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20.拘束
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何もない部屋。味方のいない部屋。そのただなかで疑いの目を向けられるのはロゼット。一歩誤れば痛い目に遭わされる可能性も否定できない現状ながら、ロゼットは冷静さを欠いてはいなかった。
「ごめんなさい、騙すようなことをして。でも、もし貴方が向こう側の人間であったなら、早めにここから追い出しておく必要があります」
サラダは落ち着いた様子でそんなことを言う。
もしその様子をミリアムが目にしたとしたら、きっと驚くだろう。なんせ、ミリアムはこれまで明るいサラダばかりを目にしてきたのだから。
だが、ロゼットは、サラダとそこまで関わってこなかった。
冷ややかな目を向けられてもそこまで驚かずに済んだのは、そのおかげかもしれない。
「どうやら……僕はかなり信頼されていないようですね」
「パンさんは庇ってもらってから信じたみたいですけど、わたしはあの人と同じように信用することはできませんでした」
密かに入ってきている男性が接近してきつつあることを、ロゼットは既に察している。が、だからといって狼狽えた様子を見せることはしない。
冷静に。
堂々と。
そうやって、ロゼットは立つ。
「……今さら隠すべきことなど、僕にはありません」
ロゼットは恐れも逃げもせずサラダの目を見つめる。
そして、静かに口を開いた。
「どういう意味ですか? ロゼットさん?」
「確かに、貴女が想像している通り、僕は元々銀の国の奴隷でした」
ハッとした顔をするサラダ。
男性はロゼットから一メートル離れた辺りで足を止めている。
「やはり……裏切り者でしたか……!」
予想が当たったと感じたようで、サラダは直前までよりほんの少しだけ晴れやかな表情になった。
難解な推理小説を読み終えた人のような顔つき、という表現が相応しいだろうか。
「ただし、今はもう銀の国の奴隷ではありません。こちら側の人間です」
ロゼットはほんの僅かに目を細めて切なげな表情をしながら、ゆっくりと言葉を述べる。
異性であればすぐに心奪われそうな、影のある男性の表情。
だが、それが、サラダを余計に警戒させてしまう。
「そんなことを言って油断させようとしても無駄です!」
まるで自分に言い聞かせるかのように、きっぱりと言い放つサラダ。
「このことはミリアムさんを知っています」
「ミリアムさんが? では、あの人も貴方も嘘つきだと言うのですか?」
「いえ、そうではありません。敢えて皆に言うことはないと僕が。ミリアムさんはそれで黙って下さっているのです」
ロゼットの背後に佇んでいる男性は、一切口を開かない。
じっとその場に立ち止まって、話の流れを見つめているだけ。
家具も置物もない室内に流れる空気は、数十秒前よりかはほんの少しだけ柔らかいものになっている。だが、緊張感が消え果てたわけではない。もちろん穏やかな雰囲気になったというわけでもない。
油断できない空気であることに変わりはないのだ。
「……そうですか。分かりました。でも、この程度でロゼットさんの言葉を完全に信じることは……できそうにありません」
サラダはそこまで言って、ロゼットの背後に立っている男性に視線で合図した。
その次の瞬間、ロゼットは背後から男性に拘束される。
これにはロゼットも驚かずにはいられなかったようだ。半ば無意識のうちに自由を奪われた腕を少し動かしてしまっていた。
「大人しくしろ」
「……っ!」
腕を反射的に動かしてしまったため、手首を捻られる。
ロゼットは詰まるような息を吐き出す。
「動くな。抵抗しなければ痛い目に遭わずに済む」
男性は愛想ない話し方をする人物だった。
聞き取りづらいほど低い声で、ぼそぼそと話す。
「……何をするつもりです」
「完全に信頼できるとなるまで拘束する」
「意味が分かりませんが」
「能力者は……非能力者からすれば、悪魔でしかない」
男性は両腕を拘束したままロゼットの体を床へとねじ伏せる。押し潰すような体勢を作り、ロゼットが自由に動けないようにした。
「悪いがこうさせてもらう」
いきなり拘束されたその時には驚きを隠せなかったロゼットだが、時間が経つにつれて冷静さを取り戻してくる。
「他人をいきなり悪魔よばわりですか。失礼な人ですね」
「なにもお前のことだけじゃない。ミリアムさん以外の能力者は、もはや、危険な存在としか言い様がない」
◆
能力者との戦闘を想定して行われる訓練、その会場へ向かうべく、ミリアムは通路を歩いていた。
その途中、偶然スープに出会う。
これまで彼と通路で会うことはほとんどなかった。それなのに、最近はよく遭遇する。不思議なものだな、と、ミリアムは密かに思う。
「偶然っすね! ミリアムさん!」
「また会ったわね」
スープは今日も埃で汚れたつなぎを着ている。
作業の合間にここを歩いていたのだろうか、と考えてしまうような状態だ。
「サラダ見なかったっすか?」
スープはいきなりそんなことを言ってくる。
「今日は見かけていないけれど……どうしたの? 何か用でもあったの?」
「そうなんす。実は、サラダに伝えなくちゃならないことがあって」
困っている様子の仲間を放っておくことはできない。
今のミリアムはそう思った。
「サラダのことを見た人がいないか探してみるのはどうかしら。手伝うわよ」
「ホントっすか!? 手伝ってくれるんすか!?」
