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20.分かり合うための簡単な方法
午後の会議が終わり一旦自室へ戻るべく歩いていたオイラーの視界に、一人の女性が入った。
夕暮れの空のようなポニーテール。
前髪の一部と顔の両サイドに垂れた部分だけが落ち着いた金色になっている。
「君は……」
基本的には女性と接することが苦手なオイラーではあるが、だからといって女性が見えない眼球なわけではない。
「ジルゼッタです」
「……本日もご苦労」
「今日は貴方に用がありここで待っていました」
女性ながら鋭い目つきのジルゼッタからそんなことを言われ、オイラーは少しばかり戸惑う。
「私に?」
形としては夫婦となっている二人だが、だからといって親しくしているわけではない。だからこそオイラーは唐突な展開に驚いていた。彼女の口からそのような言葉が出てくるとは欠片ほども想像していなかったのだろう。
「戦いましょう」
ジルゼッタは単刀直入に発した。
「な……」
「我々が分かり合うにはそれが最も効率的な方法かと」
それを聞き、オイラーは納得したような顔をした。
「……なるほど、そういうことか」
「ええ、そういうことです」
二人の視線が重なる。
こうして互いを見つめるのはこれが初めてだろう。
「アンを救ってもらった恩がある。……なのでこれは非常に断りづらい」
「お嫌で?」
「いや、そうじゃない」
「では」
「……ああ、私でよければ相手しよう」
女性と関わることを好まないオイラーではあるが、ここで断るのは難しいと考えた。だからジルゼッタからの申し込みを受け入れたのだ。相手が誰であれ、オイラーが女性と関わる道を選ぶのは異例のこと。
「懐かしいな、こういうのは」
王城の敷地内に位置する公園。
そこは遊具もろくにないような場所だ。
だからそれもそのはず、そこは一般的な公園とは異なる場所なのである。
公園とは名ばかりで、子どもが遊んだり一般市民が寛いだりそういった場所ではない。
「お嫌いではないでしょう?」
「……女性が相手というのは初めてのことだ」
オイラーは剣を。
ジルゼッタは薙刀を太くしたような武器を。
それぞれ手にしている。
「貴方とは一度戦ってみたいと思っていたのです」
「私は手加減が苦手だ、一応気をつけつつ動くようにはするが……」
戦闘開始直前の緊迫感。
穏やかな公園にそれが広がってゆく。
「遠慮は不要です」
「そうか」
先に動き出したのはジルゼッタ。一歩大きく踏み込んで前へ。その手に握られた武器、刃がオイラーに襲いかかる。ほんの一瞬のことであった。
オイラーは使い慣れた剣で刃を防ぐ。
「さすがですね」
「そちらこそ」
正直に言えば、オイラーには迷いがあった。
加減の仕方がまったくもって分からなかったのである。
国王として、否、それ以前に一人の男として、本来自身より腕力が弱いとされる女性を相手にすることには言葉にならない難しさがあった。
アンダーともこういう対戦はしたことがある。だが小柄とはいえアンダーは男性。体格差の優位はあれど性差はない。そういう意味ではここまで悩むことはなかった。そもそもアンダーがオイラーより器用なうえ強かった、というのもあるが。
二つの刃が火花を散らす。
交差する武器と武器。
形は違えど時に容赦なく人の命を奪うものであることに違いはない。
ジルゼッタは迷うことなくその二つの眼でオイラーを捉え攻め立てる。その瞳の鋭いこと。もはや女性のそれではなく、完全に戦士のそれであった。兵として生きてきた過去を彼女は最大限活かし戦っている。
そんな彼女が相手なものだから、オイラーは攻められる一方。
身体的には優位なはずなのに。
速度のある攻めに圧倒される。
「本当に、貴方は紳士でいらっしゃいますね。しかし戦いにおいては気遣いなど不要です」
「いや、ちが……」
「もしここが戦場でも、対峙した兵士が女であれば貴方はこのように手加減なさるのですか?」
冷たく問われ、オイラーはどう返すべきか判断できなかった。
「……不快にさせてしまったなら謝罪する」
怒っているのか?
単なる質問なのか?
それすらもよく分からない。
オイラーにとって女性の心というのは未知の領域であった。
「ただ質問しただけです」
「ではその問いに答えるべき、なのだな」
だが、真っ直ぐに向き合うことの重要性だけは理解している。
オイラーは剣の柄を握る手に力を込めた。
そして、数秒の間もなく、剣を全力で振った。
かなり押し込まれている状態ではあったが、そのひと振りで一気に押し返すことに成功する――躊躇いのない状態であればたとえ相手がジルゼッタであろうともすぐに負けることはない。
ジルゼッタは咄嗟に回避して大きく後退。
「私は敵には容赦しない」
オイラーは静かな表情で述べる。
「だが君は敵ではないだろう」
暫し、沈黙。
「そういうことなら、安心しました」
静寂を破ったのはジルゼッタ。
「貴方の勝ちです」
「なっ……」
驚き戸惑うオイラーを見て、ジルゼッタは静かに笑う。
「お付き合いありがとうございました」
二人の戦いは終わった。
「ジルゼッタさん……といったか」
「ええそうです」
「君は強かった」
「光栄です」
風は穏やかに吹き抜けてゆく。
「よければまた、手合わせ願います」
「もちろん。私でよければ、時間さえあればいつでも相手になろう」
夕暮れの空のようなポニーテール。
前髪の一部と顔の両サイドに垂れた部分だけが落ち着いた金色になっている。
「君は……」
基本的には女性と接することが苦手なオイラーではあるが、だからといって女性が見えない眼球なわけではない。
「ジルゼッタです」
「……本日もご苦労」
「今日は貴方に用がありここで待っていました」
女性ながら鋭い目つきのジルゼッタからそんなことを言われ、オイラーは少しばかり戸惑う。
「私に?」
形としては夫婦となっている二人だが、だからといって親しくしているわけではない。だからこそオイラーは唐突な展開に驚いていた。彼女の口からそのような言葉が出てくるとは欠片ほども想像していなかったのだろう。
「戦いましょう」
ジルゼッタは単刀直入に発した。
「な……」
「我々が分かり合うにはそれが最も効率的な方法かと」
それを聞き、オイラーは納得したような顔をした。
「……なるほど、そういうことか」
「ええ、そういうことです」
二人の視線が重なる。
こうして互いを見つめるのはこれが初めてだろう。
「アンを救ってもらった恩がある。……なのでこれは非常に断りづらい」
「お嫌で?」
「いや、そうじゃない」
「では」
「……ああ、私でよければ相手しよう」
女性と関わることを好まないオイラーではあるが、ここで断るのは難しいと考えた。だからジルゼッタからの申し込みを受け入れたのだ。相手が誰であれ、オイラーが女性と関わる道を選ぶのは異例のこと。
「懐かしいな、こういうのは」
王城の敷地内に位置する公園。
そこは遊具もろくにないような場所だ。
だからそれもそのはず、そこは一般的な公園とは異なる場所なのである。
公園とは名ばかりで、子どもが遊んだり一般市民が寛いだりそういった場所ではない。
「お嫌いではないでしょう?」
「……女性が相手というのは初めてのことだ」
オイラーは剣を。
ジルゼッタは薙刀を太くしたような武器を。
それぞれ手にしている。
「貴方とは一度戦ってみたいと思っていたのです」
「私は手加減が苦手だ、一応気をつけつつ動くようにはするが……」
戦闘開始直前の緊迫感。
穏やかな公園にそれが広がってゆく。
「遠慮は不要です」
「そうか」
先に動き出したのはジルゼッタ。一歩大きく踏み込んで前へ。その手に握られた武器、刃がオイラーに襲いかかる。ほんの一瞬のことであった。
オイラーは使い慣れた剣で刃を防ぐ。
「さすがですね」
「そちらこそ」
正直に言えば、オイラーには迷いがあった。
加減の仕方がまったくもって分からなかったのである。
国王として、否、それ以前に一人の男として、本来自身より腕力が弱いとされる女性を相手にすることには言葉にならない難しさがあった。
アンダーともこういう対戦はしたことがある。だが小柄とはいえアンダーは男性。体格差の優位はあれど性差はない。そういう意味ではここまで悩むことはなかった。そもそもアンダーがオイラーより器用なうえ強かった、というのもあるが。
二つの刃が火花を散らす。
交差する武器と武器。
形は違えど時に容赦なく人の命を奪うものであることに違いはない。
ジルゼッタは迷うことなくその二つの眼でオイラーを捉え攻め立てる。その瞳の鋭いこと。もはや女性のそれではなく、完全に戦士のそれであった。兵として生きてきた過去を彼女は最大限活かし戦っている。
そんな彼女が相手なものだから、オイラーは攻められる一方。
身体的には優位なはずなのに。
速度のある攻めに圧倒される。
「本当に、貴方は紳士でいらっしゃいますね。しかし戦いにおいては気遣いなど不要です」
「いや、ちが……」
「もしここが戦場でも、対峙した兵士が女であれば貴方はこのように手加減なさるのですか?」
冷たく問われ、オイラーはどう返すべきか判断できなかった。
「……不快にさせてしまったなら謝罪する」
怒っているのか?
単なる質問なのか?
それすらもよく分からない。
オイラーにとって女性の心というのは未知の領域であった。
「ただ質問しただけです」
「ではその問いに答えるべき、なのだな」
だが、真っ直ぐに向き合うことの重要性だけは理解している。
オイラーは剣の柄を握る手に力を込めた。
そして、数秒の間もなく、剣を全力で振った。
かなり押し込まれている状態ではあったが、そのひと振りで一気に押し返すことに成功する――躊躇いのない状態であればたとえ相手がジルゼッタであろうともすぐに負けることはない。
ジルゼッタは咄嗟に回避して大きく後退。
「私は敵には容赦しない」
オイラーは静かな表情で述べる。
「だが君は敵ではないだろう」
暫し、沈黙。
「そういうことなら、安心しました」
静寂を破ったのはジルゼッタ。
「貴方の勝ちです」
「なっ……」
驚き戸惑うオイラーを見て、ジルゼッタは静かに笑う。
「お付き合いありがとうございました」
二人の戦いは終わった。
「ジルゼッタさん……といったか」
「ええそうです」
「君は強かった」
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「もちろん。私でよければ、時間さえあればいつでも相手になろう」
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