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前編
しおりを挟む「今夜、久々にあの塔へのぼらないか?」
北の国の王アウブフントがそんなことを提案してきたのはある冬の静かな日だった。
今から十年前、私は、もっと南の方の国の王子と婚約していた。彼と結ばれるのだと当たり前のように思っていた。けれどもその道はどこかで途切れて。心変わりした王子から婚約破棄を告げられ、それによって私は彼と生きるという未来を失った。
だが、ちょうどその頃「北の国の王が結婚相手を探しているらしい」という情報が耳に入って、私は彼のところへ行ってみることにした。
アウブフントに関しては昔から恐ろしい噂がたくさん流れていた。女性を食べてしまう、とか、姿を目にしたら呪われる、とか。だから会うまでは心のどこかで彼を恐れている部分もあった。が、会ってみて、その恐怖心は一気に払われた。
彼は魔物とのハーフだという。
でもその姿は人に近いもの。
見た目も中身も、決して化け物などではなかった。
「今日は夜空が綺麗な日?」
「ああ、そうだ」
「いいわね。じゃあ見に行きましょう」
「良かった、感謝する。ちなみに、あの日と同じ……星が一年で一番よく見える日だ」
そうして私たちは結婚した。
それからもう長い時が過ぎた、けれどもアウブフントは今も私を大事にしてくれている。
彼には感謝している。
いつも大事にしてくれて思いやりを持って接してくれてありがとう、そんな風に。
「じゃあサンドイッチでも持っていく?」
「夕食か」
「ええ、たまには味わいながら夜空を眺めるのも良いものじゃない?」
「それは……そういう発想がなかった、斬新だ」
「嫌ならそう言ってちょうだいね」
「いや、嫌ではない。むしろ、今興味を持っている」
「じゃあそうしましょ!」
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