3 / 4
3話
しおりを挟む
険しい顔つきのカツドンは初めて見た。
妙な緊迫感が室内を満たす。
「本当です。嘘ではありません。私は確かにそう告げられました」
十代後半と思われる使用人の服の少女は、カツドンの服を可愛らしい雰囲気で掴みながら、困ったような顔をしている。じっとこちらを見つめているが、時折細かく瞼を動かす。
「じゃあ何かして見せてよ」
「えっ……」
「国守りの娘、なんでしょ? 特別なんでしょ? だったら何か凄いことをやって見せてよ」
何を馬鹿げたことを言い出すのか。この力を使って何かしろなんて、無理に決まっているではないか。私のこれは魔法とか手品ではない。この世に対して自然と作用するのが私の能力だ。こんなことを言い出すということは、彼はそもそものところを理解できていないのではないか。
「魔法使いではないので、それは無理です」
私ははっきり答えた。
恥じることでもないから。
「ふーん、じゃ、やっぱり嘘つきだね。婚約は破棄させてもらうよ」
「分かりました」
「あ、安心して。僕って優しいからさ、慰謝料とかは取らないから」
「……ありがとうございます」
婚約破棄の手続きが終わると、私はほんの少しのお金を渡されて生まれ育った国へ帰った。
妙な緊迫感が室内を満たす。
「本当です。嘘ではありません。私は確かにそう告げられました」
十代後半と思われる使用人の服の少女は、カツドンの服を可愛らしい雰囲気で掴みながら、困ったような顔をしている。じっとこちらを見つめているが、時折細かく瞼を動かす。
「じゃあ何かして見せてよ」
「えっ……」
「国守りの娘、なんでしょ? 特別なんでしょ? だったら何か凄いことをやって見せてよ」
何を馬鹿げたことを言い出すのか。この力を使って何かしろなんて、無理に決まっているではないか。私のこれは魔法とか手品ではない。この世に対して自然と作用するのが私の能力だ。こんなことを言い出すということは、彼はそもそものところを理解できていないのではないか。
「魔法使いではないので、それは無理です」
私ははっきり答えた。
恥じることでもないから。
「ふーん、じゃ、やっぱり嘘つきだね。婚約は破棄させてもらうよ」
「分かりました」
「あ、安心して。僕って優しいからさ、慰謝料とかは取らないから」
「……ありがとうございます」
婚約破棄の手続きが終わると、私はほんの少しのお金を渡されて生まれ育った国へ帰った。
25
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢に相応しいエンディング
無色
恋愛
月の光のように美しく気高い、公爵令嬢ルナティア=ミューラー。
ある日彼女は卒業パーティーで、王子アイベックに国外追放を告げられる。
さらには平民上がりの令嬢ナージャと婚約を宣言した。
ナージャはルナティアの悪い評判をアイベックに吹聴し、彼女を貶めたのだ。
だが彼らは愚かにも知らなかった。
ルナティアには、ミューラー家には、貴族の令嬢たちしか知らない裏の顔があるということを。
そして、待ち受けるエンディングを。
愚か者の話をしよう
鈴宮(すずみや)
恋愛
シェイマスは、婚約者であるエーファを心から愛している。けれど、控えめな性格のエーファは、聖女ミランダがシェイマスにちょっかいを掛けても、穏やかに微笑むばかり。
そんな彼女の反応に物足りなさを感じつつも、シェイマスはエーファとの幸せな未来を夢見ていた。
けれどある日、シェイマスは父親である国王から「エーファとの婚約は破棄する」と告げられて――――?
記憶を無くした、悪役令嬢マリーの奇跡の愛
三色団子
恋愛
豪奢な天蓋付きベッドの中だった。薬品の匂いと、微かに薔薇の香りが混ざり合う、慣れない空間。
「……ここは?」
か細く漏れた声は、まるで他人のもののようだった。喉が渇いてたまらない。
顔を上げようとすると、ずきりとした痛みが後頭部を襲い、思わず呻く。その拍子に、自分の指先に視線が落ちた。驚くほどきめ細やかで、手入れの行き届いた指。まるで象牙細工のように完璧だが、酷く見覚えがない。
私は一体、誰なのだろう?
それは本当に真実の愛なのかしら?
月樹《つき》
恋愛
公爵家の一人娘マルガリータと王太子エドワードは運命の出会いで結ばれた二人だった。
様々な人々の反対を押し切って、やっと婚約者になれた二人。
この愛こそが【真実の愛】だと信じて疑わなかった。
でも少しずつ自分から離れていくエドワード様…。
婚約してから10年の月日が経ち、もうすぐ結婚というのに、いつの間にか
2人の間には距離が出来ていて…
この作品は他サイトにも投稿しております。
帰還した聖女と王子の婚約破棄騒動
しがついつか
恋愛
聖女は激怒した。
国中の瘴気を中和する偉業を成し遂げた聖女を労うパーティで、王子が婚約破棄をしたからだ。
「あなた、婚約者がいたの?」
「あ、あぁ。だが、婚約は破棄するし…」
「最っ低!」
疑い深い伯爵令嬢 アマリアの婚約破棄から始まる騒動とその行方
有栖多于佳
恋愛
疑い深い伯爵令嬢ジェマイマの兄マルコスとその妻アマリアの馴れ初めから結婚まで、そしてジェマイマが疑い深くなっていった様子を書いた前日譚と後日談です。
アマリアが貴族学院で婚約破棄を言い渡されてから、25歳になるまでの間に起こった、アマリアとその周辺のお話。
25歳の時にはどんなことになっているのでしょうか。
疑い深い伯爵令嬢と併せてお読みいただければ幸いです。
悪夢がやっと覚めた
下菊みこと
恋愛
毎晩見る悪夢に、精神を本気で病んでしまって逃げることを選んだお嬢様のお話。
最後はハッピーエンド、ご都合主義のSS。
主人公がいわゆるドアマット系ヒロイン。とても可哀想。
主人公の周りは婚約者以外総じてゴミクズ。
小説家になろう様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる