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前編
しおりを挟む夜の闇に魔物が蔓延るこの国で、その恐ろしき敵に立ち向かう者たちはこう呼ばれていた――魔法少女。
そして、私リッシェリアもまた、魔法少女であった。
私がその役割に目覚めたのは今から数年前。思い返せばあれは十六の時だった。平均より少し遅めの覚醒で、その想定外の覚醒によって私はそれまでの人生設計を叩き壊されてしまった。
というのも、魔法少女は、世ではあまり良い存在とされていないのだ。
魔物と戦って穢れている――魔法少女のことをそんな風に言う者も少なくはない。
そして、当時の婚約者ヴィッチェルもまた、そういった思想の持ち主だった。両親が魔法少女を嫌っている人間だったので恐らくはその影響だろう。それゆえ、覚醒し魔法少女となった私を彼は受け入れられなくて。彼の両親はそれまでは可愛がってくれていたのに急に冷ややかになり、やがて、彼から直接婚約の破棄を告げられてしまった。
そうして私とヴィッチェルの縁は切れることとなった。
当時はとても悲しかった。
どうして私がこんな理不尽な目に、そう思ってしまって。
覚醒したくなかったのに。
脳内ではそんなことばかり繰り返していた。
だがある夜、私は、一人の青年を魔物から救うことができた。
「本当にありがとうございました! ほんっとうに、助かりました! あのままだったら……死ぬところでした。命の恩人の魔法少女さん! どうか、どうか、お名前だけでも教えてくださいませんか!?」
「リッシェリアです」
「ああ、女神のリッシェリア様……! ありがとうございました……! 生涯、感謝し続けます」
魔物を倒してこんなに感謝されるのは初めてで、正直戸惑いはあった。ただ、こんな人もいるのか、と思うことができて。すべての人が魔法少女を嫌っているのではない、そう知ることができたので、その日以降少し前向きになれるようになっていった。
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