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前編

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 王子オドレッド・モーリス・アンフォトロニオには婚約者がいた。

 その婚約者というのが、かつて滅亡の危機に瀕した国を救ったと伝説に遺されている聖女の生まれ変わりである女性リオーネ。
 彼女はそこそこ良い家に生まれ両親から厳しくも大事にされて育った、清らかで品のある高貴な女性である。

 一見お似合いカップルのような二人、しかし、オドレッドはリオーネを愛せなかった。

 というのも、彼にはリオーネよりも好きな女性がいたのだ。

 元踊り子の女性ヴィヴィ。
 色っぽい肢体の持ち主である彼女にオドレッドは惚れ込んでいた。

 そんなオドレッドは、ある春の日、リオーネにヴィヴィとの関係を知られてしまう。

「オドレッド様、あまりにも酷いですよ」
「何だよ急に! 婚約してやってんだからそれでいいだろ!? 文句言うな!」
「文句? これは正当な主張です。婚約者がいる身で他の女性と夜を過ごすなど、常識から大きく外れた行動ではないですか」

 リオーネは凛としてオドレッドの行動を批判してくる。

 それに耐えきれなくなったオドレッドは――。

「うるさい! そんなことを言うのならもういい、婚約は破棄だ!」

 ――感情的になり、そんなことを言い放ってしまう。

「聖女の生まれ変わりだからって調子に乗ってんじゃねぇよ! お前みたいな色気もくそもない女なんかなぁ、こっちだって本当は要らねえんだよ!」

 オドレッドは感情を大きく乱してしまっていた。
 それゆえ深く考えもせずに酷い言葉ばかりを並べてしまう。

「婚約破棄、本気で仰っているのですか?」
「当たり前だろ! リオーネ、お前は価値なし女だ! さっさとここから去ってくれ、もう顔も見たくねぇ!」

 するとリオーネは少しばかり寂しそうな顔をしたが。

「そうですか、分かりました。では……私はこれで、失礼します」

 彼女は最後まで凛とした表情で対応していた。
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