6 / 27
4作品
しおりを挟む
『可愛い妹が浮気されたうえ婚約破棄されました、なので姉として復讐いたします!』
その日可愛い妹ルルが婚約破棄された。
彼女の婚約者エベバーは美男子だった。しかしそれを利用し複数の女に手を出していたのだ。それも、可愛いルルと婚約しておきながら。婚約者を作っておきながら他の女にもお遊びで手を出す、なんという悪質な男だろうエベバーは。
「お姉ちゃんぅぅぅぅぅ! 悲しい悲しいよおおおお!」
ルルは抱きついてきて号泣。
懐かしい光景だ。
昔はよくこういう場面に遭遇した。
思えばルルはいつだって泣き虫だった。
「ああ、ああ、とにかく落ち着いてルル」
「だってだっでぇぇぇぇぇ!」
でもそんなところも含めてルルだ。
そういう少々面倒臭い感じの部分も合わせて、私は彼女を愛している。
「好きだったんだもぉぉんんんん!」
「エベバーさんのこと?」
「そうだよぉぉぉぉぉ! びええぇぇぇぇぇん! 好きだっだのにぃぃぃぃぃ! 婚約破棄されぢゃっでええぇぇぇぇぇ! 悲しいよぉぉぉぉぉ! びぃぃぃぃぃぃ!」
だから抱きつかれ号泣されてもルルを嫌いになったりはしない。たとえ服が彼女の涙と鼻水でぐしょぐしょになっても。それでも私は姉としてルルのことを想い心から愛している。
……ただ、ルルを傷つけたエベバーのことは許せない。
「エベバーさんと戻りたい?」
「……ぐすっ、ぅ、ううん」
「そうなの?」
「もう……もう、いやだよ、酷いもん……っ……」
ルルはエベバーを愛していた。
けれどももう元の位置に戻りたいとは思っていないようだ。
……ならばやりようはある。
「エベバーさんがどうなっても、もういいのね?」
「……うん」
「後悔しない?」
「……っ、ぅ、うんしないよ……だって、だって、もう……捨てられたんだもん、戻れない……」
分かったわ、と、微笑みかける。
「ルル、待っていて。彼に復讐してあげる」
「お姉ちゃん」
「だからルルはそれまでゆっくりしていなさい」
するとルルは笑った。
「うん! ありがとうお姉ちゃん!」
満面の笑みだ。
ああ、この笑み、これを私は愛しているし守りたい……!
ルルには笑顔が似合う――否、それ以外の表情なんて相応しくない。
彼女の笑顔のためなら私は何だってできる。
私は早速呪いに必要な材料を集めた。そしてそれを使って必要な物を作り上げてゆく。そうして必要な物がすべて揃えば、いよいよ本格的に呪っていく段階へ入る。
相手はルルをあんな風に泣かせた男だ、容赦は必要ない。
――その呪いによってエベバーは死亡した。
呪いを行った翌日のこと。
朝いつも通り散歩に出掛けようとしたところ足もとにいた毒蜘蛛をうっかり踏みそうになりその際に毒蜘蛛に噛まれてしまった。
彼は慌ててかかりつけ医のところへ。
しかしそこで何が起きたのかを説明している最中に急に気を失い、そのまま帰らぬ人となったのだった。
蜘蛛の毒のせいで死んだのか、我が呪いの効果で死んだのか……。
いや、もしかしたら、両方かもしれない。
「お姉ちゃん! 今回もありがとう!」
「どういたしまして」
「ほんとすごいよねお姉ちゃんの呪は!」
「そうかしらね」
「だっていっつも効果抜群だもん~」
「可愛いルルのためだもの、できる限りのことをするわ」
私はこれからも可愛い妹ルルを護って生きてゆく。
……姉妹の絆は誰にも壊せないの。
◆終わり◆
『心ない言葉を浴びせられたうえ婚約破棄宣言までされてしまった日の夕暮れ時……意外な人から想いを告げられまして!?』
婚約者エリムロールから心ない言葉を浴びせられたうえ婚約破棄宣言までされてしまった日の夕暮れ時。
「ナナリーさん! ずっと好きでした!」
一年ほどずっとお世話になっている若い郵便屋さんモッツから想いを告げられた。
「え……」
「婚約破棄されたと聞きまして、それで……想いを伝えるなら今しかない、と!」
けれどその時の私はまともな対応はできなかった。
なぜなら婚約破棄された衝撃で疲れ果てていたからである。
「ええと……すみません。私今そういう気分じゃないので。ではこれで失礼します」
そう言って、その場から離れる。
そんなことしかできなかった。
