夜の二人

夜の二人

　ある夜、フェンリルシアはミーシャのベッドへと忍び込むことにした。

　悪質な意図があったわけではない。ただ少しイタズラをしたい気持ちになっただけーー否、近くにいたくなっただけである。

　ミーシャが完全に眠りについていることを確認してから、フェンリルシアは寝ている彼のすぐ横へともぞもぞと入り込んでいく。

　起こさないように、慎重に……。

　刹那、ミーシャは信じられないような勢いで起き上がり、フェンリルシアの片腕を掴む。

「っ……！」

　まさかの反応。
　フェンリルシアはすぐに言葉を出すことができない。

「……フェンリルシア？」

　ミーシャは意外にも驚いたような顔をした。
　侵入者には気づいたものの、その侵入者が誰であるかまでは分かっていなかったようだ。

「どうして君がここに？」
「べっ、べつにっ！　へ、へ、変な意味じゃないからっ！」
「慌てると余計に怪しいよ」
「それはそうかもだけど！　でも！　本当に変な意味じゃないからっ！」

　想定外の展開を受け、フェンリルシアは完全に冷静さを失ってしまっていた。すぐに落ち着きを取り戻すことはできない。何を言おうとしても言葉が滑る。

「そう？　まぁ刺客でないならいいよ。フェンリルシアもここで寝ていく？」
「えっ……」
「隣で寝ていいよ」

　室内に乾いた音が響く。
　フェンリルシアは照れるあまりミーシャの頬をビンタしていた。

「へ、変態っ！」

　叫ぶフェンリルシア。
　しかしミーシャは慣れている。驚きもせず、ただのんびりとした笑みを浮かべるだけ。

「よく言われる～」
「前々から変態と思っていたけど、やっぱり変態！」

　だが、なんだかんだで、フェンリルシアはミーシャと一緒に寝た。


◆終わり◆