エトランジェの女神

四季

文字の大きさ
15 / 57

14.挑戦?

しおりを挟む
 ロゼットがトイレ掃除の係になって数日が経過した、ある日のこと。
 いつも通りグレーのつなぎを着たスープがミリアムに話しかけてきた。

「ミリアムさん! ちょっといいっすか?」
「えぇ。何か用かしら」

 スープは基本いつも一階のガレージにいる。施設内とはいえ別のところに出歩くことはほとんどと言っても過言ではないくらいない。彼がガレージから離れるのは、全員が対象の招集がかかった時くらいのものだろう。そのくらい、彼はいつもガレージにいて、機械いじりをしている。

「その……実は頼みがあるんすけど」

 いきなり声をかけられたミリアムは、戸惑ったような顔をしてしまいながらスープに接する。

「あのロゼットって能力者の人に会いたいんすけど……」
「そうなの? どういう風の吹きまわしかしら。能力者は怖いのではなかったの」
「苦手っす。でも……その、この前は失礼なことをしたなって思って……」

 スープは真面目な顔をしている。それを目にしたミリアムは「嫌いになりたくて嫌いになったわけじゃないのだな」ということを再確認した。

「分かったわ。じゃあロゼットと会えるようにするわね」
「助かりまっす!」

 スープがロゼットと仲良くなってくれたら良いのにな。
 そんなことを思うミリアムだった。


 ◆


 夜、ロゼットの掃除の仕事が終わったタイミングを見計らって、ミリアムはロゼットに会いに行った。ちなみに、その場所は東側一階のトイレ前である。

「お疲れ様。ロゼット」

 両手を背中側で組み、上半身を少しだけ前に倒して、ロゼットに話しかける。

「あ。ミリアムさん」

 ミリアムの姿が視界に入った瞬間、ロゼットはほんの少し頬を緩めた。瞳には輝きが宿る。

「掃除はどう?」
「順調です。僕の能力を活かせるので、楽しく取り組ませてもらっています」

 トイレ掃除なんて、皆が喜んでする仕事ではないだろう。世の中を見渡せば、嫌がる人もきっと多いはず。けれども、ロゼットはトイレ掃除係を不快には思っていないようだった。むしろ楽しんでいるくらいだ。

「それは良かったわ」
「ありがとうございます。それで、用は何でしょうか?」

 ミリアムは前置きをしてから本題へ持ち込もうとする。が、ロゼットの方はそれとは逆で、速やかに本題へ入っていこうとしている様子だ。

「あぁ、そうだったわね。話すわ。前にガレージのところで会ったスープって人、覚えてる?」
「はい。覚えていますよ」
「あの人がね、ロゼットに会いたいみたいなの」
「能力者が苦手だったのでは?」
「そうなの。でも、改めて会ってみたいみたいで」

 ミリアムの発言を聞いたロゼットは奇妙なものを見たかのような顔をする。
 すぐには理解できない、とでも言いたげだ。

「前にあった時のことをね、気にしていたみたいなの。失礼だったなって思っていたようなの」
「失礼などではありませんよ。そうお伝え下さい」

 ロゼットは微笑んでそう述べるが、ミリアムは頭を左右に振る。

「ちょっと。どうしてそうなるのよ。そういう話をしているのではないのよ?」
「そうなのですか」
「スープと会ってくれるかしら?」
「ミリアムさんが仰るのであれば、もちろん、会うくらいお安い御用ですよ」
「ありがとう! じゃあスープのところまで案内するわね」

 掃除が完了した直後で疲れていたであろうロゼットだが、それを表情に出すことはしなかった。


 ◆


 ミリアムがロゼットを連れていったのはガレージ。スープが多くの時間を過ごしている場所だ。ガレージには工具やネジなど色々なものが落ちている。うっかり踏んだら痛そうなので、慎重に歩かねばならない。

「スープ! ロゼット来てくれたわよ!」
「はいーっす」

 ミリアムの声に反応し、スープの大きな体が自動車の下側からにょきっと現れた。

「ロゼットさん連れてきてくれたんすね!」
「そうよ」
「ちょっと待っててほしいっす。今からそっちに行くっすよー」

 手でぱんぱんを胴体を叩き、つなぎについた埃を払った。それから、厚みのある手袋を外し、手の甲で額の汗を拭う。汗の雫の一部は宙に舞うが、本人はそのことには気づいていない。そのまま、ミリアムとロゼットがいる方へと駆けてくる。スープの足はとても器用で、散らばっている工具やネジを上手く避けていた。

「ミリアムさん! お待たせしましたーっす」
「彼を連れてきたわ」

 ミリアムはロゼットを指が開いたままの手で示す。
 それに伴って、スープの視線がロゼットへと向いた。
 最初、スープは気まずそうな顔をした。以前のことがあるから気を遣っているのだろう。あるいは、ロゼットに怒られやしないかと心配になっているのかもしれない。何にせよ、迷いなく関わっていける自信はスープにはなかったようだ。

「お久しぶりです。スープさん」

 ロゼットは微笑みながらそう挨拶した。
 いきなり何事もなかったかのように言葉をかけられ、スープは戸惑ったような顔をする。

「ひ……久しぶりっす……」

 スープの声が段々震えてくる。否、震えているのは声だけではない。脚、手、胴体も、すべて震えてきてしまっている。悪魔の化身にでも会ったのか、というほどに、スープは震えていた。

「普通に話していただいて問題ありませんよ。僕もただの人間ですので」
「そ、そうすね……」
「能力者はそんなに恐ろしいものですか」
「ひゃんッ!」

 ロゼットの瞳が静かな光を宿していたのが怖かったのか、スープは悲鳴のような声をあげて数メートル後退した。

 意味が分からずきょとんとするロゼット。

 ミリアムは「これは本当に大丈夫なのか?」と不安に思いつつ、二人の様子を見守る。

「脅かしてしまいましたか。すみません」
「あーいやいや……その……大丈夫なんすよ。けど……」
「けど?」
「やっぱ怖いっすぅーっ!!」

 ミリアム以外の能力者とまともに関われるようになるのは、まだ難しそうだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました

鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。 けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。 そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。 シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。 困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。 夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。 そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。 ※他投稿サイトにも掲載中

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

異世界で王城生活~陛下の隣で~

恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。  グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます! ※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。 ※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。

イケメン警視、アルバイトで雇った恋人役を溺愛する。

楠ノ木雫
恋愛
 蒸発した母の借金を擦り付けられた主人公瑠奈は、お見合い代行のアルバイトを受けた。だが、そのお見合い相手、矢野湊に借金の事を見破られ3ヶ月間恋人役を務めるアルバイトを提案された。瑠奈はその報酬に飛びついたが……

処理中です...