エトランジェの女神

四季

文字の大きさ
24 / 57

23.到着

しおりを挟む
「この辺をあっちに行った。……そこまでしか分からないけど」

 サラダを目撃した少年が案内してくれたのは、非常に微妙なところまでだった。
 通路の途中で案内が終わってしまう。
 ミリアムとて、仕方ないとは思っている。少年はサラダに同行していたわけではないのだから、最後まで分からないのは当然のことだ。少年に罪はない。ミリアムとしては、少しでも足取りが分かっただけで幸運だった。

「ここから、あっちへ進んでいったのね?」
「……うん。そういうこと」
「それより先は知らないのね?」
「うん。知らない」
「分かったわ。参考になったわ、ありがとう」
「……じゃあこれで」

 少年は役割を果たし終えると素早く去っていく。
 なぜなのかはミリアムには分からない。が、ミリアムたちと共に歩くことを彼は嬉しく思っていなかったみたいだ。

「こっちに行ってみましょう? スープ」
「そうすね」

 少年と別れ、ミリアムとスープは歩き出す。
 サラダを発見することを目標としたまま。


 サラダを探して通路を歩いていたミリアムは、何やら騒々しい部屋があることにふと気づく。

 そこは確かあまり使われていない部屋だったはず——ミリアムは違和感を覚える。

「ミリアムさん?」

 彼女のほんの少し後方を歩いていたスープが戸惑いを露わにする。

「……あそこの部屋、何だか騒々しいわね」

 ミリアムは眉間にしわを寄せながらそんなことを述べる。
 一応スープの言葉に返したのだろうが、どちらかといえば独り言に近いような言い方だ。

「あの部屋使われてたんすねぇ」
「確か……以前は使われていなかったはずよね」
「そうっすね!」
「……気になるわ」

 立ち止まっていたミリアムは、急に再び足を動かした。彼女が向かっていっているのはなぜか騒々しい部屋。その足取りに躊躇いはなかった。


 ミリアムは廊下を迷いのない足取りで進み、何やら騒々しい部屋の前で立ち止まる。

 その時、ミリアムは戦慄した。
 男に絡まれるロゼットの姿が視界に入ったからだ。

 ミリアムはロゼットに声をかけたかっただろう。だがすぐには動けなかった。動揺が瞳から全身へと波紋を広げてゆく。そのただなかで、彼女は言葉を発することも動くこともできなくなっていた。

 そんな時だ、スープが声を発したのは。

「サラダ! ここにいたんすね!」

 ミリアムはロゼットとそれを取り囲む男性たちの方へ意識が向いていた。だが、付近にはサラダの姿もあって、スープはそちらに意識を向けていた。

「探したんすよ! うーんっと困ってたんすよ!」

 スープは大きい体を揺らしながらサラダに接近していく。
 だが、サラダは温かく迎えなかった。

「……そこで止まって」
「へ? 今、何て?」
「止まってって言ってるの!」

 強く言われたスープはショックを受けたような顔をする。
 だが、スープがショックを受けるのも、まんざらおかしな話ではない。いつも向日葵のようだった少女が突然鋭い物言いをしてきたら、誰だって驚くとともに頭を殴られたような気分になるだろう。

「スープ、今はそれ以上こっちへ来ないで」

 サラダは冷ややかに述べる。
 その口調には、ミリアムもさすがに違和感を抱かずにはいられなかった。

「さ、サラダ? 一体何を言ってるんすか……?」
「邪魔しないで!」
「……わ、分かったっす……けど……」

 スープはそこまでで唇を結ぶ。
 続きが、まだ何か言いたいことがありそうだったが、彼はそれ以上言葉を発することはしなかった。

「サラダ。これは一体どういう状況なの?」

 スープが一旦黙ったところで、ミリアムがサラダに話しかける。
 ロゼットが手足を縄で縛られている。しかも、男性に取り囲まれ、威圧的な言葉をかけられたり睨まれたりしているのだ。さらに、今にも暴力行為に至りそうな者だっていた。
 何がどうなってこんなことになっているのか、ミリアムには理解ができない。

「……ミリアムさん、貴女もわたしたちを騙していたんですね」
「え」

 サラダの口から出た冷ややかな言葉に驚き、ミリアムはたいしたことは返せなかった。

「ロゼットさんは裏切り者だったんですよね」
「……裏切り、者?」
「彼から聞きました。銀の国の人間としてここに現れたと」

 ミリアムはロゼットの事情を知っている。彼が銀の国から送り込まれた人間であったことも、本人から既に聞いた話だ。それゆえ、改めてサラダの口から聞かされても、そこまで衝撃を受けたりはしない。

「驚かないんですね。ミリアムさん」

 ロゼットと銀の国の繋がりについて初めて聞いたスープはオロオロしている。

「……既に知っていたから、ですか?」

 サラダのその彼女らしくない目つきにミリアムは困惑した。
 彼女はこんな人だっただろうか、と、自身の中で何度も問いを繰り返す。
 能力者をよく思わない人間はたくさんいて、けれども、サラダはそんな中でも比較的気さくに接してくれた。最初は遠慮がちではあったが、それでも、少しずつ親しくなって。ミリアムは、サラダとは友達のようになれていると思っていた。

 でも違ったのか?

 ミリアムは複雑な心境になる。

 親しくなれたなんて幻想だった?
 最初から仲良くなれるはずがなかった?

 ミリアムの脳内は、今、そんな言葉に満たされている。考えたくなくても考えてしまうのだ、能力者と非能力者の間にある壁のことを。

「知っていたんですよね、ミリアムさんは。ロゼットさんがあちら側から来た人間だって」
「……えぇ。本人から少しだけ事情を聞いたわ」

 今さら隠すことなんてできまい。それならば本当のことを言った方が良い。ミリアムはそう考えて、何も隠すことなくすべてを晒け出すことを決めた。

「でも、わたしたちには言わなかった! そうですよね」
「言う必要はないと思ったわ」
「貴女がわたしたちに一言でも伝えてくれたなら、もっと早くロゼットさんを追い出せました!」
「待って、サラダ。貴女は何を言っているの?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました

鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。 けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。 そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。 シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。 困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。 夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。 そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。 ※他投稿サイトにも掲載中

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

異世界で王城生活~陛下の隣で~

恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。  グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます! ※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。 ※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。

イケメン警視、アルバイトで雇った恋人役を溺愛する。

楠ノ木雫
恋愛
 蒸発した母の借金を擦り付けられた主人公瑠奈は、お見合い代行のアルバイトを受けた。だが、そのお見合い相手、矢野湊に借金の事を見破られ3ヶ月間恋人役を務めるアルバイトを提案された。瑠奈はその報酬に飛びついたが……

処理中です...