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2.仲間入り
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「で、ミリアムさんの知り合いの入りたい人ってのは誰なんだ?」
出会いの翌日、ミリアムは非能力者活動家たちをまとめる男性のところへ行った。
男性の名はパンという。以前ミリアムが聞いた話によれば、元々はエトランジェで酒屋を営んでいたらしい。妻子も共に店を営業していたのだが、ある時、銀の国から来ていた能力者の酔っ払いに妻子を殺されたのだとか。愛する家族を失い絶望の淵にいた時、自由を求め日々活動する若者たちと出会い、彼らに共鳴。それ以来、若者たちに力を貸すようになったのだそうだ。
もっとも、本人から聞いたわけではないので、その話もどこまでが真実かは不明だが。
「ロゼットという青年なの。彼は能力者なのだけど、非能力者に協力したいって……」
「そりゃ駄目だ」
ミリアムはロゼットについて説明する。
その説明を黙って聞いていたパンは、ミリアムの話が終わりを迎えるより先にロゼットの仲間入りを拒んだ。
「そんな、どうして!?」
能力者は良く思われないであろう、ということくらいは、ミリアムも想像していたことだろう。この街における能力者の立場がどういうものなのかは、かつてその身をもって体験したのだから。とはいえ、さすがに即答で拒否されるとは思わなかったらしい。ミリアムは目をパチパチさせながら、らしくなく大きめの声を発した。
「ここにいる輩が能力者を嫌っていることは、ミリアムさんだって知っているはずだ。ここにいる多くの者が、能力者から被害を受けたことがある人間だ。そんな中に能力者を入れるわけにはいかん」
パンは冷静に理由を加えつつ述べた。
ミリアムは目を細め、悲しげに「能力者だから受け入れられないなんてことはないはずよ……」と漏らす。さらに「私は能力者だけれど受け入れてもらえたわ……」と付け加えた。
「そりゃ、ミリアムさんは特別だからな。ミリアムさんは能力者たちにハッキリ言ってくれただろ? 『力ある者が力なき者を虐めてどうする!』って。あれで皆ミリアムさんに惚れたんだぜ」
パンは「ミリアムは特別」ということを述べる。
だがミリアムはまだ納得できない様子。
そんな時だ、パンとミリアムがいた部屋の扉を誰かがノックしたのは。
「パンさん! お客さんです!」
ノックに続いて届いたのは、昨日帰りしなのミリアムとすれ違った少女の声。咲き誇る向日葵のような、真夏の快晴の空のような、力強く瑞々しい声である。パンが「入れ!」と入室許可を出すと、バンと音を立てながら扉が開いた。乱雑な開け方に呆れたパンは「おいおい、もっと丁寧に開けーー」とそこまで言いかけて、言葉を飲み込む。立っていたのが少女一人ではなかったからだ。
「ロゼット!? そんな。貴方……どうしてここに!?」
少女の斜め後ろにロゼットの姿。
ロゼットの想定外の登場に、ミリアムは驚きを隠せない。
「どういうことだ? ミリアムさん。あの男が言ってた能力者なのか?」
「あ、えぇ。そうよ。確かに、彼がロゼットだわ」
少女は扉を開けたままにして室内へ進んでくる。ロゼットは入り口で一礼した後、少女に続いて室内へ踏み込んできた。
「ミリアムさん、まさか、ここまで仕組んでたのか……?」
「いえ。彼が来るなんて知らなかったわ」
「マジか。というか、いきなり勝手な行動するような男が本当に信頼できるのか? そこが疑問なんだが」
パンに怪訝な顔をされ、ミリアムは困ってしまう。だが、ミリアムが何も言えなくなった間を埋めるかのように、ロゼットが「初めまして」と挨拶した。彼は挨拶しながら足を動かし、パンの目の前まで進んでゆく。そして、一メートルほど離れた位置で停止する。パンは、初めて対面する能力者であるロゼットを、威嚇するかのように睨みつけた。だがロゼットはほぼ無反応。瞳の一つさえ動かさない。
「既に名が出ているかもしれませんが、僕はロゼットと申します。ミリアムさんの活動に感銘を受け仲間に加えてほしいと頼みました。迷惑だったらすみません」
威嚇したにもかかわらず何事もなかったかのように挨拶をされ、パンは戸惑ったような顔になる。
「お、おぅ……。俺はパンという。話は聞いてるぜ、アンタは能力者なんだってな」
「はい。しかし僕の能力は水、人を傷つけるほどの力はありません」
「水の能力者か。確かに、攻撃性は比較的低いと聞くな」
「よくご存知のようで助かります。おかげで話が早く進みます」
ロゼットは微笑みかけるが、パンはまだ警戒を解いてはいない。空間を満たすのは、相手を見定めようとしているような空気。ちなみに、それを放っているのは、当然パンの方である。
「だがな、ここにゃ能力者に恨みがある連中が多い。俺もまたそのうちの一人よ。つまり、特別でない能力者がここに身を置くのは危険ってことさ。それでもここに入りたいってのか?」
淡々とした調子で言葉を発するパンは、積極する教師のよう。ロゼットをここまで案内してきた少女は「話長すぎー」とでも言いたげな視線をミリアムへ向けていた。もちろん、こっそり、だが。
「なぜ敢えてリスクを負おうとする? そこが俺には理解できん」
「能力者の中では水の能力者はお荷物です。基本無能扱い、居場所なんてありません。それでこちらへ味方しようと考えたのです」
ロゼットは短い黒手袋をはめた右手を差し出す。
「戦闘要員で構いません。こんな僕ですが、お仲間に入れていただけませんか」
澄んだ瞳で真っ直ぐに見つめられたパンは「ぐっ……」と声を詰まらせる。
恐らく、反撃の言葉が見つけられなかったのだろう。
「……ったく、仕方ないな。良いだろう! 一応入れてやる!」
十秒ほどの沈黙の後、パンは、ロゼットが差し出していた手を勢いよく握った。
「ありがとうございます。感謝します」
「ただし! まだ本格的には仲間入りさせないからな!」
「構いません。これから、皆さんに信頼していただけるよう努めます」
意外な形でロゼットが仲間入りした。
出会いの翌日、ミリアムは非能力者活動家たちをまとめる男性のところへ行った。
男性の名はパンという。以前ミリアムが聞いた話によれば、元々はエトランジェで酒屋を営んでいたらしい。妻子も共に店を営業していたのだが、ある時、銀の国から来ていた能力者の酔っ払いに妻子を殺されたのだとか。愛する家族を失い絶望の淵にいた時、自由を求め日々活動する若者たちと出会い、彼らに共鳴。それ以来、若者たちに力を貸すようになったのだそうだ。
もっとも、本人から聞いたわけではないので、その話もどこまでが真実かは不明だが。
「ロゼットという青年なの。彼は能力者なのだけど、非能力者に協力したいって……」
「そりゃ駄目だ」
ミリアムはロゼットについて説明する。
その説明を黙って聞いていたパンは、ミリアムの話が終わりを迎えるより先にロゼットの仲間入りを拒んだ。
「そんな、どうして!?」
能力者は良く思われないであろう、ということくらいは、ミリアムも想像していたことだろう。この街における能力者の立場がどういうものなのかは、かつてその身をもって体験したのだから。とはいえ、さすがに即答で拒否されるとは思わなかったらしい。ミリアムは目をパチパチさせながら、らしくなく大きめの声を発した。
「ここにいる輩が能力者を嫌っていることは、ミリアムさんだって知っているはずだ。ここにいる多くの者が、能力者から被害を受けたことがある人間だ。そんな中に能力者を入れるわけにはいかん」
パンは冷静に理由を加えつつ述べた。
ミリアムは目を細め、悲しげに「能力者だから受け入れられないなんてことはないはずよ……」と漏らす。さらに「私は能力者だけれど受け入れてもらえたわ……」と付け加えた。
「そりゃ、ミリアムさんは特別だからな。ミリアムさんは能力者たちにハッキリ言ってくれただろ? 『力ある者が力なき者を虐めてどうする!』って。あれで皆ミリアムさんに惚れたんだぜ」
