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三十三話「カザフさん、一緒に住めば」
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リズが帰っていってから、ナナはカザフに向かって言葉を放つ。
「さっきは配慮して下さってありがとうございました」
「え?」
「ナナに気を遣って、リズさんへの接し方を変えて下さったんですよね。ありがとうございます」
カザフの配慮はナナにしっかりと届いていた——カザフ自身、それを感じることができて、嬉しい気持ちになった。
彼はまだ、恋愛なんてよく分かっていない状態。
けれどもナナに嫌な思いをさせたくないとは思って、彼なりに頑張っている。
その努力はナナに伝わっているし、それを感じることができたカザフは幸せ。つまり、ナナもカザフも幸せな気持ちになっているということ。それはとても素晴らしいことだ。
「ううん。お礼を言われるようなことは何もしてないよ。ただ、ナナちゃんが嫌な思いをしていたら僕も嫌だから」
そう返すカザフは穏やかな笑みを湛えている。
対するナナもご機嫌だ。
店内に漂っているのは、幸せな空気。
どんな不幸の真っただ中にいる人でも穏やかな顔になりそうなくらいの、幸福さに満ちている。
そんな中、ナナが先に口を開く。
「あ、そうでした。ナナ、そういえば、カザフさんに言いたいことがあったんです」
言いたいことがあった、と言われ、カザフは少し固い表情になる。何か不満を言われると想像したのだろう。
彼の表情の変化に気づいたナナは「責めたりしませんよ」と言って、カザフの心を柔らかくするような笑みを浮かべる。そして、本題に入っていく。
「もし良ければ、一緒に暮らしませんか?」
ナナははっきり言った。
小さすぎず大きすぎず、聞き取りやすい大きさの声。また、言葉一つ一つもしっかりと発声されているから、聞き逃すことがない。
ただ、しっかり聞こえたからこそ、カザフは戸惑った。
彼は片手で頭を掻きながら返す。
「それって……どういう意味?」
するとナナは丁寧に説明を始める。
「カザフさんは宿暮らしですよね? それだと宿泊費が結構かかるじゃないですか。でも、この家で暮らすようにすれば、宿泊費は減らせますよね。取り敢えず、この村にいる期間だけでも、費用は必要なくなります」
少し間を空けて。
「ナナ、ずっと考えていたんです。アクセサリー作り以外でカザフさんの役に立てることは何かないかなって。それで思いついたのが、家を提供することでした」
カザフはナナの説明を聞いて「なるほど」と思う。また、それと同時に、自分のために色々考えてくれていたんだと知ることができ、嬉しくなった。
「そっか。僕のことも考えてくれていたんだね」
「はい。だって……そういう関係ですから」
「ありがとう。嬉しいよ」
「ナナ、実はご飯作ったりもできるんですよ……?」
さりげなく家庭的さをアピールするナナ。
「料理、洗濯、なんでもできます。だってナナ、器用ですから。どうですか? カザフさん、ここに住みませんか?」
カザフは込み上げてくるものを堪えるのに精一杯だ。
ナナがこんなに自分のことを想ってくれていたのだと知った時、彼は、目の奥から何かが溢れ出してくるのを感じた。それが何かはよく分からなかったが、自由に溢れさせてはいけないと感じ、堪えようとして。けれども、どんどん溢れてきてしまって、もうまもなく堪えられなくなってしまいそうだ。
「うぅっ……」
ついに、限界が来た。
「う、うぅっ……」
「え!? か、カザフさんっ!?」
いきなり泣き出すカザフを見て、ナナは愕然とする。彼女は、恐怖すらはらんでいるような表情で、カザフを凝視している。
「ちょ、ちょっと、どうしたんですか!?」
「ご、ごめん……我慢しようと、したけど……」
「え? え?」
「無理だった……」
号泣し始めた巨体にどう接して良いか分からず、ナナは狼狽える。
「あの、あの、ちょっと待ってて下さい! 今タオル持ってきますから! 涙拭く用!」
ナナは慌てて店の奥へと駆けてゆく。途中、ローテーブルで脛を打ち、「イタタ」とこぼしていた。が、すぐに白いタオルを持ってカザフのところへ戻ってくる。
「はい! これ使って下さい!」
「いきなりごめんね、ナナちゃん……」
「いえ……」
タオルを受け取ったカザフは、柔らかいそれで顔全体を拭く。
それから、改めて言葉を発する。
「ナナちゃんが色々考えてくれていたって気づいたら、嬉しくて、涙が出たんだ」
何がどうなったのか分からず戸惑いの海に沈みかかっていたナナは、カザフから事情の簡単な説明を受けて、やっと戸惑いの海から抜け出すことができたようだ。
「嬉し泣きだったんですね……」
「うん」
「それなら良かったです。ナナ、まずいことを言ったかと」
「違うんだ。本当に」
緊迫した空気は徐々に消えていった。
「でも、本当に住ませてもらって良いの?」
「それはもちろんです」
「じゃあ……よろしくお願いしようかな」
「さっきは配慮して下さってありがとうございました」
「え?」
「ナナに気を遣って、リズさんへの接し方を変えて下さったんですよね。ありがとうございます」
カザフの配慮はナナにしっかりと届いていた——カザフ自身、それを感じることができて、嬉しい気持ちになった。
彼はまだ、恋愛なんてよく分かっていない状態。
けれどもナナに嫌な思いをさせたくないとは思って、彼なりに頑張っている。
その努力はナナに伝わっているし、それを感じることができたカザフは幸せ。つまり、ナナもカザフも幸せな気持ちになっているということ。それはとても素晴らしいことだ。
「ううん。お礼を言われるようなことは何もしてないよ。ただ、ナナちゃんが嫌な思いをしていたら僕も嫌だから」
そう返すカザフは穏やかな笑みを湛えている。
対するナナもご機嫌だ。
店内に漂っているのは、幸せな空気。
どんな不幸の真っただ中にいる人でも穏やかな顔になりそうなくらいの、幸福さに満ちている。
そんな中、ナナが先に口を開く。
「あ、そうでした。ナナ、そういえば、カザフさんに言いたいことがあったんです」
言いたいことがあった、と言われ、カザフは少し固い表情になる。何か不満を言われると想像したのだろう。
彼の表情の変化に気づいたナナは「責めたりしませんよ」と言って、カザフの心を柔らかくするような笑みを浮かべる。そして、本題に入っていく。
「もし良ければ、一緒に暮らしませんか?」
ナナははっきり言った。
小さすぎず大きすぎず、聞き取りやすい大きさの声。また、言葉一つ一つもしっかりと発声されているから、聞き逃すことがない。
ただ、しっかり聞こえたからこそ、カザフは戸惑った。
彼は片手で頭を掻きながら返す。
「それって……どういう意味?」
するとナナは丁寧に説明を始める。
「カザフさんは宿暮らしですよね? それだと宿泊費が結構かかるじゃないですか。でも、この家で暮らすようにすれば、宿泊費は減らせますよね。取り敢えず、この村にいる期間だけでも、費用は必要なくなります」
少し間を空けて。
「ナナ、ずっと考えていたんです。アクセサリー作り以外でカザフさんの役に立てることは何かないかなって。それで思いついたのが、家を提供することでした」
カザフはナナの説明を聞いて「なるほど」と思う。また、それと同時に、自分のために色々考えてくれていたんだと知ることができ、嬉しくなった。
「そっか。僕のことも考えてくれていたんだね」
「はい。だって……そういう関係ですから」
「ありがとう。嬉しいよ」
「ナナ、実はご飯作ったりもできるんですよ……?」
さりげなく家庭的さをアピールするナナ。
「料理、洗濯、なんでもできます。だってナナ、器用ですから。どうですか? カザフさん、ここに住みませんか?」
カザフは込み上げてくるものを堪えるのに精一杯だ。
ナナがこんなに自分のことを想ってくれていたのだと知った時、彼は、目の奥から何かが溢れ出してくるのを感じた。それが何かはよく分からなかったが、自由に溢れさせてはいけないと感じ、堪えようとして。けれども、どんどん溢れてきてしまって、もうまもなく堪えられなくなってしまいそうだ。
「うぅっ……」
ついに、限界が来た。
「う、うぅっ……」
「え!? か、カザフさんっ!?」
いきなり泣き出すカザフを見て、ナナは愕然とする。彼女は、恐怖すらはらんでいるような表情で、カザフを凝視している。
「ちょ、ちょっと、どうしたんですか!?」
「ご、ごめん……我慢しようと、したけど……」
「え? え?」
「無理だった……」
号泣し始めた巨体にどう接して良いか分からず、ナナは狼狽える。
「あの、あの、ちょっと待ってて下さい! 今タオル持ってきますから! 涙拭く用!」
ナナは慌てて店の奥へと駆けてゆく。途中、ローテーブルで脛を打ち、「イタタ」とこぼしていた。が、すぐに白いタオルを持ってカザフのところへ戻ってくる。
「はい! これ使って下さい!」
「いきなりごめんね、ナナちゃん……」
「いえ……」
タオルを受け取ったカザフは、柔らかいそれで顔全体を拭く。
それから、改めて言葉を発する。
「ナナちゃんが色々考えてくれていたって気づいたら、嬉しくて、涙が出たんだ」
何がどうなったのか分からず戸惑いの海に沈みかかっていたナナは、カザフから事情の簡単な説明を受けて、やっと戸惑いの海から抜け出すことができたようだ。
「嬉し泣きだったんですね……」
「うん」
「それなら良かったです。ナナ、まずいことを言ったかと」
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