申し訳ないと思いつつも。
丁寧に対応できるほど心の余裕はなかったのだ。
――しかし彼は諦めなかった。
「ナナリーさん! 茶葉を贈らせてください!」
「え」
「お好きですよね!?」
「あ、はい」
「ああ良かった……」
モッツはまた私に接近しようと行動してくれた。
「そ、それで、ですねっ……今度一緒にお茶とかしませんか!?」
「お茶?」
「飲みましょう! それを! 二人で!」
「ええと……そうですね。また機会があれば、お願いします」
「はい! はい! お願いしますッ」
彼の気持ちには気づいている。
でも上手く応える自信がない。
エリムロールの件をまだ少しひきずっているから。
「こんにちは!」
「あ、こんにちは。今日は良い天気ですね」
ただ、彼の仕事ゆえ毎日顔を合わせるので、段々距離を縮めて関われるようにはなってきた。
「はい! とっても!」
「お仕事お疲れ様です」
すぐには無理でも、徐々には親しくなれる――そんな気はする。
それは多分、彼の想いが真っ直ぐなものだからだろう。
「ありがとうございます! あ、そうでした、ちょっと大丈夫です?」
「はい」
「今度お花を贈りたいのですけど……お好きな種類とかありますか?」
「そうですね、向日葵とか好きですよ」
「おお! 向日葵! 明るくって可愛い、みたいなイメージです。詳しく知らなくて恥ずかしいですが……と、とにかく! ではお贈りするのはそれにしたいと思います!」
――そんな風にして月日は流れ。
「僕と結婚してください!!」
「……ええ、喜んで」
私はモッツと共に行く未来を選んだ。
「思えば、あの絶望から私を救ってくれたのは貴方でした。……感謝しています。貴方が寄り添っていてくれたからこそ、今の私があります」
◆
結婚式から数年が経った今でも私とモッツは仲良しだ。
彼の友人からは超仲良し夫婦なんて冗談めかして言われることもあるほど。
私たちはきっとこれからも仲良しなままで生きてゆくだろう。
ちなみにエリムロールはというと。
あの後女関係で揉め、恨まれ、一人の女に路上で油をかけられたうえ火をつけられてしまい――その事件によって死亡したそうだ。
◆終わり◆
『婚約破棄された日の晩、奇跡が起こりました。~急に大人気になってしまいましたが、私は私が良いと思える人をパートナーに選びます~』
伝説の花が咲いた日、奇跡が起こる。
――この国に伝わっているお話。
ある意味それは伝説のようなもの。
誰も真実とは思っていないが、その一方で心には置いているようなものである。
「お前は何の取り柄もない女だ、よって、婚約は破棄とする」
婚約者で王子のフレッセントは私を急に部屋に呼び出してそんなことを言ってきた。
「え」
あまりにも唐突で戸惑いの声を漏らしてしまう。
「この国の頂点に立つに相応しい女ではないのだ、お前は」
「また急ですね」
「くだらんことを言うな! 態度が悪い!」
「ええ……」
こうして私はフレッセントに捨てられたのだが――その日の晩、私の実家であり自宅でもある家の庭に伝説の花が咲いた。
「う、うそ、これって」
「もしや、伝説に出てくるアレかぁ……?」
両親も驚いていた、そしてもちろん私も。
――それから少しして、私の身には救国の女神が宿っているという事実が発覚する。
それによって私は多くの国の王子たちより求婚を受けた。
その中で誰か一人を選ぶという形になり。
いきなりのことで戸惑い少々混乱しつつではあったが、私はやがて一人の王子を生涯のパートナーとすることを決めた。
自然を重んじる国の王子ラティスリー、彼を選んだ。
「今度庭園を紹介するよ」
「よいのですか!?」
「うん、もちろん。選んでもらえたことだからお礼に。それに、この国の美しいところをもっと見てほしいしね」
「ありがとうございます……!」
ラティスリーは温厚な人で、最初に会った時から他の王子とは違うものを感じていた。
「この国を好きになってもらえたいいんだけど」
その後事件があった。
フレッセントが「あの女は俺の女だったんだ! 返せ!」などと言ってラティスリーらが暮らす城の近くで暴れたのだ。
だがフレッセントは警備兵によってすぐに捕まった。
