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3.案内
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パンはロゼットの加入を一応認めた。だがそれは仮加入のような形。パンはロゼットに「正式に加入するまでに皆から話を聞いておくこと」という課題を出した。これから仲間となるかもしれない者たちの話を聞いておくことが必要、と考えての課題だったのだろう。
ミリアムはロゼットと少女の二人と共に、一旦パンの部屋を出る。
通路に出た瞬間、少女が口を開く。
「相変わらず、話が長かったですね! 寝てしまうかと思いましたよ!」
「ふふ。はっきり言うわね」
「パンさんったら、いつも話が長いんです! 昨日のミーティングだって」
「ミーティングの時も話が長かったの?」
少女は不満げに頬を膨らませて「そうなんですよ!」と愚痴ろうとする。が、その瞬間にロゼットの存在を思い出したらしく、体の正面をロゼットの方へと向けた。
「えっと、お兄さん——ローズさんでしたっけ?」
「ロゼットです」
「ああ! そうでしたっ! バレッタさんでしたね!」
「いえ、ロゼットです」
「そ、そうでした! ごめんなさい。ロゼットさん!」
「はい。そうです」
少女は両手の手のひらで黒い前髪を整えてから、自己紹介を始める。
「わたしはサラダっていいます! よろしくお願いします!」
整った容姿の青年を前にして、少女——サラダは落ち着きを欠いてしまっていた。仲間には美男子が少ないので、耐性ができていないのかもしれない。普段通りの明るさを装っているようだが、明らかに、日頃の明るさとは違う振る舞い方になってしまっている。
「サラダさんですね。よろしくお願いします」
ロゼットは笑顔でそう挨拶し、ミリアムの方へ目をやる。
唐突に見られたミリアムは、どう振る舞うべきか分からず戸惑っていた。
「ミリアムさん、もし良かったら案内して下さいませんか」
「わ、私なの?」
「はい。境遇が似ている貴女となら、どこへでも行きやすいですから」
「それはそうね」
あまり構ってもらえなかったサラダは心なしか不満そうな顔をしていた。いつも通りニコニコしてはいるのだが、時折不満の色が微かに覗く。現時点での自身の立ち位置に納得できていないのかもしれない。
◆
ミリアムはロゼットをつれて施設内を歩くことにした。
そのついでに会えた人と話をさせれば良い、と考えたのだろう。
ロゼットは夜の湖畔のような静かな表情のまま、ミリアムの背中を追うように歩く。慣れない場所へ飛び込んできたのだろうに、緊張している様子はない。冷静さを保ち続けている。
「あ。ミリアムさん、どうも」
「三日ぶりね、スープ。今は何をしているの?」
ミリアムが最初に案内したのは、施設の一階にあるガレージ。そこは、活動家たちが使う自動車が置いてあるところだ。そして、その中には、車のメンテナンスを得意とする人物が滞在している。そのうちの一人がスープである。
「今は寛ぎ中っす。あ、でも、さっきまでは新しく購入した中古車の確認をしてたんすよー」
スープは二十代半ばの青年だ。身長は一八○センチ近くあり、やや肥え気味。ふっくらとした福を呼び込みそうな頬をしている。美男子と言うに相応しいほど整った顔立ちではなく、どこにでもいそうな平凡な目鼻立ちだが、自動車や機械をいじることは物凄く得意。その技術はかなりのものだ。
能力者だったなら、恐らく、銀の国で技術者として活躍できただろう。
ガレージにいる時、スープはいつもグレーのつなぎを着ている。上半身から足の先まで繋がった脱ぐのが大変そうな服をまとっているが、彼が脱ぎづらさに文句を言っているところをミリアムは見たことがない。
「そうだったのね」
「ところで。ミリアムさん、後ろの彼は? どなたっすか?」
スープに尋ねられて、ミリアムはロゼットの存在を思い出す。
「あぁ、そうだったわ。彼、仮ではあるけれど、仲間入りすることになったのよ」
「仲間入り?」
「ロゼットよ。彼は能力者なの。でも、私と同じように、ここの人たちの味方をしようとしてくれているわ」
ミリアムの紹介を聞いた瞬間、スープは近くの黒い自動車の後ろに隠れた。唐突な行動にミリアムは驚く。その数秒後、スープは車の陰から少しだけ覗いた。