パンは「ミリアムは特別」ということを述べる。
だがミリアムはまだ納得できない様子。
そんな時だ、パンとミリアムがいた部屋の扉を誰かがノックしたのは。
「パンさん! お客さんです!」
ノックに続いて届いたのは、昨日帰りしなのミリアムとすれ違った少女の声。咲き誇る向日葵のような、真夏の快晴の空のような、力強く瑞々しい声である。パンが「入れ!」と入室許可を出すと、バンと音を立てながら扉が開いた。乱雑な開け方に呆れたパンは「おいおい、もっと丁寧に開けーー」とそこまで言いかけて、言葉を飲み込む。立っていたのが少女一人ではなかったからだ。
「ロゼット!? そんな。貴方……どうしてここに!?」
少女の斜め後ろにロゼットの姿。
ロゼットの想定外の登場に、ミリアムは驚きを隠せない。
「どういうことだ? ミリアムさん。あの男が言ってた能力者なのか?」
「あ、えぇ。そうよ。確かに、彼がロゼットだわ」
少女は扉を開けたままにして室内へ進んでくる。ロゼットは入り口で一礼した後、少女に続いて室内へ踏み込んできた。
「ミリアムさん、まさか、ここまで仕組んでたのか……?」
「いえ。彼が来るなんて知らなかったわ」
「マジか。というか、いきなり勝手な行動するような男が本当に信頼できるのか? そこが疑問なんだが」
パンに怪訝な顔をされ、ミリアムは困ってしまう。だが、ミリアムが何も言えなくなった間を埋めるかのように、ロゼットが「初めまして」と挨拶した。彼は挨拶しながら足を動かし、パンの目の前まで進んでゆく。そして、一メートルほど離れた位置で停止する。パンは、初めて対面する能力者であるロゼットを、威嚇するかのように睨みつけた。だがロゼットはほぼ無反応。瞳の一つさえ動かさない。
「既に名が出ているかもしれませんが、僕はロゼットと申します。ミリアムさんの活動に感銘を受け仲間に加えてほしいと頼みました。迷惑だったらすみません」
威嚇したにもかかわらず何事もなかったかのように挨拶をされ、パンは戸惑ったような顔になる。
「お、おぅ……。俺はパンという。話は聞いてるぜ、アンタは能力者なんだってな」
「はい。しかし僕の能力は水、人を傷つけるほどの力はありません」
「水の能力者か。確かに、攻撃性は比較的低いと聞くな」
「よくご存知のようで助かります。おかげで話が早く進みます」
ロゼットは微笑みかけるが、パンはまだ警戒を解いてはいない。空間を満たすのは、相手を見定めようとしているような空気。ちなみに、それを放っているのは、当然パンの方である。
「だがな、ここにゃ能力者に恨みがある連中が多い。俺もまたそのうちの一人よ。つまり、特別でない能力者がここに身を置くのは危険ってことさ。それでもここに入りたいってのか?」
淡々とした調子で言葉を発するパンは、積極する教師のよう。ロゼットをここまで案内してきた少女は「話長すぎー」とでも言いたげな視線をミリアムへ向けていた。もちろん、こっそり、だが。
「なぜ敢えてリスクを負おうとする? そこが俺には理解できん」
「能力者の中では水の能力者はお荷物です。基本無能扱い、居場所なんてありません。それでこちらへ味方しようと考えたのです」
ロゼットは短い黒手袋をはめた右手を差し出す。
「戦闘要員で構いません。こんな僕ですが、お仲間に入れていただけませんか」
澄んだ瞳で真っ直ぐに見つめられたパンは「ぐっ……」と声を詰まらせる。
恐らく、反撃の言葉が見つけられなかったのだろう。
「……ったく、仕方ないな。良いだろう! 一応入れてやる!」
十秒ほどの沈黙の後、パンは、ロゼットが差し出していた手を勢いよく握った。
「ありがとうございます。感謝します」
「ただし! まだ本格的には仲間入りさせないからな!」
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意外な形でロゼットが仲間入りした。
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