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24.対峙
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仲間内のことであれば大抵のことには対応できると考えていたミリアムだったが、これにはさすがに相応しい対応はできない。彼女自身、それを感じていた。
そもそも、いつも明るく接してくれたサラダがこんな冷ややかな接し方をしてくること自体理解できない。
これまでずっと見てきた明るく可愛いサラダは、どこへ行ったというのか。
「ミリアムさんのことは信じていました。エトランジェに希望を与えてくれると、迷いなく信じていたのです。……でも。今はもう信じられません!」
サラダはそんなことをはっきり言い放つ。
ミリアムはただ呆然とすることしかできない。急に過激なことを言われ、どう対応するのが最良なのかが判断できなくなってしまっているのだ。
ただ、妙に過激なサラダを目にして戸惑っているのはミリアム一人ではなかった。敵意を向けられている当人ではないが近くにいるスープも、ミリアムと同じように呆然としている。彼もまたサラダをよく知る人物だ。だからこそ、サラダの豹変ぶりに驚きの感情を抱いているのだろう。
「話を聞いてちょうだい、サラダ。私もロゼットも無害よ」
「言い逃れしようとしても無駄です」
ミリアムは誤解を解くため説明しようとする。しかしサラダは聞く耳を持たない。二人の望みが重なることはなかった。
「言い逃れじゃないわ!」
「声を荒くする時点で善良でないことが分かります」
「ちょっ……どうしてそんな言い方をするの!?」
「言い方を話し合うことに意味なんてありません。能力者は敵です」
まったくもって話が通じない。ミリアムは段々挫けそうになってくる。何を言ってもまともに聞こうとしない相手に言葉をかけることほど虚しいことはない。
「ミリアムさん、今のサラダは何かちょっとおかしいっすよ」
「……スープもそう思う?」
「そうっすよ。だってほら、サラダがミリアムさんにこんなことを言うなんて、今までなかったじゃないっすか」
スープの意見を聞いて、ミリアムは少しだけ安堵する。
自分がおかしいわけではなかったと理解できたから。
——刹那。
「おい! てめぇ! そんな目つきすんなやっ」
一人の男性が乱暴な声を発しながらロゼットを蹴り飛ばした。
四肢を拘束されているロゼットは、抵抗することもできず蹴られ、転がるようにして飛んでいく。
「ロゼット!」
視界の端にロゼットが入ったことに反応し、ミリアムは叫ぶ。
「何を言おうが無駄ですよ、ミリアムさん」
「……サラダ、あんな暴行を許すつもり?」
サラダに恨みはない。彼女に何かしら負の感情を抱いているわけでもない。それは誓える。でも、だからといって、ロゼットが蹴り飛ばされているのを黙って見ていることはできない。そして、ロゼットが傷つけられるところを見ても助けようとしないサラダを、何も思わず受け入れることもできない。
——それがミリアムの心だ。
「能力者でスパイですから」
「今日の貴女はどうしてそんななの!?」
「これが普通です。優秀な能力者様を非能力者が助ける必要なんてないはずです」
迷いなく、サラダは心ないことを述べた。
きょとんとするのはスープ。
その時、床に転がっていたロゼットの背を一人の男性が踏みつけるのがミリアムの視界に入る。暴力行為を制止するため男性たちの方へ走ろうとするミリアムだったが、サラダに進行方向に立たれてしまう。
立ちはだかるのが見知らぬ男なら、突き飛ばしてでも直進しただろう。
だが、相手がサラダだと、そういうわけにはいかなかった。
ミリアムはロゼットを暴力の海から救い出したい。けれど、パンが可愛がっているサラダに乱暴なことはできない。それにミリアムは能力者。だからなおさら、非能力者に手を出すことはできないのだ。格闘家が手を出せない、という状況に似ている。
「サラダ! おかしいっすよ!」
ミリアムが突っ込んでいくことを躊躇した直後、スープが直進した。
彼がターゲットとしていたのはサラダ。
スープはサラダに体当たり。だが、サラダが怪我しないよう配慮しているところはあるらしく、抱き締めるような形になる。
「ミリアムさん! 今っす!」
「あ、ありがとう」
これでミリアムにとって最も厄介な壁は消え去った。
今ならロゼットを助けに行ける。
ミリアムはロゼットがいる方へと駆けていく。男性数名に勝てる気はしないが、それでも、ロゼットのためなら少しくらい無理はできるのだ。
「足を離しなさい!」
ロゼットの背を踏んでいる男性に、ミリアムは体をぶつける。
体当たりはさすがに想定していなかった男性は、「ひょふぁ!?」と情けない声を漏らしてよろける。体は大きいが、だからこそ彼はバランスが悪かった。結局転倒には至らなかったが、足の裏がロゼットの身から離れた。
「ミリアムさん……!」
いきなり突撃してきたミリアムを見たロゼットは、不思議なものを見たかのような顔つきをする。
「ロゼット、何してるのよ! 逃げなさいよ!」
「すみません」
「もう! 気をつけてちょうだい!」
「……は、はい。しかし……自由には動けません」
ミリアムはロゼットと男性たちの間に入り、男性を睨みつける。
「貴方たちもよ! なんてことをするの!」
非能力者たちにだからきついことを言うわけではないのだ。
相手が能力者だろうがそうでなかろうが、ミリアムの行動に変化はない。
「ロゼットが何かしたというのなら話は聞くわ。でも……暴力は止めて」
ミリアムは険しい顔で男性たちと対面する。
彼女とて超人ではない。己より大きく強い肉体を持つ人間を前にすれば、恐怖心だって抱く。もし殴られたら。もし蹴られたら。そんな悪い展開を想像しないわけではない。
そもそも、いつも明るく接してくれたサラダがこんな冷ややかな接し方をしてくること自体理解できない。
これまでずっと見てきた明るく可愛いサラダは、どこへ行ったというのか。
「ミリアムさんのことは信じていました。エトランジェに希望を与えてくれると、迷いなく信じていたのです。……でも。今はもう信じられません!」
サラダはそんなことをはっきり言い放つ。
ミリアムはただ呆然とすることしかできない。急に過激なことを言われ、どう対応するのが最良なのかが判断できなくなってしまっているのだ。
ただ、妙に過激なサラダを目にして戸惑っているのはミリアム一人ではなかった。敵意を向けられている当人ではないが近くにいるスープも、ミリアムと同じように呆然としている。彼もまたサラダをよく知る人物だ。だからこそ、サラダの豹変ぶりに驚きの感情を抱いているのだろう。
「話を聞いてちょうだい、サラダ。私もロゼットも無害よ」
「言い逃れしようとしても無駄です」
ミリアムは誤解を解くため説明しようとする。しかしサラダは聞く耳を持たない。二人の望みが重なることはなかった。
「言い逃れじゃないわ!」
「声を荒くする時点で善良でないことが分かります」
「ちょっ……どうしてそんな言い方をするの!?」
「言い方を話し合うことに意味なんてありません。能力者は敵です」
まったくもって話が通じない。ミリアムは段々挫けそうになってくる。何を言ってもまともに聞こうとしない相手に言葉をかけることほど虚しいことはない。
「ミリアムさん、今のサラダは何かちょっとおかしいっすよ」
「……スープもそう思う?」
「そうっすよ。だってほら、サラダがミリアムさんにこんなことを言うなんて、今までなかったじゃないっすか」
スープの意見を聞いて、ミリアムは少しだけ安堵する。
自分がおかしいわけではなかったと理解できたから。
——刹那。
「おい! てめぇ! そんな目つきすんなやっ」
一人の男性が乱暴な声を発しながらロゼットを蹴り飛ばした。
四肢を拘束されているロゼットは、抵抗することもできず蹴られ、転がるようにして飛んでいく。
「ロゼット!」
視界の端にロゼットが入ったことに反応し、ミリアムは叫ぶ。
「何を言おうが無駄ですよ、ミリアムさん」
「……サラダ、あんな暴行を許すつもり?」
サラダに恨みはない。彼女に何かしら負の感情を抱いているわけでもない。それは誓える。でも、だからといって、ロゼットが蹴り飛ばされているのを黙って見ていることはできない。そして、ロゼットが傷つけられるところを見ても助けようとしないサラダを、何も思わず受け入れることもできない。
——それがミリアムの心だ。
「能力者でスパイですから」
「今日の貴女はどうしてそんななの!?」
「これが普通です。優秀な能力者様を非能力者が助ける必要なんてないはずです」
迷いなく、サラダは心ないことを述べた。
きょとんとするのはスープ。
その時、床に転がっていたロゼットの背を一人の男性が踏みつけるのがミリアムの視界に入る。暴力行為を制止するため男性たちの方へ走ろうとするミリアムだったが、サラダに進行方向に立たれてしまう。
立ちはだかるのが見知らぬ男なら、突き飛ばしてでも直進しただろう。
だが、相手がサラダだと、そういうわけにはいかなかった。
ミリアムはロゼットを暴力の海から救い出したい。けれど、パンが可愛がっているサラダに乱暴なことはできない。それにミリアムは能力者。だからなおさら、非能力者に手を出すことはできないのだ。格闘家が手を出せない、という状況に似ている。
「サラダ! おかしいっすよ!」
ミリアムが突っ込んでいくことを躊躇した直後、スープが直進した。
彼がターゲットとしていたのはサラダ。
スープはサラダに体当たり。だが、サラダが怪我しないよう配慮しているところはあるらしく、抱き締めるような形になる。
「ミリアムさん! 今っす!」
「あ、ありがとう」
これでミリアムにとって最も厄介な壁は消え去った。
今ならロゼットを助けに行ける。
ミリアムはロゼットがいる方へと駆けていく。男性数名に勝てる気はしないが、それでも、ロゼットのためなら少しくらい無理はできるのだ。
「足を離しなさい!」
ロゼットの背を踏んでいる男性に、ミリアムは体をぶつける。
体当たりはさすがに想定していなかった男性は、「ひょふぁ!?」と情けない声を漏らしてよろける。体は大きいが、だからこそ彼はバランスが悪かった。結局転倒には至らなかったが、足の裏がロゼットの身から離れた。
「ミリアムさん……!」
いきなり突撃してきたミリアムを見たロゼットは、不思議なものを見たかのような顔つきをする。
「ロゼット、何してるのよ! 逃げなさいよ!」
「すみません」
「もう! 気をつけてちょうだい!」
「……は、はい。しかし……自由には動けません」
ミリアムはロゼットと男性たちの間に入り、男性を睨みつける。
「貴方たちもよ! なんてことをするの!」
非能力者たちにだからきついことを言うわけではないのだ。
相手が能力者だろうがそうでなかろうが、ミリアムの行動に変化はない。
「ロゼットが何かしたというのなら話は聞くわ。でも……暴力は止めて」
ミリアムは険しい顔で男性たちと対面する。
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