚して穏やかに幸せに暮らすことができている。
夫は王家の者ではない。そういう意味では相手の格が下がったとも言えるかもしれない。実際周囲にもそういうことを言ってくる者もいたことは確かだ。嫌みを言われたことも一度もないわけではない。
でも、私は、今の夫を他の誰よりも愛している。
彼が一番良い相手だと思う。
身分が高ければそれでいいのか? ――いいえ。
何度問われたとしても、私はきっとそう答えるだろう。
たとえ王子でも、過労で倒れた時にあんな心ない態度を取るような人とは生涯を共になどできない。だってそれは助け合えないということだからだ。生きていれば色々なことがあるのに、支え合うことができないなら、それはもはや夫婦とは言えないだろう。
そんなものは奴隷扱いでしかない。
しんどくても、よれよれでも、常に健康そうに振る舞って働き続けなくてはならないなんて。
◆終わり◆
『 「お前さ、生きてる意味あんの?」婚約者からいきなりそんなことを言われたら……何とも言えない複雑な気持ちになってしまいます。 』
「お前さ、生きてる意味あんの?」
婚約者ルトメールはある時急にそんなことを言ってきた。
「え。……今、何て?」
「だからさ、お前、生きてる意味あんのかって聞いてんだよ」
ルトメールとは五年以上関わっている。
けれども私は今の彼ほど心なく冷ややかな目をした彼を見たことがない。
「そんなこと聞く?」
「答えろよ」
「もしかしてルトメールは私に生きている意味がないって言いたい感じ?」
「何でもいいから問いに答えろ!」
「……そうね。私は私に自信を持っているわ。だから意味がないとは思わないしこれからもそんな風に思うことはないと思うわ」
するとルトメールは。
「分かった、じゃあ婚約は破棄な」
そんなことを言った。
……え? どうしてそうなるの。生きてる意味があるかどうか尋ねられて、それに答えたら、即座に婚約破棄? ……とても理解できそうにない。何が悪かったのだろう。それも、即座に婚約破棄されるほど。答えろと言われて答えたこと? それとも答えの内容? ……あるいは、どのみち最初から婚約破棄を告げるつもりだった? 申し訳ないが私には今の彼を理解することはできない。
「また急ね」
「いいだろ、もうそう決めたんだから」
「勝手だわ」
「だとしてもそれが俺の決定だ」
ルトメールがこんなにも悪い意味で自己中心的な人だとは思わなかった。
「……そう」
「いいな? 聞いたな? 婚約は本日をもって破棄だからな」
「分かったわ。けれど……償いはしてもらうから」
「はぁ?」
「お金よ」
「はああ!? 何だと!?」
「そちらの都合での婚約破棄だもの、当然でしょう」
向こうが冷ややかな視線を向けてくるのであれば、こちらだって容赦はしない。
彼はもう味方ではない。
私もそう捉えて動かせてもらう。
「じゃあねルトメール、さようなら」
◆
生きてる意味あんの、などという問いを私に投げつけたということを知った父は激怒した。
「絶対に許さん! 金をむしり取ってやる!」
父は協力者を集めルトメールから慰謝料をがっつり取るべく動き出した。
「父さん、無理はしなくて大丈夫よ」
「ああ。だが我が娘を侮辱されて黙ってはおれん。父として、だ。お前は何も心配するな、父が本気で叩きのめす」
「そ、そう……」
「やってほしいことがあれば言ってくれ、参考にするからな」
「そうね……何か思いついたら言うわ……」
ここまで怒っている父を見たのは初めてだった。
――その後ルトメールは本当に慰謝料を支払わされることとなった。
しかもその額が通常の倍以上。
それはそういうことに慣れていて詳しい人が父に協力したからこそできたことであった。
「よぉし、ま、これでそこそこ順調にいけたな!」
「ありがとう父さん」
「どうだ! これでちょっとは父さんを尊敬してくれたか?」
「上手くやったなぁと思うわ」
「ぐほへへへ!」
「……いや笑い方」
父は最後は相変わらずであった。
ただ、慰謝料をしっかりと取ることができたことによって、私の心は少し軽くなったような気がした。
負った傷は癒えずとも。
何もないまま終わってしまうよりかはすっとする部分もあって。
過去は捨てて、未来へと歩もう。
いつしかそう思えるようになっていた。
◆
慰謝料を取ることに成功した日からちょうど三ヶ月ほどが経った頃、父の紹介で一人の男性と会ってみることとなる。
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父が言うには「誠実だしほどよく真面目、ユーモアもあって、広い心を持っている」とのこと。
だから会うのを楽しみにしていたのだが――本当に、父が言っていた通りの感じの人であった。
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――そして、彼と結婚するべく動き出す。
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……ああそうだ、そういえば、なのだが。
ルトメールはもうこの世を去った。
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それゆえ死は驚くべきものだろう。
ただ、彼は自身の行動によって死へと至ることとなったのだ。
――既婚者女性に手を出した。
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女性と深い仲になっていたが、それが女性の夫にばれてしまい、激昂した夫に何度もこん棒で殴られて。感情的になっていた夫はとまらなかった。で、殴り続けているうちにルトメールは死んでいた。
ルトメールの最期、それは、想像していたよりずっと呆気ないものであった。
激怒したからといって他人を殴り続けることは良くないことだ。そういう意味では女性の夫にも問題はある。やり過ぎ、という意味で。たとえショックだったとしても、もう少し冷静になるべきではあっただろう。
ただ、そんなことになる原因を作ったのは外の誰でもないルトメール自身であるので、ルトメールにも非はある。
いや、むしろ、彼にこそ非があるのである。
◆終わり◆
『お茶会を楽しんでいたのですが、謎の女が殴り込んできまして……? ~急に現れて、一体何なのでしょうか~』
その日もいつもと変わりなくお茶会を楽しんでいたのだが。
「あんたねえええええええ! さっさとアドリー様から離れなさいよおおおおおおおお!」
お茶会をしていた庭に侵入してきた謎の女がそんなことを叫びながら襲いかかってきた。
アドリーというのは私の婚約者の名だ。
ということはつまり彼女はアドリーに関係する誰かなのだろう。
ただ、私を敵視していることは明らかなので、そこから推測するに恐らく彼女はアドリーの男女という意味での関係者なのだろう。
……なんということだ、厄介なことになりそうな予感。
彼女は私が着ている服の襟部分を掴んで「邪魔なのよあんた!」などと怒鳴ってくる。その形相はまるで鬼のよう。恐ろしさの塊、みたいな顔をしている。本来であればそこそこ美しい女性なのだろうと想像するのだけれど、怒りと憎しみに染まったそれからは恐ろしさしか感じ取ることができない。
「あんたなんて殺してや――」
「やめなさいよッ!!」
女性が私の顔面を殴ろうとした瞬間、お茶会参加者のうちの一人が女性を後ろから殴って倒し地面に押さえつけた。
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「……あ、え、ええ。ありがとう。助かったわ」
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「……ありがとう」
こうして私を襲った女性は警察にお世話になることとなったのだった。
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だからこそ、彼女が処刑されたと聞いた時には嬉しくて。
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するとアドリーとあの女性が実は恋仲であったということが判明。
また、アドリーが「もうすぐ婚約破棄できそうだから待っていて」などと言っていたことも発覚した。
アドリーは「本当は別れる気なんてなかったんだ」と言っていたけれど、今さらそんなことを言われても信じられるはずもないので、彼との婚約は破棄とすることとした。
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◆終わり◆
『他に好きな人ができたからと私との婚約を破棄した彼は惚れた女性からは相手にしてもらえなかったようです。』
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いやはや、イタい。
「婚約破棄、ですか?」
「そうなのだよ。実はね、真実の愛を見つけてしまったんだ」
「……と、言いますと?」
「好きな人ができたんだよ。君ではない女性で。その女性は本当に美しい人でね、僕の心は今彼女に燃えているんだ」
つまり、心変わりしたということか。
それはまた大変かっこ悪いではないか。
「僕の心をこれほどまでに燃やすのは彼女が初めてだ」
「そうですか」
「なので、君とは終わりにするのだよ」
「……分かりました」
他に愛している女性がいる男をいつまでも持っていたいとは思わない。だって、そんなことをしても、結局形だけの持っているになることは目に見えているから。縛りたくない、なんていうきれいごとではない。ただ、心がこちらに向いていないと知りながら縛りつけていたいほど彼への執着はないのだ。
「はは! 分かってくれるなら助かるよ! じゃあな、ばいばい」
彼は笑顔でそう言って、一度両手を頭の上で交差させるようなポーズをとってから、害虫のような速さで去っていった。
◆
あの後ミレニーユは言っていた女性に嫌われてしまったそうだ。
何でも、婚約破棄した日からアプローチを始めたのだそうだが、まったくもって相手にされなかったそう。女性は特にミレニーユのナルシスト的部分を嫌っていたらしい。それでもミレニーユは何度も接触し愛をもぎ取ろうとしていたようだが、ある時女性に我慢の限界が来たらしくて。ボロクソに言われ「二度と近寄らないでください」とまで言われてしまったそうだ。
彼の想いは実らなかった。
また、ミレニーユはその後も女性につきまとい、やがてストーカーとして治安維持組織に突き出され牢屋送りにされてしまったそう。
……馬鹿だなぁ、なんて思いながら。
でも、女性からすれば、拒否したにもかかわらずいつまでもつきまとわれたら怖かっただろう。
その気持ちは想像できる。
だから彼女がミレニーユを治安維持組織に突き出すという選択をしたのも理解はできた。
ミレニーユはもう罪人だ。
この先きっと穏やかには生きてゆけないだろう。
でも自業自得。
すべては彼の行動が招いたことなのだから。
◆
ミレニーユが牢屋送りになったと聞いた頃から数ヶ月が経った頃、私は、一人の青年と知り合った。
これまで異性の知り合いはあまりいなかった。
でも彼とはすぐに仲良くなれた。
出会いは、とある釣り大会。
私は昔からたまに釣りをしていたのでたまたま思い立って大会に参加してみたのだが、そこで彼と出会ったのだ。
そんな彼と私は結ばれた。
出会いとはどこに落ちているか分からないものだ。今も強くそう思う。そして、人生とは分からないものだ、とも。人生の不思議、というものを、彼との出会いからは強く感じた。
ただ、何にしても、彼と出会えたことは本当に良かったと思うしそれが幸運な出来事であったことは確かだ。
◆終わり◆
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