そして母国へ返還されることはなくそのまま処刑されたのだった。
王子を他国が処刑するというのはかなり珍しいことではある。
だが、まぁ、時にはそういうこともあるのだろう。
なんにせよ私には関係のないことだ。
今さらフレッセントが殺められたところで私には無関係、もう完全にどうでもいいことなのである。
これからはラティスリーと共に生きてゆく。
彼のために、そして、彼の国のために。
そうやって私は生きていくつもりだし、この力も今いる国のために使う。
――過去はもう振り返らない。
◆終わり◆
『身勝手に婚約破棄してくるような人には、天罰を下してしまいましょう。』
「貴様との婚約なんぞ、もうどうでもいいわ。破棄だ!!」
幼馴染みで婚約者であった同じ年齢の彼アドルミッディオ・フォース・アソシエラ・エンヴェリオティッツォレロノーロは何の前触れもなくそんなことを告げてきた。
「婚約破棄、ってこと?」
「ああそういうことだ」
「ええっ、そんな急に? あまりにも急すぎない? 大丈夫?」
「何だよその言い方」
「いきなり過ぎて戸惑うわ……」
アドルミッディオは「もういいだろ、じゃあなばいばい」と言ってそのまま話を終わらせた。
許せない……。
まともな説明もせずに……。
私は覚悟を決める。
彼を許さない、罰を下す、と。
◆
「あっほいしょっほいとれとれほいしょら!」
早速始めよう。
天罰を下すための舞いを。
「しぃしぃしぃしぃほらほら、しょっこれほほほほ! ほほっほっほほら! はいっとほらほら! のろのろのろいのじゅじゅじゅじゅじゅ! アドルミッディオアドルミッディオアドルミッディオあどるどるどるどるどるアドルミッディオアドルミッディオアドルミッディオアドルミッディオアドルミッディオ」
元気に歌いながら舞う。
それこそが呪術。
この町に伝わる伝説の秘術だ。
「あ! ほい! ほ! しょら! あ! ほら! ほら! しょしょ! しょ! しょ! しょ! ら! ほい! らら! しょ! しょらら! しょらしょん! しょい! しょら! あ! ほい! ほ! しょら! ほほほい! ほい! らら! しょら! ほい! あ! あ! あああ! ら! ほ! らら! ほい! らら! ほら! あ! ほい!」
誰にでもできるものではない。
けれども私の母はこれができた。
そして私もその母から教わったので舞える。
「はいしょら! はいよれ! ほほほのほ! うん!はいしょら! はいよれ! ほほほのほ! うん! あい! とら! あい! ほれ! といといとあれれ! はいしょら! ほいほい! ほいよれ! とららら! へい! う! ほ!」
時間はかかるが効果も絶大、と聞いている。
「しぃしぃしぃしぃほらほら、しょっこれほほほほ! ほほっほっほほら! はいっとほらほら! のろのろのろいのじゅじゅじゅじゅじゅ! てぃらてぃらてぃららすみすみみすみすみすてぃらみすすすすすらみてぃてぃてぃ! ほい! しぃしぃしぃしぃほっほらほ~ら~、しょっこれほほほほ! ほほっほっほ~ほら! はいっとほらほら! のろのろのろいのじゅじゅじゅじゅじゅ!」
そうして舞った翌日。
アドルミッディオは自宅で昼寝していたそうなのだが、そこに大量の熊が侵入してきて、熊たちに襲われ死亡したそうだ。
やはり、あの舞いには意味があったのだ。
効果は絶大。
その話は嘘ではなかったようだ。
◆終わり◆
その日可愛い妹ルルが婚約破棄された。
彼女の婚約者エベバーは美男子だった。しかしそれを利用し複数の女に手を出していたのだ。それも、可愛いルルと婚約しておきながら。婚約者を作っておきながら他の女にもお遊びで手を出す、なんという悪質な男だろうエベバーは。
「お姉ちゃんぅぅぅぅぅ! 悲しい悲しいよおおおお!」
ルルは抱きついてきて号泣。
懐かしい光景だ。
昔はよくこういう場面に遭遇した。
思えばルルはいつだって泣き虫だった。
「ああ、ああ、とにかく落ち着いてルル」
「だってだっでぇぇぇぇぇ!」
でもそんなところも含めてルルだ。
そういう少々面倒臭い感じの部分も合わせて、私は彼女を愛している。
「好きだったんだもぉぉんんんん!」
「エベバーさんのこと?」
