最強剣士カザフさん、のんびり冒険者生活

四季

文字の大きさ
33 / 50

三十三話「カザフさん、一緒に住めば」

しおりを挟む
 リズが帰っていってから、ナナはカザフに向かって言葉を放つ。

「さっきは配慮して下さってありがとうございました」
「え?」
「ナナに気を遣って、リズさんへの接し方を変えて下さったんですよね。ありがとうございます」

 カザフの配慮はナナにしっかりと届いていた——カザフ自身、それを感じることができて、嬉しい気持ちになった。

 彼はまだ、恋愛なんてよく分かっていない状態。
 けれどもナナに嫌な思いをさせたくないとは思って、彼なりに頑張っている。
 その努力はナナに伝わっているし、それを感じることができたカザフは幸せ。つまり、ナナもカザフも幸せな気持ちになっているということ。それはとても素晴らしいことだ。

「ううん。お礼を言われるようなことは何もしてないよ。ただ、ナナちゃんが嫌な思いをしていたら僕も嫌だから」

 そう返すカザフは穏やかな笑みを湛えている。
 対するナナもご機嫌だ。

 店内に漂っているのは、幸せな空気。
 どんな不幸の真っただ中にいる人でも穏やかな顔になりそうなくらいの、幸福さに満ちている。

 そんな中、ナナが先に口を開く。

「あ、そうでした。ナナ、そういえば、カザフさんに言いたいことがあったんです」

 言いたいことがあった、と言われ、カザフは少し固い表情になる。何か不満を言われると想像したのだろう。
 彼の表情の変化に気づいたナナは「責めたりしませんよ」と言って、カザフの心を柔らかくするような笑みを浮かべる。そして、本題に入っていく。

「もし良ければ、一緒に暮らしませんか?」

 ナナははっきり言った。
 小さすぎず大きすぎず、聞き取りやすい大きさの声。また、言葉一つ一つもしっかりと発声されているから、聞き逃すことがない。
 ただ、しっかり聞こえたからこそ、カザフは戸惑った。
 彼は片手で頭を掻きながら返す。

「それって……どういう意味?」

 するとナナは丁寧に説明を始める。

「カザフさんは宿暮らしですよね? それだと宿泊費が結構かかるじゃないですか。でも、この家で暮らすようにすれば、宿泊費は減らせますよね。取り敢えず、この村にいる期間だけでも、費用は必要なくなります」

 少し間を空けて。

「ナナ、ずっと考えていたんです。アクセサリー作り以外でカザフさんの役に立てることは何かないかなって。それで思いついたのが、家を提供することでした」

 カザフはナナの説明を聞いて「なるほど」と思う。また、それと同時に、自分のために色々考えてくれていたんだと知ることができ、嬉しくなった。

「そっか。僕のことも考えてくれていたんだね」
「はい。だって……そういう関係ですから」
「ありがとう。嬉しいよ」
「ナナ、実はご飯作ったりもできるんですよ……?」

 さりげなく家庭的さをアピールするナナ。

「料理、洗濯、なんでもできます。だってナナ、器用ですから。どうですか? カザフさん、ここに住みませんか?」

 カザフは込み上げてくるものを堪えるのに精一杯だ。

 ナナがこんなに自分のことを想ってくれていたのだと知った時、彼は、目の奥から何かが溢れ出してくるのを感じた。それが何かはよく分からなかったが、自由に溢れさせてはいけないと感じ、堪えようとして。けれども、どんどん溢れてきてしまって、もうまもなく堪えられなくなってしまいそうだ。

「うぅっ……」

 ついに、限界が来た。

「う、うぅっ……」
「え!? か、カザフさんっ!?」

 いきなり泣き出すカザフを見て、ナナは愕然とする。彼女は、恐怖すらはらんでいるような表情で、カザフを凝視している。

「ちょ、ちょっと、どうしたんですか!?」
「ご、ごめん……我慢しようと、したけど……」
「え? え?」
「無理だった……」

 号泣し始めた巨体にどう接して良いか分からず、ナナは狼狽える。

「あの、あの、ちょっと待ってて下さい! 今タオル持ってきますから! 涙拭く用!」

 ナナは慌てて店の奥へと駆けてゆく。途中、ローテーブルで脛を打ち、「イタタ」とこぼしていた。が、すぐに白いタオルを持ってカザフのところへ戻ってくる。

「はい! これ使って下さい!」
「いきなりごめんね、ナナちゃん……」
「いえ……」

 タオルを受け取ったカザフは、柔らかいそれで顔全体を拭く。
 それから、改めて言葉を発する。

「ナナちゃんが色々考えてくれていたって気づいたら、嬉しくて、涙が出たんだ」

 何がどうなったのか分からず戸惑いの海に沈みかかっていたナナは、カザフから事情の簡単な説明を受けて、やっと戸惑いの海から抜け出すことができたようだ。

「嬉し泣きだったんですね……」
「うん」
「それなら良かったです。ナナ、まずいことを言ったかと」
「違うんだ。本当に」

 緊迫した空気は徐々に消えていった。

「でも、本当に住ませてもらって良いの?」
「それはもちろんです」
「じゃあ……よろしくお願いしようかな」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

祈りの果てに ― 無限の箱庭で笑う者 ―

酒の飲めない飲んだくれ
ファンタジー
俺は一度、終わりを迎えた。 でも――もう一度だけ、生きてみようと思った。 女神に導かれ、空の海を旅する青年。 特別な船と、「影」の船員たちと共に、無限の空を渡る。 絶望の果てに与えられた“過剰な恩恵”。 それは、ひとりの女神の「願い」から生まれたものだった。 彼の旅路はやがて、女神の望みそのものを問い直す。 ――絶望の果て、その先から始まる、再生のハイファンタジー戦記。 その歩みが世界を、そして自分自身を変えていく。 これは、ただの俺の旅の物語。 『祈りの果てに ― 無限の箱庭で笑う者 ―』

エレンディア王国記

火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、 「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。 導かれるように辿り着いたのは、 魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。 王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り―― だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。 「なんとかなるさ。生きてればな」 手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。 教師として、王子として、そして何者かとして。 これは、“教える者”が世界を変えていく物語。

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

処理中です...