「能力者は……怖いっすよ……」
スープは両足を激しく震わせていた。
「どうしてそんなに恐れるの? 怖がる必要はないわ、スープ」
ミリアムは困惑したような顔をする。
その後ろに立っているロゼットは真顔のまま。
「ム、ムムム、ムリ……」
「待って。私のことは怖がらないじゃない」
「そりゃ、ミリアムさんは……大丈夫すけど……」
「だったらロゼットも大丈夫よ。私と同じようなものだわ」
「それは違うっすよ! 同じじゃないっす!」
怯えてしまって到底まともに話せそうにないスープを見て、ミリアムは呆れたような顔をする。腕組みをして、溜め息を漏らし、「まったくもう……。どうしてそうなの」と呟いた。
「ミリアムさん。彼は能力者が苦手なのですね?」
「えぇ。そうみたいね」
「無理にとは言いません。彼が僕のことを恐れるのなら、今は次へ行きましょう」
「まぁ……そうね。それしかないわよね」
結局、スープがロゼットとまともに交流することはなかった。
「スープ、じゃ、私たちは移動するわね」
「オ、オッケーす!」
その後もミリアムはロゼットを連れていろんなところへ行った。
一人で行くことには慣れていても、誰かと行くことには慣れておらず、誰かと共に歩くのは彼女にとって新鮮なことだった。
また、能力者であるロゼットを連れて歩いたことによって、改めて感じたこともある。非能力者たちが能力者をどんな風に見るか、である。
ここにいる者たちは、今は、ミリアムのことを信頼している。それゆえ、能力者であっても、ミリアムは仲間に入れてもらえている。でも、そうでない能力者がこの場所へ入ったら、そういうわけにはいかない。ミリアムは、その事実を再確認することになった。
「大丈夫? ロゼット。心折れてない?」
「問題ありません」
「そう……貴方って、強いのね」
「いえ、そんなことはありませんよ。この反応は想像できていました。だから平気なのですよ」
気づかぬうちにかなり時間が経過していて、いつの間にやら夕方が近づいてきていた。
「ロゼット、これからはどうする?」
「僕は用事があるので一旦帰ります」
ロゼットが妙にきっぱりと言ったものだから、ミリアムは怪訝な顔になる。
「……用事?」
それに対し、ロゼットは微かに笑みを浮かべて返す。
「はい。それではそろそろ失礼します」
ミリアムはロゼットと少女の二人と共に、一旦パンの部屋を出る。
通路に出た瞬間、少女が口を開く。
「相変わらず、話が長かったですね! 寝てしまうかと思いましたよ!」
「ふふ。はっきり言うわね」
「パンさんったら、いつも話が長いんです! 昨日のミーティングだって」
「ミーティングの時も話が長かったの?」
少女は不満げに頬を膨らませて「そうなんですよ!」と愚痴ろうとする。が、その瞬間にロゼットの存在を思い出したらしく、体の正面をロゼットの方へと向けた。
「えっと、お兄さん——ローズさんでしたっけ?」
「ロゼットです」
「ああ! そうでしたっ! バレッタさんでしたね!」
「いえ、ロゼットです」
「そ、そうでした! ごめんなさい。ロゼットさん!」
「はい。そうです」
少女は両手の手のひらで黒い前髪を整えてから、自己紹介を始める。
「わたしはサラダっていいます! よろしくお願いします!」
整った容姿の青年を前にして、少女——サラダは落ち着きを欠いてしまっていた。仲間には美男子が少ないので、耐性ができていないのかもしれない。普段通りの明るさを装っているようだが、明らかに、日頃の明るさとは違う振る舞い方になってしまっている。
「サラダさんですね。よろしくお願いします」
ロゼットは笑顔でそう挨拶し、ミリアムの方へ目をやる。
唐突に見られたミリアムは、どう振る舞うべきか分からず戸惑っていた。
「ミリアムさん、もし良かったら案内して下さいませんか」
「わ、私なの?」
「はい。境遇が似ている貴女となら、どこへでも行きやすいですから」
「それはそうね」
あまり構ってもらえなかったサラダは心なしか不満そうな顔をしていた。いつも通りニコニコしてはいるのだが、時折不満の色が微かに覗く。現時点での自身の立ち位置に納得できていないのかもしれない。
◆
ミリアムはロゼットをつれて施設内を歩くことにした。
そのついでに会えた人と話をさせれば良い、と考えたのだろう。
ロゼットは夜の湖畔のような静かな表情のまま、ミリアムの背中を追うように歩く。慣れない場所へ飛び込んできたのだろうに、緊張している様子はない。冷静さを保ち続けている。
「あ。ミリアムさん、どうも」
「三日ぶりね、スープ。今は何をしているの?」
ミリアムが最初に案内したのは、施設の一階にあるガレージ。そこは、活動家たちが使う自動車が置いてあるところだ。そして、その中には、車のメンテナンスを得意とする人物が滞在している。そのうちの一人がスープである。
「今は寛ぎ中っす。あ、でも、さっきまでは新しく購入した中古車の確認をしてたんすよー」
スープは二十代半ばの青年だ。身長は一八○センチ近くあり、やや肥え気味。ふっくらとした福を呼び込みそうな頬をしている。美男子と言うに相応しいほど整った顔立ちではなく、どこにでもいそうな平凡な目鼻立ちだが、自動車や機械をいじることは物凄く得意。その技術はかなりのものだ。
能力者だったなら、恐らく、銀の国で技術者として活躍できただろう。
ガレージにいる時、スープはいつもグレーのつなぎを着ている。上半身から足の先まで繋がった脱ぐのが大変そうな服をまとっているが、彼が脱ぎづらさに文句を言っているところをミリアムは見たことがない。
「そうだったのね」
「ところで。ミリアムさん、後ろの彼は? どなたっすか?」
スープに尋ねられて、ミリアムはロゼットの存在を思い出す。
「あぁ、そうだったわ。彼、仮ではあるけれど、仲間入りすることになったのよ」
「仲間入り?」
「ロゼットよ。彼は能力者なの。でも、私と同じように、ここの人たちの味方をしようとしてくれているわ」
ミリアムの紹介を聞いた瞬間、スープは近くの黒い自動車の後ろに隠れた。唐突な行動にミリアムは驚く。その数秒後、スープは車の陰から少しだけ覗いた。
「能力者は……怖いっすよ……」
スープは両足を激しく震わせていた。
「どうしてそんなに恐れるの? 怖がる必要はないわ、スープ」
ミリアムは困惑したような顔をする。
その後ろに立っているロゼットは真顔のまま。
「ム、ムムム、ムリ……」
「待って。私のことは怖がらないじゃない」
「そりゃ、ミリアムさんは……大丈夫すけど……」
「だったらロゼットも大丈夫よ。私と同じようなものだわ」
「それは違うっすよ! 同じじゃないっす!」
怯えてしまって到底まともに話せそうにないスープを見て、ミリアムは呆れたような顔をする。腕組みをして、溜め息を漏らし、「まったくもう……。どうしてそうなの」と呟いた。
「ミリアムさん。彼は能力者が苦手なのですね?」
「えぇ。そうみたいね」
「無理にとは言いません。彼が僕のことを恐れるのなら、今は次へ行きましょう」
「まぁ……そうね。それしかないわよね」
結局、スープがロゼットとまともに交流することはなかった。
「スープ、じゃ、私たちは移動するわね」
「オ、オッケーす!」
その後もミリアムはロゼットを連れていろんなところへ行った。
一人で行くことには慣れていても、誰かと行くことには慣れておらず、誰かと共に歩くのは彼女にとって新鮮なことだった。
また、能力者であるロゼットを連れて歩いたことによって、改めて感じたこともある。非能力者たちが能力者をどんな風に見るか、である。
ここにいる者たちは、今は、ミリアムのことを信頼している。それゆえ、能力者であっても、ミリアムは仲間に入れてもらえている。でも、そうでない能力者がこの場所へ入ったら、そういうわけにはいかない。ミリアムは、その事実を再確認することになった。
「大丈夫? ロゼット。心折れてない?」
「問題ありません」
「そう……貴方って、強いのね」
「いえ、そんなことはありませんよ。この反応は想像できていました。だから平気なのですよ」
気づかぬうちにかなり時間が経過していて、いつの間にやら夕方が近づいてきていた。
「ロゼット、これからはどうする?」
「僕は用事があるので一旦帰ります」
ロゼットが妙にきっぱりと言ったものだから、ミリアムは怪訝な顔になる。
「……用事?」
それに対し、ロゼットは微かに笑みを浮かべて返す。
「はい。それではそろそろ失礼します」
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