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前編

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 私は花屋の娘として生まれた。

 けれどもそれを恥じたことはない。
 むしろ、私は、両親の仕事を尊いものだと思ってきた。

 だって、花は皆を笑顔にする。花屋はそのお手伝いができるのだから、幸せを生むことができるのだから、悪い仕事だなんて思ったことは一度もなくて。

 ……だから。

「花屋の娘なんぞと縁を持つんじゃなかったわ! てことで、婚約は破棄とする!」

 婚約者ボンボンにそう言われた時、私は驚くことしかできなかった。

 親の仕事を悪く言われたのなんて始めてで、ただきょとんとすることしかできなくて。それで何も言い返せないうちに、私は去ることを強要されてしまった。

 花屋の娘だから駄目なのか? 意味が分からない。理解不能だ。どうしてそんなことを平然と言えるの? 言われた方の気持ち、少しは考えないの? だとしたら、そんな心ない貴方の方がみっともないのではないの?

 ……でももういいです、そういうことなら私は貴方とは生きません。

 そう思い、私は彼とは二度と会わないことを決めた。
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