アイネと黄金の龍

四季

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3話 「お花の贈り物」

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 翌朝。
「おはよう、アイネさん。調子はどうだい?」
 医者が病院へ入ってきた。この人は嫌いではないが、伯母と話していた以上、信用しきってはならない。
「大丈夫です」
 私は本を読み続けながら淡々と答える。
「アイネさん、昨日は悪かったね。配慮不足だったと思っているよ」
 医者は申し訳なさそうな顔をする。
「いえ。もう気にしてません」
 素っ気なく返すと、彼は驚くことを言った。
「お詫びといってはなんだが、何かしてほしいことはないかな?もしあったら言ってほしい」
 それを聞いた時、私はすぐに閃いた。
「じゃあ、毎日一人で外へ行かせて下さい」
「何だって?」
 驚き顔になる。私はあまり意見を言ってこなかったので、珍しく思ったのだろう。
「毎日、一人で病室の外に行きたいんです。少しの時間でも構いません。お願いします」
 それが叶えばまた湖へ行くことが出来る。あの青年に会えるかもしれない。
 医者は考え込んでいたが、しばらくすると口を開いた。
「分かった。昼間に一時間だけなら外出を認めよう」
「ありがとうございます!」
 一時間とは予想より短かったが、ここからそんなに離れていない湖へ行くには十分だ。これで毎日行ける。これはかなり大きな進展である。
 私はついに病室の外へ出られるのだ!

 靴を履くのはいつ以来だろうか。この病院から出るのも、いつ以来かもう思い出せない。だけどそんなことはもう気にはならない。私は病院というこの牢屋から出られるのだから。
 ……しかし抱いた希望は数日で砕かれた。外出許可を得た日から毎日湖へ言ったが、青年に会うことは出来なかった。あれはやはり幻だったのかもしれない。私は不安にさいなまれた。 けれど、まだ諦めはしない。なぜなら、雨の日は来ていないのだから。

「今日は凄い大雨だなぁ」
 数日後、ついに雨が降った。
「あ、これ飾り用のお花だよ」
 医者が病室の花瓶に飾る花を持ってきてくれた。赤紫色をしている。小さい花が集まっているのだろう。まるで泡のようで愛らしい。
「何というお花ですか?」
「アスチルベっていうお花らしいよ。花屋さんがくれたんだ。なんでも花言葉は【恋の訪れ】とか【自由】とからしいよ」
「詳しいですね」
「なに、花屋さんが教えてくれたんだ。聞いた通りのことを話しただけだよ」
 この時、私は既に今日の予定を決めていた。
 こっそりこの花を持って湖へ行く。そして、もし彼に出会えたならプレゼントしよう。彼は退屈だと言っていた。少しでも暇潰しになるかもしれない。

 昼食を終えた午後。アスチルベを花瓶から抜き出してたまたま部屋にあった新聞紙で包み、それと傘を持って、湖へ向かった。
 湖畔の大岩の上に人影が見える。初めて出会った夜と同じ体勢だ。彼はやはりいた!幻ではなかった!私は嬉しくなり彼の背に駆け寄る。
「また会えたわね!」
 明るく声をかけると、今日はすぐに振り返った。相変わらず傘はさしていない。
「また来たんだね。誰かと喧嘩したのかい」
 青年は片側の口角を微かに上げて尋ねてくる。
「いいえ。今日は貴方に会いにきたの」
「僕に?」
「プレゼント持ってきたの」
 新聞紙の包みを差し出す。
「いらないよ」
「とにかく開けてみて。綺麗なのが入っているから!」
 青年は渋い顔をしつつ、仕方なく包みを手にとる。華やかな金色の衣装に灰色の新聞紙は似合わないが、赤紫色のアスチルベなら、それなりには似合うだろう。
「開けてみて」
 そう促すと彼はしぶしぶ新聞紙を開いた。
「……花?」
 困惑したような顔でこちらを見てくる。
「僕にこれを与えて何がしたいんだい」
「退屈だって言ってたでしょ。だから持ってきたの。アスチルベって花なんですって」
 彼は手元の花と私の顔を交互に見る。
「ふぅん、僕に贈り物か。面白いね。永遠の退屈をこれでまぎらわすなんて出来るわけないのに」
「そうね。でも少しの間は退屈じゃないでしょ?」
 青年は呆れたように笑う。
「何それ、変なの。君ってお節介だね」
 青緑の瞳から放たれる視線が私の目を捉え離さない。ぼんやりしていると吸い込まれそうな瞳だ。
「けどちょっと面白いかな。君みたいな人は初めてだよ」
 私は緊張しつつも、嬉しくて温かな気持ちになる。こんな気持ちは初めてだ。
「気に入ってくれたなら良かった。貴方が退屈しないように、これからは毎日面白いものを持ってくるわ」
 彼はまた渋い顔をして首を横に振る。
「いや、いいよ。騒がしいのって苦手なんだ」
「じゃあたまにでいいわ。気が向いたら来て。これから毎日この時間に待ってるわね」
「ふぅん。まぁ好きにしたら」
 しばらく沈黙があり、不意に彼が口を開く。
「君さ、この前、僕に名前聞いたよね」
 そういえばそうだった。別れしなに聞いたのだが、答えはなく消えてしまったのだった。
「本名じゃないけど、僕の名前一応言っとくよ。ソラ」
「えっ?」
 急に言われたので一瞬理解出来なかった。
「もう一回言わせるの?まぁいいや。ソラだよ」
「ソラ?それが名前なの?」
「うん」
 青年、ソラは頷いた。
「ソラ……いい名前ね。じゃあ私も……」
「アイネでしょ」
 彼は私を遮った。
「どうして知ってるの?」
「さぁね。だけど、僕は何でも知ってるんだ」
「貴方、おかしな人ね」
 理由は分からないがおかしくて、つい笑ってしまう。
「うん、それも知ってる」
 私は彼といることがただ楽しくて、とても幸せだった。
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