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前編
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「フルエリーゼ、君との婚約を破棄させてほしいと考えている」
春風が吹き抜けるある朝のこと、顔を合わせるなりそう告げられた。
「いきなり何かしら」
「好きな人ができてしまった。婚約はなかったことにしてほしい」
私フルエリーゼと婚約者ハインツは、親同士が知り合いで、年齢が近かったということもあって少し前に婚約した。
最初のうちは良かった。
時々会って話すのは楽しかったし、家柄が似ていることもあって価値観も比較的近かったからわりと接しやすかったのだ。
けれども、いつからか、彼は心ここに在らずのような目をするようになった。
顔を合わせている時も喋っている時も、彼はいつも、遠いところにある何かに心を奪われているようで。目の前に私がいても、彼の心は私には向いていない様子で。
だから、最近、若干違和感を覚えてはいた。
ただ、詮索されるのは嫌かもしれないから、敢えて突っ込むことはしないようにしていたのだけれど。
「好きな人? どういう人なの?」
「学園の後輩なんだ」
正直その答えは意外だった。
なぜって、私たちはもう学園を卒業しているから。
在学中なら学園の後輩と言われてもそれほど驚かなかっただろう。生徒同士の恋愛、というのは、決して珍しいものではないから。ただ、卒業してからとなると、単なる生徒同士の恋愛ではない。
「卒業してから知り合ったの? 在学中?」
「在学中」
「そう……。で、その子のことが好きなのね」
「そうなんだ」
いや、在学中から知っていたのなら、なぜ今になって燃え上がり始めたのか。
ある日突然恋に変わる、というやつだろうか。
春風が吹き抜けるある朝のこと、顔を合わせるなりそう告げられた。
「いきなり何かしら」
「好きな人ができてしまった。婚約はなかったことにしてほしい」
私フルエリーゼと婚約者ハインツは、親同士が知り合いで、年齢が近かったということもあって少し前に婚約した。
最初のうちは良かった。
時々会って話すのは楽しかったし、家柄が似ていることもあって価値観も比較的近かったからわりと接しやすかったのだ。
けれども、いつからか、彼は心ここに在らずのような目をするようになった。
顔を合わせている時も喋っている時も、彼はいつも、遠いところにある何かに心を奪われているようで。目の前に私がいても、彼の心は私には向いていない様子で。
だから、最近、若干違和感を覚えてはいた。
ただ、詮索されるのは嫌かもしれないから、敢えて突っ込むことはしないようにしていたのだけれど。
「好きな人? どういう人なの?」
「学園の後輩なんだ」
正直その答えは意外だった。
なぜって、私たちはもう学園を卒業しているから。
在学中なら学園の後輩と言われてもそれほど驚かなかっただろう。生徒同士の恋愛、というのは、決して珍しいものではないから。ただ、卒業してからとなると、単なる生徒同士の恋愛ではない。
「卒業してから知り合ったの? 在学中?」
「在学中」
「そう……。で、その子のことが好きなのね」
「そうなんだ」
いや、在学中から知っていたのなら、なぜ今になって燃え上がり始めたのか。
ある日突然恋に変わる、というやつだろうか。
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