エトランジェの女神

四季

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25.能力者、非能力者

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 サラダはスープがその身をもって止めてくれている。
 ミリアムは、危機感を抱きつつも、ロゼットと男性たちの狭間にある。

「おいおい。何の真似だ?」
「ねぇちゃん、邪魔しないでくれよ!」

 男性二人がほぼ同時に言葉を発した。
 言葉以上の圧をかけるような、脅すような口調で。

「威圧しても無駄よ。まずはなぜこんなことになっているのかを説明してくれるかしら」

 ミリアムとて、手を出してきそうな男性に対して恐怖を抱かないわけではない。いくら能力者であったとしても、一斉に殴りかかられれば危険であることは確かなのだから。

 けれども、それがロゼットを護らない理由にはならない。

 ロゼットには護ってもらったことがある。恩がある。だからなおさら、こんな危険なところに放置しておくわけにはいかないのだ。

「そいつが銀の国の手先だからだ! 能力者は敵。能力者は潰す。それだけだろ!」

 二人並んでいる男性のうちの片方がそんなことを述べた。

 青年と表現するには年を重ねすぎているが、中年と呼ぶには少し若い。そんな男だ。少しうねった天然パーマ風の黒髪。ひげはきちんと剃られていて艶やかな顔面。見た感じ、そこまで悪そうには見えない。どこにでもいそうな雰囲気の男性で、凶悪そうな雰囲気をまとっているわけでもない。

 けれども、実際の言動はやや過激。
 人間の見た目と中身は必ずしも一致しているものではない、それを強く感じさせる人物である。

「落ち着いて。感情的にならないで、冷静に話してちょうだい」
「退いてくれ!」
「いいえ。暴力を見逃すわけにはいかないわ」

 ミリアムは相手を下手に刺激しないよう心がけつつ言葉を返す。
 こういう時こそ、きちんと言葉を選ばなくてはならない。感情的にならず、慎重に言葉を選んで話す。この状況下だからこそ、それが特に重要になってくるのだ。

「ねぇちゃんは自分も能力者だから分からないだろうけどな! こっちは辛いんだよ!」
「能力者に複雑な想いを抱いているのは分かるわ。能力者の私にはすべてが分かるわけではないでしょうけど……理解はできる。でも、だからといって暴れて良いわけではないのよ」

 男性は「いい子ぶっても意味はないぞ!」と勢いよく口を尖らせる。

 ミリアムが何を言ってもほぼ無意味だった。結局、彼の耳には届かない。ミリアムがどれほど訴えようとも、それで変わる男性の心ではなかった。彼の心に植えられた黒い感情は、どんな言葉をもってしても流し去ることはできないのかもしれない。

 その時、もう一人の男性が足を動かし始めた。
 ロゼットを庇うような体勢でいるミリアムに、みるみるうちに接近してくる。

「いくら美人でもだからって従えるわけじゃねぇぞ!」

 先ほどまでミリアムと会話していた男性に比べると、接近してきている彼は怖そうな見た目をしている。いかにも裏社会の人、というほどの圧や怖さはなくとも、それなりに迫力のある外見だ。特に顔面が厳つい。

「ロゼットにまだ手を出すつもり!?」

 ミリアムはロゼットを庇うように少し腰を上げ、鋭く言い放つ。

「男の話に入ってくんな! 今ならまだ見逃してやる。退け!」

 現在ミリアムは男性二人と対峙しているが、もう一人いる男の存在を忘れてはいなかった。
 この部屋でロゼットに絡んでいた男は二人だけではない。もう一人いるのだ。
 彼はミリアムの方へ進んではこない。ただ、室内で起きていることをじっと見ているだけ。言葉も発さない。完全に傍観者。

 ある意味、一番怪しい存在と言えるかもしれない。

「嫌よ。暴力行為を見逃すことはできないわ」
「そんなことばっかだな! ホラ! 退け!」
「通さな……きゃ! 何するの。乱暴に掴まないでちょうだい」

 ミリアムの袖に包まれた細い腕を掴むのは厳つい男性。

「能力者として痛い目に遭わされたいのか!? あぁ!?」
「いいえ! なるべく歩み寄るつもりよ」
「歩み寄るぅ? 馬鹿か! そんなら黙ってさっさと出ていけや!」

 ミリアムの右腕に厳つい男性の手が食い込む。男性も多少は配慮していたようで、全力で掴んではいなかった。が、それでも強く握られれば痛みは走る。ミリアムの心に恐怖が芽生え、それが膨らんだ時——男性の腕に電撃が走る。

「あぐぁぁッ!?」

 人口密度の高い室内に響く男性の悲鳴。

 皆、愕然とする。
 当人であるミリアムでさえ、何が起きたのかすぐには把握できない。

「う……うぐ……! ぐぅ……!」

 男性はもう一方の手で腕を押さえつつ、呻き声を漏らす。
 袖は焼けて黒くなっていた。

「そんな……」

 ミリアムは意図的に能力を発動したわけではなかった。だが、彼女の電撃を発生させる能力は、確かに発動されていた。男性の袖が焦げているのを目にすれば、能力が発動したことを疑う者はいないだろう。もちろん、彼女自身もその一人だ。

「ごめんなさい! うっかり!」
「……ってぇ」

 先に会話していた方の悪そうには見えない男性は、目の前で起きたことを理解できず、顔面を引きつらせている。怯えたような目つきをしていた。

「平気!? ……手当てしなくちゃ。医務室に行って……」

 ミリアムは慌てて相手の男性に近づくが、男性はミリアムを受け入れなかった。

「く、来るな!!」

 男性は化け物を見るような目でミリアムを見る。
 非能力者の男性のあまりにも弱々しい姿に、ミリアムは言葉を詰まらせる。

「人間の皮を被った化け物め!!」
「……手当て、して」
「寄るな! 絶対寄るなよっ!!」

 男性は電撃を受けた腕を庇うような仕草を見せつつも扉の方へと駆け出す。
 涙目になりながら、部屋から出ていってしまった。

 一部始終を至近距離で目撃したもう一人の男性も、一匹で肉食獣の群れに襲われた小動物のような顔つきをしている。ミリアムのことをさりげなく一瞥することはあっても、じっと直視することはない。ミリアムを真っ直ぐに見ることを心の底から恐れているかのようだ。

 そうして気づいた時、ミリアムは皆から恐れの視線を向けられることになっていた。

 サラダまでも恐れているような表情を浮かべている。

「ろ、ロゼット……これって、どうしたら……」
「まずは皆さんに落ち着いていただきましょう」
「落ち着いてって……その……どうすれば? そのまま言ったら……?」
「そうですね。言ってみますか」
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