「誰かに聞いてみるというのはどうかしら」
「いいっすね! 聞き込み! かっこいいっすよ」
こうして、ミリアムはサラダを探しているスープと共に行動することとなった。
「ごめんなさい、騙すようなことをして。でも、もし貴方が向こう側の人間であったなら、早めにここから追い出しておく必要があります」
サラダは落ち着いた様子でそんなことを言う。
もしその様子をミリアムが目にしたとしたら、きっと驚くだろう。なんせ、ミリアムはこれまで明るいサラダばかりを目にしてきたのだから。
だが、ロゼットは、サラダとそこまで関わってこなかった。
冷ややかな目を向けられてもそこまで驚かずに済んだのは、そのおかげかもしれない。
「どうやら……僕はかなり信頼されていないようですね」
「パンさんは庇ってもらってから信じたみたいですけど、わたしはあの人と同じように信用することはできませんでした」
密かに入ってきている男性が接近してきつつあることを、ロゼットは既に察している。が、だからといって狼狽えた様子を見せることはしない。
冷静に。
堂々と。
そうやって、ロゼットは立つ。
「……今さら隠すべきことなど、僕にはありません」
ロゼットは恐れも逃げもせずサラダの目を見つめる。
そして、静かに口を開いた。
「どういう意味ですか? ロゼットさん?」
「確かに、貴女が想像している通り、僕は元々銀の国の奴隷でした」
ハッとした顔をするサラダ。
男性はロゼットから一メートル離れた辺りで足を止めている。
「やはり……裏切り者でしたか……!」
予想が当たったと感じたようで、サラダは直前までよりほんの少しだけ晴れやかな表情になった。
難解な推理小説を読み終えた人のような顔つき、という表現が相応しいだろうか。
「ただし、今はもう銀の国の奴隷ではありません。こちら側の人間です」
ロゼットはほんの僅かに目を細めて切なげな表情をしながら、ゆっくりと言葉を述べる。
異性であればすぐに心奪われそうな、影のある男性の表情。
だが、それが、サラダを余計に警戒させてしまう。
「そんなことを言って油断させようとしても無駄です!」
まるで自分に言い聞かせるかのように、きっぱりと言い放つサラダ。
「このことはミリアムさんを知っています」
「ミリアムさんが? では、あの人も貴方も嘘つきだと言うのですか?」
「いえ、そうではありません。敢えて皆に言うことはないと僕が。ミリアムさんはそれで黙って下さっているのです」
ロゼットの背後に佇んでいる男性は、一切口を開かない。
じっとその場に立ち止まって、話の流れを見つめているだけ。
家具も置物もない室内に流れる空気は、数十秒前よりかはほんの少しだけ柔らかいものになっている。だが、緊張感が消え果てたわけではない。もちろん穏やかな雰囲気になったというわけでもない。
油断できない空気であることに変わりはないのだ。
「……そうですか。分かりました。でも、この程度でロゼットさんの言葉を完全に信じることは……できそうにありません」
サラダはそこまで言って、ロゼットの背後に立っている男性に視線で合図した。
その次の瞬間、ロゼットは背後から男性に拘束される。
これにはロゼットも驚かずにはいられなかったようだ。半ば無意識のうちに自由を奪われた腕を少し動かしてしまっていた。
「大人しくしろ」
「……っ!」
腕を反射的に動かしてしまったため、手首を捻られる。
ロゼットは詰まるような息を吐き出す。
「動くな。抵抗しなければ痛い目に遭わずに済む」
男性は愛想ない話し方をする人物だった。
聞き取りづらいほど低い声で、ぼそぼそと話す。
「……何をするつもりです」
「完全に信頼できるとなるまで拘束する」
「意味が分かりませんが」
「能力者は……非能力者からすれば、悪魔でしかない」
男性は両腕を拘束したままロゼットの体を床へとねじ伏せる。押し潰すような体勢を作り、ロゼットが自由に動けないようにした。
「悪いがこうさせてもらう」
いきなり拘束されたその時には驚きを隠せなかったロゼットだが、時間が経つにつれて冷静さを取り戻してくる。
「他人をいきなり悪魔よばわりですか。失礼な人ですね」
「なにもお前のことだけじゃない。ミリアムさん以外の能力者は、もはや、危険な存在としか言い様がない」
◆
能力者との戦闘を想定して行われる訓練、その会場へ向かうべく、ミリアムは通路を歩いていた。
その途中、偶然スープに出会う。
これまで彼と通路で会うことはほとんどなかった。それなのに、最近はよく遭遇する。不思議なものだな、と、ミリアムは密かに思う。
「偶然っすね! ミリアムさん!」
「また会ったわね」
スープは今日も埃で汚れたつなぎを着ている。
作業の合間にここを歩いていたのだろうか、と考えてしまうような状態だ。
「サラダ見なかったっすか?」
スープはいきなりそんなことを言ってくる。
「今日は見かけていないけれど……どうしたの? 何か用でもあったの?」
「そうなんす。実は、サラダに伝えなくちゃならないことがあって」
困っている様子の仲間を放っておくことはできない。
今のミリアムはそう思った。
「サラダのことを見た人がいないか探してみるのはどうかしら。手伝うわよ」
「ホントっすか!? 手伝ってくれるんすか!?」
「誰かに聞いてみるというのはどうかしら」
「いいっすね! 聞き込み! かっこいいっすよ」
こうして、ミリアムはサラダを探しているスープと共に行動することとなった。
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