「そうだよぉぉぉぉぉ! びええぇぇぇぇぇん! 好きだっだのにぃぃぃぃぃ! 婚約破棄されぢゃっでええぇぇぇぇぇ! 悲しいよぉぉぉぉぉ! びぃぃぃぃぃぃ!」
だから抱きつかれ号泣されてもルルを嫌いになったりはしない。たとえ服が彼女の涙と鼻水でぐしょぐしょになっても。それでも私は姉としてルルのことを想い心から愛している。
……ただ、ルルを傷つけたエベバーのことは許せない。
「エベバーさんと戻りたい?」
「……ぐすっ、ぅ、ううん」
「そうなの?」
「もう……もう、いやだよ、酷いもん……っ……」
ルルはエベバーを愛していた。
けれどももう元の位置に戻りたいとは思っていないようだ。
……ならばやりようはある。
「エベバーさんがどうなっても、もういいのね?」
「……うん」
「後悔しない?」
「……っ、ぅ、うんしないよ……だって、だって、もう……捨てられたんだもん、戻れない……」
分かったわ、と、微笑みかける。
「ルル、待っていて。彼に復讐してあげる」
「お姉ちゃん」
「だからルルはそれまでゆっくりしていなさい」
するとルルは笑った。
「うん! ありがとうお姉ちゃん!」
満面の笑みだ。
ああ、この笑み、これを私は愛しているし守りたい……!
ルルには笑顔が似合う――否、それ以外の表情なんて相応しくない。
彼女の笑顔のためなら私は何だってできる。
私は早速呪いに必要な材料を集めた。そしてそれを使って必要な物を作り上げてゆく。そうして必要な物がすべて揃えば、いよいよ本格的に呪っていく段階へ入る。
相手はルルをあんな風に泣かせた男だ、容赦は必要ない。
――その呪いによってエベバーは死亡した。
呪いを行った翌日のこと。
朝いつも通り散歩に出掛けようとしたところ足もとにいた毒蜘蛛をうっかり踏みそうになりその際に毒蜘蛛に噛まれてしまった。
彼は慌ててかかりつけ医のところへ。
しかしそこで何が起きたのかを説明している最中に急に気を失い、そのまま帰らぬ人となったのだった。
蜘蛛の毒のせいで死んだのか、我が呪いの効果で死んだのか……。
いや、もしかしたら、両方かもしれない。
「お姉ちゃん! 今回もありがとう!」
「どういたしまして」
「ほんとすごいよねお姉ちゃんの呪は!」
「そうかしらね」
「だっていっつも効果抜群だもん~」
「可愛いルルのためだもの、できる限りのことをするわ」
私はこれからも可愛い妹ルルを護って生きてゆく。
……姉妹の絆は誰にも壊せないの。
◆終わり◆
『心ない言葉を浴びせられたうえ婚約破棄宣言までされてしまった日の夕暮れ時……意外な人から想いを告げられまして!?』
婚約者エリムロールから心ない言葉を浴びせられたうえ婚約破棄宣言までされてしまった日の夕暮れ時。
「ナナリーさん! ずっと好きでした!」
一年ほどずっとお世話になっている若い郵便屋さんモッツから想いを告げられた。
「え……」
「婚約破棄されたと聞きまして、それで……想いを伝えるなら今しかない、と!」
けれどその時の私はまともな対応はできなかった。
なぜなら婚約破棄された衝撃で疲れ果てていたからである。
「ええと……すみません。私今そういう気分じゃないので。ではこれで失礼します」
そう言って、その場から離れる。
そんなことしかできなかった。
申し訳ないと思いつつも。
丁寧に対応できるほど心の余裕はなかったのだ。
――しかし彼は諦めなかった。
「ナナリーさん! 茶葉を贈らせてください!」
「え」
「お好きですよね!?」
「あ、はい」
「ああ良かった……」
モッツはまた私に接近しようと行動してくれた。
「そ、それで、ですねっ……今度一緒にお茶とかしませんか!?」
「お茶?」
「飲みましょう! それを! 二人で!」
「ええと……そうですね。また機会があれば、お願いします」
「はい! はい! お願いしますッ」
彼の気持ちには気づいている。
でも上手く応える自信がない。
エリムロールの件をまだ少しひきずっているから。
「こんにちは!」
「あ、こんにちは。今日は良い天気ですね」
ただ、彼の仕事ゆえ毎日顔を合わせるので、段々距離を縮めて関われるようにはなってきた。
「はい! とっても!」
「お仕事お疲れ様です」
すぐには無理でも、徐々には親しくなれる――そんな気はする。
