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3話「視察にて」
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あれからもう早いもので数週間が経った。
私はペスカトーレにて穏やかな日々を楽しんでいる。
ああ、やはり、私が生きるべきはこの国なのだ――改めてそう感じたほどに、生まれ育った国での生活は幸せだ。
一度失って気づいた平穏と幸福。
私はもうこれを手放したくはない。
「もう体調は大丈夫? セレス」
母はいまだに気遣ってくれているが、もう十分休んだし体調不良的要素は解消された。
「うん、大丈夫。っていうか最初からべつに体調不良だったわけじゃないし、平気」
「なら良かったわ。笑顔も少し戻ってきたわね」
「明日の視察も行けるから」
「そう……でもやはりまだ心配だわ。非はないとはいえ、もしかしたら何か言われるかもしれないし……」
母も優しさにはいつも救われている。でもそれに甘え続けるわけにはいかない。王女として、時にはやらなくてはならないこともあるのだ。安全な場所で食って寝てだけが王女の仕事ではないのである。
「ありがとう母さん心配してくれて。でも大丈夫、本当に平気だから」
さて、頑張ろう。
――そして翌日、私は視察へと出掛ける。
一日の日程はぎゅうぎゅうに詰まっている。博物館を見たり国民の集会や催し物を見たりと内容的には平和なものばかり。けれども時間はきっちりと決まっていてそれに沿って移動しなくてはならないので意外と大変で。変に汗をかいてしまう。
そんなある移動中のこと。
「税金で暮らしてるような王女はさっさと出てけ!!」
馬車から降りた瞬間だった。
急に真横から叫ばれたうえ刃物を突きつけられる。
ぎらりと光る尖端が首へと迫り――。
「おい! 何してるんだ!」
――しかし、それは直前で止まった。
いや、厳密には、居合わせた一人の男性が止めてくれていたのだ。
男性は刃物男の手首を捻り刃物を払い落とす。そしてそのまま投げ技をかける。刃物男の身体は宙を一回転、そのまま地面へと落ちた。
「っ、ぐぎゃ!」
刃物男は情けない声をこぼす。
すぐには立ち上がれない。
どうやら……訓練を受けた人間ではないようだ。
それまで固まっていた護衛たちはその時になってようやく動き出した。
刃物男を取り囲み地面に押さえ込む。
かなり遅れての対応で、正直あまり役に立っていないような気もするが。しかしいないよりかはましである。遅れてであっても捕らえようとしているだけまだ良い方なのだろう。
「あの……ありがとうございました」
間に入ってくれた金髪の男性に向けて礼を述べる。
すると彼はくるりと振り返り。
「いえ、たいしたことじゃないですので」
静かにそう言った。
面は整っていて、しかしながら、整っているがゆえの冷たさを感じさせる。が、不思議なもので怖いとは感じない。冷たそうな顔つきであっても今は彼の優しさを感じることができる気がした。
「ではこれで」
去ろうとする彼の背に。
「あ、あのっ!」
引き留める言葉を放った。
ほぼ無意識で。
けれどもなぜか彼を引き留めなくてはならないような気がしたのだ。
「……何か?」
「あ、えっと、その、ですね……助けてくださってありがとうございました。本当に……危ないところでした、助かりました」
「いえ」
「そ、それでですね、よければなのですけど……」
彼はそっけない返答しかくれない。
それでも私は踏み込んでいってしまう。
ほぼ無意識、本能的に。
「お礼をさせてはくださらないでしょうか!?」
私はペスカトーレにて穏やかな日々を楽しんでいる。
ああ、やはり、私が生きるべきはこの国なのだ――改めてそう感じたほどに、生まれ育った国での生活は幸せだ。
一度失って気づいた平穏と幸福。
私はもうこれを手放したくはない。
「もう体調は大丈夫? セレス」
母はいまだに気遣ってくれているが、もう十分休んだし体調不良的要素は解消された。
「うん、大丈夫。っていうか最初からべつに体調不良だったわけじゃないし、平気」
「なら良かったわ。笑顔も少し戻ってきたわね」
「明日の視察も行けるから」
「そう……でもやはりまだ心配だわ。非はないとはいえ、もしかしたら何か言われるかもしれないし……」
母も優しさにはいつも救われている。でもそれに甘え続けるわけにはいかない。王女として、時にはやらなくてはならないこともあるのだ。安全な場所で食って寝てだけが王女の仕事ではないのである。
「ありがとう母さん心配してくれて。でも大丈夫、本当に平気だから」
さて、頑張ろう。
――そして翌日、私は視察へと出掛ける。
一日の日程はぎゅうぎゅうに詰まっている。博物館を見たり国民の集会や催し物を見たりと内容的には平和なものばかり。けれども時間はきっちりと決まっていてそれに沿って移動しなくてはならないので意外と大変で。変に汗をかいてしまう。
そんなある移動中のこと。
「税金で暮らしてるような王女はさっさと出てけ!!」
馬車から降りた瞬間だった。
急に真横から叫ばれたうえ刃物を突きつけられる。
ぎらりと光る尖端が首へと迫り――。
「おい! 何してるんだ!」
――しかし、それは直前で止まった。
いや、厳密には、居合わせた一人の男性が止めてくれていたのだ。
男性は刃物男の手首を捻り刃物を払い落とす。そしてそのまま投げ技をかける。刃物男の身体は宙を一回転、そのまま地面へと落ちた。
「っ、ぐぎゃ!」
刃物男は情けない声をこぼす。
すぐには立ち上がれない。
どうやら……訓練を受けた人間ではないようだ。
それまで固まっていた護衛たちはその時になってようやく動き出した。
刃物男を取り囲み地面に押さえ込む。
かなり遅れての対応で、正直あまり役に立っていないような気もするが。しかしいないよりかはましである。遅れてであっても捕らえようとしているだけまだ良い方なのだろう。
「あの……ありがとうございました」
間に入ってくれた金髪の男性に向けて礼を述べる。
すると彼はくるりと振り返り。
「いえ、たいしたことじゃないですので」
静かにそう言った。
面は整っていて、しかしながら、整っているがゆえの冷たさを感じさせる。が、不思議なもので怖いとは感じない。冷たそうな顔つきであっても今は彼の優しさを感じることができる気がした。
「ではこれで」
去ろうとする彼の背に。
「あ、あのっ!」
引き留める言葉を放った。
ほぼ無意識で。
けれどもなぜか彼を引き留めなくてはならないような気がしたのだ。
「……何か?」
「あ、えっと、その、ですね……助けてくださってありがとうございました。本当に……危ないところでした、助かりました」
「いえ」
「そ、それでですね、よければなのですけど……」
彼はそっけない返答しかくれない。
それでも私は踏み込んでいってしまう。
ほぼ無意識、本能的に。
「お礼をさせてはくださらないでしょうか!?」
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