王子でもある婚約者から「父を裏で殺めようとしていたそうだな!?」などと言われ婚約破棄されました。

四季

文字の大きさ
3 / 11

3話「視察にて」

しおりを挟む
 あれからもう早いもので数週間が経った。
 私はペスカトーレにて穏やかな日々を楽しんでいる。

 ああ、やはり、私が生きるべきはこの国なのだ――改めてそう感じたほどに、生まれ育った国での生活は幸せだ。

 一度失って気づいた平穏と幸福。
 私はもうこれを手放したくはない。

「もう体調は大丈夫? セレス」

 母はいまだに気遣ってくれているが、もう十分休んだし体調不良的要素は解消された。

「うん、大丈夫。っていうか最初からべつに体調不良だったわけじゃないし、平気」
「なら良かったわ。笑顔も少し戻ってきたわね」
「明日の視察も行けるから」
「そう……でもやはりまだ心配だわ。非はないとはいえ、もしかしたら何か言われるかもしれないし……」

 母も優しさにはいつも救われている。でもそれに甘え続けるわけにはいかない。王女として、時にはやらなくてはならないこともあるのだ。安全な場所で食って寝てだけが王女の仕事ではないのである。

「ありがとう母さん心配してくれて。でも大丈夫、本当に平気だから」

 さて、頑張ろう。

 ――そして翌日、私は視察へと出掛ける。

 一日の日程はぎゅうぎゅうに詰まっている。博物館を見たり国民の集会や催し物を見たりと内容的には平和なものばかり。けれども時間はきっちりと決まっていてそれに沿って移動しなくてはならないので意外と大変で。変に汗をかいてしまう。

 そんなある移動中のこと。

「税金で暮らしてるような王女はさっさと出てけ!!」

 馬車から降りた瞬間だった。
 急に真横から叫ばれたうえ刃物を突きつけられる。

 ぎらりと光る尖端が首へと迫り――。

「おい! 何してるんだ!」

 ――しかし、それは直前で止まった。

 いや、厳密には、居合わせた一人の男性が止めてくれていたのだ。

 男性は刃物男の手首を捻り刃物を払い落とす。そしてそのまま投げ技をかける。刃物男の身体は宙を一回転、そのまま地面へと落ちた。

「っ、ぐぎゃ!」

 刃物男は情けない声をこぼす。
 すぐには立ち上がれない。

 どうやら……訓練を受けた人間ではないようだ。

 それまで固まっていた護衛たちはその時になってようやく動き出した。
 刃物男を取り囲み地面に押さえ込む。

 かなり遅れての対応で、正直あまり役に立っていないような気もするが。しかしいないよりかはましである。遅れてであっても捕らえようとしているだけまだ良い方なのだろう。

「あの……ありがとうございました」

 間に入ってくれた金髪の男性に向けて礼を述べる。

 すると彼はくるりと振り返り。

「いえ、たいしたことじゃないですので」

 静かにそう言った。

 面は整っていて、しかしながら、整っているがゆえの冷たさを感じさせる。が、不思議なもので怖いとは感じない。冷たそうな顔つきであっても今は彼の優しさを感じることができる気がした。

「ではこれで」

 去ろうとする彼の背に。

「あ、あのっ!」

 引き留める言葉を放った。

 ほぼ無意識で。
 けれどもなぜか彼を引き留めなくてはならないような気がしたのだ。

「……何か?」
「あ、えっと、その、ですね……助けてくださってありがとうございました。本当に……危ないところでした、助かりました」
「いえ」
「そ、それでですね、よければなのですけど……」

 彼はそっけない返答しかくれない。
 それでも私は踏み込んでいってしまう。

 ほぼ無意識、本能的に。

「お礼をさせてはくださらないでしょうか!?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄をしてくれてありがとうございます~あなたといると破滅しかないので助かりました (完結)

しまうま弁当
恋愛
ブリテルス公爵家に嫁いできた伯爵令嬢のローラはアルーバ別邸で幸せなひと時を過ごしていました。すると婚約者であるベルグが突然婚約破棄を伝えてきたのだった。彼はローラの知人であるイザベラを私の代わりに婚約者にするとローラに言い渡すのだった。ですがローラは彼にこう言って公爵家を去るのでした。「婚約破棄をしてくれてありがとうございます。あなたといると破滅しかないので助かりました。」と。実はローラは婚約破棄されてむしろ安心していたのだった。それはローラがベルグがすでに取り返しのつかない事をしている事をすでに知っていたからだった。

待ってました。婚約破棄

キルア犬
恋愛
侯爵令嬢マリーアナは第2王子バカラスにたった今、婚約破棄を宣言された。 しかも、場所は王宮の夜会で3歳下の異母妹の社交界デビューの日だった。

婚約破棄ですか。ゲームみたいに上手くはいきませんよ?

ゆるり
恋愛
公爵令嬢スカーレットは婚約者を紹介された時に前世を思い出した。そして、この世界が前世での乙女ゲームの世界に似ていることに気付く。シナリオなんて気にせず生きていくことを決めたが、学園にヒロイン気取りの少女が入学してきたことで、スカーレットの運命が変わっていく。全6話予定

婚約破棄が国を滅ぼす ~そして誰もいなくなった~

みやび
恋愛
政略である婚約を破棄したら国は無茶苦茶になるでしょう、常識的に考えて

王子様、あなたの不貞を私は知っております

岡暁舟
恋愛
第一王子アンソニーの婚約者、正妻として名高い公爵令嬢のクレアは、アンソニーが自分のことをそこまで本気に愛していないことを知っている。彼が夢中になっているのは、同じ公爵令嬢だが、自分よりも大部下品なソーニャだった。 「私は知っております。王子様の不貞を……」 場合によっては離縁……様々な危険をはらんでいたが、クレアはなぜか余裕で? 本編終了しました。明日以降、続編を新たに書いていきます。

その婚約破棄喜んで

空月 若葉
恋愛
 婚約者のエスコートなしに卒業パーティーにいる私は不思議がられていた。けれどなんとなく気がついている人もこの中に何人かは居るだろう。  そして、私も知っている。これから私がどうなるのか。私の婚約者がどこにいるのか。知っているのはそれだけじゃないわ。私、知っているの。この世界の秘密を、ね。 注意…主人公がちょっと怖いかも(笑) 4話で完結します。短いです。の割に詰め込んだので、かなりめちゃくちゃで読みにくいかもしれません。もし改善できるところを見つけてくださった方がいれば、教えていただけると嬉しいです。 完結後、番外編を付け足しました。 カクヨムにも掲載しています。

婚約破棄?喜んで!!

もちもち太郎
恋愛
「お前とは婚約破棄をする!公爵家令嬢ミリアンナ!」 卒業を祝う夜会で婚約者であり王太子のノエルに婚約を破棄された。 だがしかし、そんなことでへこたれるミリアンナではない。 婚約破棄?喜んで!

私と従者を追い出した意地悪な義姉は、後にとんでもない後悔をする事になり破滅しました。

coco
恋愛
自分の婚約者を家に住まわせたい為に、私と従者を追い出した義姉。 でも、それを後悔する日がやって来て…?

処理中です...