それは多分、彼の想いが真っ直ぐなものだからだろう。
「ありがとうございます! あ、そうでした、ちょっと大丈夫です?」
「はい」
「今度お花を贈りたいのですけど……お好きな種類とかありますか?」
「そうですね、向日葵とか好きですよ」
「おお! 向日葵! 明るくって可愛い、みたいなイメージです。詳しく知らなくて恥ずかしいですが……と、とにかく! ではお贈りするのはそれにしたいと思います!」
――そんな風にして月日は流れ。
「僕と結婚してください!!」
「……ええ、喜んで」
私はモッツと共に行く未来を選んだ。
「思えば、あの絶望から私を救ってくれたのは貴方でした。……感謝しています。貴方が寄り添っていてくれたからこそ、今の私があります」
◆
結婚式から数年が経った今でも私とモッツは仲良しだ。
彼の友人からは超仲良し夫婦なんて冗談めかして言われることもあるほど。
私たちはきっとこれからも仲良しなままで生きてゆくだろう。
ちなみにエリムロールはというと。
あの後女関係で揉め、恨まれ、一人の女に路上で油をかけられたうえ火をつけられてしまい――その事件によって死亡したそうだ。
◆終わり◆
『婚約破棄された日の晩、奇跡が起こりました。~急に大人気になってしまいましたが、私は私が良いと思える人をパートナーに選びます~』
伝説の花が咲いた日、奇跡が起こる。
――この国に伝わっているお話。
ある意味それは伝説のようなもの。
誰も真実とは思っていないが、その一方で心には置いているようなものである。
「お前は何の取り柄もない女だ、よって、婚約は破棄とする」
婚約者で王子のフレッセントは私を急に部屋に呼び出してそんなことを言ってきた。
「え」
あまりにも唐突で戸惑いの声を漏らしてしまう。
「この国の頂点に立つに相応しい女ではないのだ、お前は」
「また急ですね」
「くだらんことを言うな! 態度が悪い!」
「ええ……」
こうして私はフレッセントに捨てられたのだが――その日の晩、私の実家であり自宅でもある家の庭に伝説の花が咲いた。
「う、うそ、これって」
「もしや、伝説に出てくるアレかぁ……?」
両親も驚いていた、そしてもちろん私も。
――それから少しして、私の身には救国の女神が宿っているという事実が発覚する。
それによって私は多くの国の王子たちより求婚を受けた。
その中で誰か一人を選ぶという形になり。
いきなりのことで戸惑い少々混乱しつつではあったが、私はやがて一人の王子を生涯のパートナーとすることを決めた。
自然を重んじる国の王子ラティスリー、彼を選んだ。
「今度庭園を紹介するよ」
「よいのですか!?」
「うん、もちろん。選んでもらえたことだからお礼に。それに、この国の美しいところをもっと見てほしいしね」
「ありがとうございます……!」
ラティスリーは温厚な人で、最初に会った時から他の王子とは違うものを感じていた。
「この国を好きになってもらえたいいんだけど」
その後事件があった。
フレッセントが「あの女は俺の女だったんだ! 返せ!」などと言ってラティスリーらが暮らす城の近くで暴れたのだ。
だがフレッセントは警備兵によってすぐに捕まった。
そして母国へ返還されることはなくそのまま処刑されたのだった。
王子を他国が処刑するというのはかなり珍しいことではある。
だが、まぁ、時にはそういうこともあるのだろう。
なんにせよ私には関係のないことだ。
今さらフレッセントが殺められたところで私には無関係、もう完全にどうでもいいことなのである。
これからはラティスリーと共に生きてゆく。
彼のために、そして、彼の国のために。
そうやって私は生きていくつもりだし、この力も今いる国のために使う。
――過去はもう振り返らない。
◆終わり◆
『身勝手に婚約破棄してくるような人には、天罰を下してしまいましょう。』
「貴様との婚約なんぞ、もうどうでもいいわ。破棄だ!!」
幼馴染みで婚約者であった同じ年齢の彼アドルミッディオ・フォース・アソシエラ・エンヴェリオティッツォレロノーロは何の前触れもなくそんなことを告げてきた。
「婚約破棄、ってこと?」
「ああそういうことだ」
「ええっ、そんな急に? あまりにも急すぎない? 大丈夫?」
「何だよその言い方」
「いきなり過ぎて戸惑うわ……」
アドルミッディオは「もういいだろ、じゃあなばいばい」と言ってそのまま話を終わらせた。
許せない……。
まともな説明もせずに……。
私は覚悟を決める。
彼を許さない、罰を下す、と。
◆
「あっほいしょっほいとれとれほいしょら!」
早速始めよう。
天罰を下すための舞いを。
「しぃしぃしぃしぃほらほら、しょっこれほほほほ! ほほっほっほほら! はいっとほらほら! のろのろのろいのじゅじゅじゅじゅじゅ! アドルミッディオアドルミッディオアドルミッディオあどるどるどるどるどるアドルミッディオアドルミッディオアドルミッディオアドルミッディオアドルミッディオ」
元気に歌いながら舞う。
それこそが呪術。
この町に伝わる伝説の秘術だ。
「あ! ほい! ほ! しょら! あ! ほら! ほら! しょしょ! しょ! しょ! しょ! ら! ほい! らら! しょ! しょらら! しょらしょん! しょい! しょら! あ! ほい! ほ! しょら! ほほほい! ほい! らら! しょら! ほい! あ! あ! あああ! ら! ほ! らら! ほい! らら! ほら! あ! ほい!」
誰にでもできるものではない。
けれども私の母はこれができた。
そして私もその母から教わったので舞える。
「はいしょら! はいよれ! ほほほのほ! うん!はいしょら! はいよれ! ほほほのほ! うん! あい! とら! あい! ほれ! といといとあれれ! はいしょら! ほいほい! ほいよれ! とららら! へい! う! ほ!」
時間はかかるが効果も絶大、と聞いている。
「しぃしぃしぃしぃほらほら、しょっこれほほほほ! ほほっほっほほら! はいっとほらほら! のろのろのろいのじゅじゅじゅじゅじゅ! てぃらてぃらてぃららすみすみみすみすみすてぃらみすすすすすらみてぃてぃてぃ! ほい! しぃしぃしぃしぃほっほらほ~ら~、しょっこれほほほほ! ほほっほっほ~ほら! はいっとほらほら! のろのろのろいのじゅじゅじゅじゅじゅ!」
そうして舞った翌日。
アドルミッディオは自宅で昼寝していたそうなのだが、そこに大量の熊が侵入してきて、熊たちに襲われ死亡したそうだ。
やはり、あの舞いには意味があったのだ。
効果は絶大。
その話は嘘ではなかったようだ。
◆終わり◆
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました
iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。
蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。
これで、貴方も私も自由です。
……だから、もういいですよね?
私も、自由にして……。
5年後。
私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、
親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、
今日も幸せに子育てをしています。
だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。
私のことは忘れて……。
これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。
はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?
《完結》金貨5000枚で売られた王太子妃
ぜらちん黒糖
恋愛
「愛している。必ず迎えに行くから待っていてくれ」
甘い言葉を信じて、隣国へ「人質」となった王太子妃イザベラ。
旅立ちの前の晩、二人は愛し合い、イザベラのお腹には新しい命が宿った。すぐに夫に知らせた イザベラだったが、夫から届いた返信は、信じられない内容だった。
「それは本当に私の子供なのか?」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる